投稿者 いがらし 日時 2001 年 11 月 01 日 23:23:20:
「テロ⇔報復」の“無間地獄”が始まった!
取材・文:草薙厚子 取材・動画撮影:島田健弘 動画編集:金澤智康
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■ 1週間以内に新たなテロが起きる
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「米国の国内外の施設などに対する新たなテロ攻撃が来週にかけて起きるという信頼すべき情報がある」
アシュクロフト米司法長官は10月29日、テロに関する緊急警告を発した。もちろん現在アメリカを大きく揺るがしている炭疽菌テロではない。国内か国外かわからないともコメントしていたが、89もの米軍施設が存在する日本は十分標的となりえるのだ。
28日にはパキスタンやフィリピンでイスラム過激派によると見られるテロ事件で死者が相次いだ。ビンラディンと関係のあるテロ組織はインドネシア、マレーシア、フィリピンから中東諸国に広がっている。 なぜビンラディンと連動したテロが発生するのか。卑劣な同時多発テロ事件ではあるが、その根本的な原因はイスラエルとパレスチナ問題に行き着くと指摘する専門家は多い。
「イスラエル人はパレスチナ人から自らを守るために戦車を持ち出す。事実上パレスチナ暫定自治合意(通称・オスロ合意)が破壊されているような状態です。国連決議では、イスラエルが間違っているという決議を出そうとするとアメリカが拒否権を発動して潰してしまう。だから、イスラム教徒の人たちは『アメリカのことは許せない』と思っているわけです。インドネシアやマレーシアは比較的穏健なイスラム国家ですが、実際にやるのはアルカイダなどというテロ組織、世界60ヵ国に組織があり、5000人の構成員がいます」(『タリバン』の共訳者・共同通信社客員論説委員伊藤力司氏)
ところでアフガニスタンへの報復爆撃は実効を上げているのだろうか。ラムズフェルド米国防長官は28日、アフガニスタンでの軍事作戦について、「空爆は予定どおり進んでおり、効果を上げている」と強調、メディアの間で広がりつつある「泥沼化」との見方を否定した。しかし、軍事問題に詳しい朝日新聞編集委員の田岡俊次氏は懐疑的だ。
「アメリカとしては非常に苦しい戦い。激しい航空攻撃をやっていると言われていますが、驚くほど小規模なのです。初日は華やかだったけど、それでも爆撃機15機と艦載攻撃機25機という全部で40機という規模ですよ。湾岸戦争のときの2400機という数に比べれば遥かに少ない。あとはカブールに1機の米軍機が飛来して爆弾を投下したただけです」
実際、米軍は誤爆を繰り返し、特殊部隊も地上に降りたものの、2時間で引き上げている。米中央情報局(CIA)が送り込んだとされる元反ソ連戦の司令官であったアブドゥル・ハク氏もタリバンに拘束、銃殺刑となった。同時にハク氏は、タリバンの内部分裂を起こさせるための工作費5000万ドル(約60億円)とトラック3台分の武器、衛星電話2台をも奪われた。アメリカはタリバン政権分裂のキーマンを失ったうえに、タリバンに巨額の資金を提供するという大失態を演じてしまったのだ。
米国はタリバンに対抗する北部同盟に肩入れしているが、実は足元は揺らいでいる。
「北部同盟は悪いことばかりしてきたので民衆から支持されず、タリバンに北の方に追いやられていたわけです。インドは(敵対関係にある)パキスタンに対する嫌がらせとして、北部同盟を支援してきた。北部同盟をアメリカが支援すれば、アメリカがインド側についたことになるからパキスタンが怒る。パキスタンが怒ると基地もつかえないし領空通過もできなくなる。そこで、アメリカの立場はふらふらする。片方では自分の損害は避けたいから戦争は北部同盟にやらせるということになるわけです。そうすると北部同盟にしたらいい面の皮で、危ないところはやれ、だけど政権はとらせないぞと言われ、誰がそんな都合のいい話に乗るものかということです」(前出・田岡氏)
仮に首都カブールを北部同盟が取ったところで、タリバン政権が壊滅するわけではない。アフガニスタンで多数派のパシュトゥン人からなるタリバン政権は、民衆の支持があり、山の中に篭り抵抗し、ゲリラ戦は続くということになる。
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■ ブッシュ大統領こそ「ならず者」
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参議院議員の佐藤道夫氏(民主党)はブッシュ大統領こそ「ならず者だ」と言い切る。
「『証拠があれば第3国で裁判に処しましょう』とタリバンが提案しています。これは文明国の提案ですよ。それを『ならず者が何を言うか』とブッシュ大統領がつっぱねましたが、ならず者というのはブッシュ氏自身なんですよ。何百年来人間が苦心に苦心を重ねて裁判制度を作り上げたのに、西部劇みたいにあいつが犯人、それでは、すぐ死刑。あの時代じゃないのに、いまアメリカがやろうとしているのはまさにそれです」
アメリカ偏重のマスコミ報道ではなかなか真実が見えてこない。
「イスラム諸国の大統領とか首相とかはアメリカに従います、と言っているけれども民衆は全くそう思っていません。ビンラディンは英雄だとかいって手を叩いているのです。世界中に12億か13億人、地球上の5人に1人がイスラム教徒です。その圧倒的多数が貧しい人たちです。アメリカに対する怒りというか、イスラエルに対する怒りは海底にぶつぶつ煮え滾ってるような状況があるわけです。そうすると仮にビンラディンが捕まっても、今後彼らの中から第2第3のビンラディンが出てくる可能性があります」(前出・伊藤氏)
「テロ→報復→テロ」の悪循環から脱する手段はあるのだろうか。
「アメリカが勝てるシナリオが描けない状況です。しかし、タリバンを倒さず、ビンラディンを捕まえずに負けましたと帰るわけにはいかない」(前出・田岡氏)
右手で殴って左手で握手を求める男
米国の空爆によって、イスラム教徒は反キリスト教徒感情をますますつのらせており、世界的な宗教対立の構造に陥ってしまう可能性が出てきた。米国政府は世界的愚挙どころか世界を破滅に導きかねない危険な作戦を行っていることをどこまで認識しているのだろうか。
ブッシュ大統領は「Friendship Though Education」(教育による友情)というプログラムを10月25日に提案し、米国とイスラム圏の小学校3校を各々選び、交流を深めることを決めた。インターネットでメールを出し合って、まず文通から始めようというものである。片一方で空爆を続けながら友情を求めるのは至難の技である。