投稿者 いがらし 日時 2001 年 10 月 26 日 17:00:35:
米軍などによるアフガニスタンでの軍事行動が続く中、戦争の大義やアフガン民衆への被害状況を巡る「情報戦争」も、し烈さを増している。米政府は積極的な情報提供で国際社会の理解を取り付ける姿勢だが、情報の流れを統制できるタリバンの方が、報道の自由があるために批判や都合の悪い情報も出る米国より、逆に優位に立てる面もあり、軍事面で圧倒する米側も、こと宣伝効果ではやや苦戦する形勢となっている。(ワシントン 貞広貴志、林路郎)
《1》情報操作?
◆タリバンの“誇張”に神経 一方で市民の犠牲発表せず
米国防総省高官は24日、内外メディアを同省に集め、「情報戦」をテーマに背景説明の機会を設けた。「米軍は情報戦でタリバンにどう対抗するのか」と詰め寄る記者団に、同高官は間髪を入れず「このような会見を開くことですよ」と回答、あわてて「冗談だ」と否定した。戦争遂行のためメディアを管理すると言わんばかりの発言に一瞬、白けムードが漂った。
だが、実際、世界的ネットワークを持つテレビなどを通じた情報戦が、国際世論を左右し、米国が目指す国際テロ包囲網作りの成否にも影響するのは確かだ。
米軍は特に、タリバンが空爆犠牲者の悲劇を誇張したり、現場をねつ造した情報操作に乗り出すことに最も神経をとがらせている。イラクのフセイン政権も使った手口で、米軍兵士の士気にも影響しかねない。
タリバンは今月14日、米軍の空爆を受けたとされる東部の村に外国人記者15人を突如入国させ、「人口約400人の村で200人が死んだ」と発表。CNNテレビなどは「独自に検証できない」としつつ、現場の映像付きで報道した。
同高官は背景説明の場で、〈1〉実際に米軍が空爆した現場とねつ造された現場では倒壊した建物の様子が違う〈2〉タリバンは悲しむ女性や子供をテレビで多用する〈3〉タリバンが外国人記者の取材ツアーを組む場合、意図的に記者を危険にさらす可能性がある〈4〉「誤爆」の誇張は米軍の能力に疑問を抱かせ、イスラム世界での反米感情をあおる心理戦――などと強調。タリバンの発表をうのみにするな、と報道陣の説得を試みた。
しかし、当の米側は、これまでの市民の犠牲者数を「不明」とするだけで一切発表していない。これが、空爆の悲劇性を消し去ろうとする逆の情報戦ではないかと一部米国内メディアが勘ぐり始める事態にもつながっている。
同高官は、「タリバンは真実を隠し、偽りを伝播(でんぱ)する情報戦の古典技術を駆使している」と訴え、タリバン発の戦況情報に慎重な取り扱いを求めた。さらに、アフガンに投下した援助食料に「タリバンが毒を盛り、米国に責任をなすりつける行動に出るかもしれない」とする警告まで発した。こうした一連の発言は、思惑通りに進まない情報戦への米当局のいらだちの裏返しとも取れる。米側とタリバンの虚々実々の駆け引きが続く。
《2》ラジオ対決
◆届かぬ空からの説得
アフガニスタンの上空をゆっくり旋回する大型の軍用機から、連日、現地語のラジオ番組が放送されている。「あなたには選択は1つしかない。今すぐ降伏すれば生かしておく。手を上げて米軍の方に行きなさい」――。各種無線機能を搭載した電子戦機EC―130Eは、爆弾の代わりに米国の宣伝を地上に落とす「空中ラジオ局」だ。テレビが禁じられ、識字率も低いアフガンで、米国は民衆に直接語りかける手段としてラジオを重視している。
番組は13パターン。タリバン兵に対する「米軍の爆弾はあなたの家の窓に正確に落とせる」との警告から、国民向けに「米軍はテロ組織打倒のため来ており、あなたの生活を変えるつもりはない」と訴えるものまである。最近はタリバンが禁止した音楽番組も取り入れるなど、聴取率を高める工夫もしている。
だが、専門家の評価は辛い。有力シンクタンク、ブルッキングス研究所のピーター・シンガー研究員は、「軍事以上に大切なイメージ戦争で、米国は勝っているのかわからない」と指摘する。
事実、EC―130Eの放送が本格的に始まったのは今月半ばで、タリバン政権下で唯一のシャリーア・ラジオが、「イスラム教徒がキリスト教徒に虐げられる戦争という被害者意識」をさんざん植え付けた後だったという。米軍は巡航ミサイル2発を撃ち込んで同ラジオをいったんは放送停止に追い込んだが、タリバンは小規模な施設を使って放送を再開した模様で、「空中ラジオ局」の手ごわい“ライバル局”となっている。
《3》情報制限
◆テロ組織へ筒抜け懸念 国防長官“検閲”にも言及
同時テロ発生後、ブッシュ政権はほぼ連日、テレビを通じ「対テロ戦争」の現況を説明する機会をもうけている。国務省は広告業界出身のシャルロッテ・ビアーズ氏を次官に登用、国防総省もブリーフィングの全文を数時間後にはインターネットで公開するなど、政府をあげて情報発信機能の強化にあたっている。
だが、問題は、米軍の展開などをメディアに流せば、結果的に国際ネットワークを持つテロ組織に筒抜けになる点だ。このため、米政府は情報管理にはきわめて神経質になっている。
「このビル(国防総省)にいるだれかが、人々に、ひいてはテロ組織に情報を出した。決して好ましいことではない」。今月22日、特殊部隊のアフガン潜入情報が漏れたことにラムズフェルド国防長官が怒りを爆発させたのが好例だ。
潜入情報が報じられた19日の夜、国防総省と主要メディアの代表が不用意な報道により作戦に支障が出るのを避ける方策を話しあった。同長官は席上、「『検閲』を含め話し合いたい」と率直に問題提起。結局、微妙な内容の場合、メディア側が事前に当局側に打診することを申し合わせたといわれる。
軍関係者によると、「情報戦の戦い方」は1990年代半ばから論議されてきた。だが、現実には情報を出すほどに米国が守勢に回る印象もある。皮肉にも、外国人記者を制限し都合のいい情報しか流さないタリバンのプロパガンダの方が、希少価値が出て大きく取り上げられる傾向があるからだ。「我々は情報戦に負けつつある」(ロン・フォーゲルマン元空軍参謀長)との危機感も出始めている。
(2001年10月26日)