投稿者 ザワヒリ博士 日時 2001 年 11 月 25 日 18:23:58:
「アルカイダ核兵器資料」報道の顛末
Farhad Manjoo
2001年11月20日 2:00am PST 1979年、『再現不可能結果ジャーナル』誌(Journal of Irreproducible Results)という科学ユーモア雑誌の頭のイイ記者が、簡単に世界を破壊する方法を書き上げた。
おふざけで書かれていることは誰の目にも明かなこの記事は、「熱核爆弾装置を作ろう!」と題されており、『素人科学者』シリーズに掲載された。「兵器レベルのプルトニウムを最寄りの店」で手に入れる方法から、「完成した装置を隣人や子どもの目から隠す」方法にいたるまでの10段階を詳細に述べている。
このような記事が核兵器の作り方を正確に詳述していないのは、誰が見てもわかる。しかし、アフガニスタンのカブールにある、見棄てられた「アルカイダの隠れ家」内を捜索した英国人記者たちがこの記事を発見し、テロリストたちに核兵器を使う意図があった証拠を手に入れたと報道したようだ。
11月15日付けの『ロンドン・タイムズ』紙に、ジャーナリストのアンソニー・ロイド氏は、「分子レベルの話ばかりを取り上げた物理や化学関連のマニュアルの傍らに」問題の文書を発見し、まごついてしまったと書いている。
「専門用語はすぐに私の理解の域を超えてしまった」とロイド氏。しかし、ロイド氏でも理解できる文章が目にとまった。「化学記号や物理用語が並ぶ中に、誰でも理解できるフレーズがあった。TNT火薬の起爆によってプルトニウムを臨界質量に圧縮して核連鎖反応を引き起こし、最終的には熱核反応を起こす方法の説明文などだ」
TNTによる圧縮と「臨界質量」の部分が、『再現不可能結果ジャーナル』誌の記事に関連していることは間違いない。この記事は『原爆の作り方』という題名でインターネット上に採録され、広く公開されている。その一部は以下のようなものだ。
「基本的に、爆発したTNTがプルトニウムを臨界質量に圧縮したときに、この装置は作動する。臨界質量がドミノ式連鎖反応(1968年3月付けのコラム欄、『行進するドミノ』参照)に似た核連鎖反応を起こす。連鎖反応がすぐに大きな熱核反応を起こす。そして、10メガトン規模の爆発が起きるというわけだ!」
上に引用した部分と、今回の報道が取り上げた文章の類似性に最初に気がついたのは、不気味なニュースサイト、『ザ・デイリー・ロットン』だ。デイリー・ロットンでは、イギリスのBBC放送のジョン・シンプソン記者が送ったテレビ報道から取り出した文書映像をフィーチャーしている。
タリバンやアルカイダばかりでなく、新進気鋭のイギリスの記者たちまでがインターネット上のおふざけを、本物の核処方箋と勘違いしたことに、マーク・エイブラハムズ氏は驚いている。エイブラハムズ氏は、『再現不可能結果ジャーナル』誌(現在は休刊)の元編集者で、『ありえそうもない研究の記録』(Igノーベル賞のスポンサー)という後継誌を編集している。
「あの記事はどこをとってもほとんどが冗談だった。タリバンにユーモアのセンスのあるやつがいたか、『熱核反応装置』という言葉が入った文章をネット上からすべてダウンロードしていたかのどちらかだ」とエイブラハムズ氏。
エイブラハムズ氏の主張は正論だ。科学の知識が全くなかったとしても、この記事をまじめに受け取るとはかなりお粗末だ。たとえば、ステップ2を見てみよう。
「精製された純プルトニウムは、どっちかというと危険性が高いことを忘れないように。プルトニウムに触れたら、石鹸と温水で手を洗おう。子どもやペットのおもちゃにしたり、食べさせたりしてはいけない。プルトニウムの残りかすは虫よけにぴったりだ。鉛の箱を近くのゴミ捨て場で見つけたなら、その中に保管してもいい。古いコーヒー缶でも十分間に合う」
最終ステップはこうだ。「これで君は見事な熱核反応装置を手に入れた! パーティーでの話題作りにも、ピンチの際には、国家防衛にも使えるよ」
BBCのシンプソン記者は、この報道以前、先週はじめにしでかした大失策について、現在ロンドンでこってり絞られている。タリバンから解放されたカブールからの報道で、シンプソン記者は奇怪なことに、勝利は米国や北部同盟の尽力によるものではなく、BBCのおかげだなどと言い出した。
「この街を開放したのはBBCの人間だけだ。これがどんなに嬉しいか言葉で言い表わせないほどだ。誰よりも一歩先んじることに成功したBBCを、私は非常に誇りに思っている」
ロイター通信はもう1人別の記者にインタビューを行なっている。この記者はシンプソン記者の発言について次のように語っている。「ジョン・シンプソン氏とB52爆撃機の類似点は多々あるが、タリバン追放により大きな貢献をしたのはどちらかは、火をみるよりも明らかだ」
シンプソン記者はのちに自分の発言について謝罪した。英国内の新聞報道によれば、この件に関して「全く、非常にばつの悪い思いをしている」と語ったという。
自社記者がジョーク記事に翻弄された件について、BBCとタイムズ紙からコメントを得ることはできなかった。両報道機関が記者たちと同じく恥ずかしいと思っているかどうかも不明だ。
[日本語版:岸田みき/湯田賢司]