投稿者 佐藤雅彦 日時 2001 年 10 月 24 日 16:08:17:
●ウェストナイル熱はアフリカだけのウイルス感染症ではなく、
旧大陸の大部分に広がっている疾患なのですが、近年まで
発症例がなかったアメリカで感染が見つかったことで、一種の
パニック状態になっていました。なにしろイラクによる生物兵器
説まで喧伝されているのですから。
●こういう病気が――これは鳥の体内で増えて蚊からヒトへ
伝播する病気なのですが――こういう時期に発生すると、
ただでさえ「炭疽菌テロの背後にはイラクがいるにちがいない。
イラクを攻撃せよ」というイラク主敵論が勢いを得ているので
すから、それに油を注ぐことは間違いないでしょうね。
●しかし、99年にニューヨーク州でこの熱病のアウトブレイクが
起きる以前から、実は米国陸軍の方面で病原ウイルスの研究が
行なわれていました。いずれそのデータを紹介したいと思います
が、研究に関与していた連中は1989年にロックフェラー大学の
呼びかけで開催された「突発出現ウイルス」研究会議に、軍の
生物戦争専門家たちといっしょに参加していた面子です。
●日本では「エマージングウイルス」とか、厚生省が名付けた
「新興感染症」などとして知られている“新奇なウイルス感染症”に
ついては、「90年代はじめにWHOが提唱した」みたいに紹介されて
きましたが、実はこの概念や用語は、ロックフェラー大学のウイルス
研究者スティーヴン・モースが考案したようです。(この人物は炭疽
菌騒動の際もコメンテイターとしてメディアに登場していました。)
上述の会議の内容は、『突発出現ウイルス』(海鳴社、1999年)
に詳しく再録されているのですが、同書では、遺伝子改造などで
新型ウイルスが作り出されている現状をまったく無視し、新型ウイ
ルスが次々と発生しているのを強引に自然環境のせいにしよう試
みている努力を全編にわたって見ることができますし、そればかりか、
ウイルスの遺伝子のどこをどういじれば凶暴化し、どのような条件を
備えれば最強の猛毒ウイルスを作り出せるか、とか、「空気伝染する
スーパーエボラ出血熱」がアフリカで発生した場合に米国本土を感染
から防衛するためにどういう軍事行動が必要か、などが詳細に検討
されています。
まるで新型ウイルスによる大破局を“仕掛けておいてそれを乗り
切る”ための議定書みたいな書物であり、ロックフェラー財団への
賛辞もときどき登場するという実に興味ぶかい内容になっています。
ところが、こうした内容ゆえか、原書はオックスフォード大学出版会
から発行された――しかも執筆陣はアングロアメリカ圏のノーベル賞
クラスのトップ科学者ばかりという――“由緒正しい”書物なのに、
日本では完全に無視されてきたわけ。
●オーストラリアでは、増えすぎたウサギを間引きするために猛毒
ウイルスを散布する試みが実際に行なわれてきたわけですし、英国
の有名な移植外科医は、テメエが5人も子供をもうけてきたのに
「世界人口は増えすぎたから第三世界に不妊ウイルスをばらまいて
人口の人為抑制を行なうべきだ」と公言して世界中で論議を巻き起
こしたりしています。 つまりアングロアメリカ圏では、生物兵器で
間引きを行なうというアイディアや実践が、すでに冗談や奇想の域を
越えているのです。 ……ですから、新型感染症を人為流行させる
可能性は否定できないわけですが、そうしたアイディアの学術的根拠
を知るには、『突発出現ウイルス』は絶対に読んでおくべき本です。
●宣伝になって恐縮ですが、そういうわけで同書の紹介サイトを
挙げておきます――
【1】アマゾン:http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/detail/glance/-/books/4875251890/qid=1003905442/ref=sr_sp_re_1_25/249-5102645-4420330
【2】ESブックス:http://www.eshopping.ne.jp/bks.svl?start&CID=BKS503&shop_cd=1&qty=1&product_cd=30516407&pg_from=srh
【3】bk−1:http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3bd649faf3815010709c?aid=&bibid=01668048&volno=0000
【4】yahoo books:http://www.google.com/search?q=cache:WyyKfgAInmE:asyura.addr.com/sora/bd6/msg/959.html+%93%CB%94%AD%8Fo%8C%BB%83E%83C%83%8B%83X&hl=ja
●それから、昨年春、投稿を始めた頃に、阿修羅「空耳の丘6」に関連
記事を書いていたのを思い出したので、以下にリンク先を付けておきます。
『突発出現ウイルス』はなぜ登場したか(出版資料)
http://www.google.com/search?q=cache:WyyKfgAInmE:asyura.addr.com/sora/bd6/msg/959.html+%93%CB%94%AD%8Fo%8C%BB%83E%83C%83%8B%83X&hl=ja
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●ダラス・モーニング・ニュースに掲載された
ルイジアナ州での
ウェストナイルウイルス感染第1例を
伝えた記事
http://www.dallasnews.com/texas_southwest/STORY.e9bc7d3f61.b0.af.0.a4.b763b.html
Newsfront
10/24/2001
Louisiana: West Nile virus infects man
KENNER, La. -- A Kenner man has been confirmed as the state's first human to contract the potentially deadly West Nile virus.
The middle-age man, said to be a drifter, is in stable condition at Kenner Regional Medical Center, a hospital representative said. The man frequented an area where five dead birds tested positive for the virus in recent months.
"I don't think we are going to have an outbreak," said Dr. Raoult Ratard, state epidemiologist. "It's very late in the season."
The man, whose identity was not released, was admitted to Kenner Regional on Sept. 29. Officials would not elaborate.
Twenty-five people have been infected and one has died this year from the virus, which causes brain inflammation. The patients were in Connecticut, New Jersey, Maryland, Florida, and Georgia. Mosquitoes transmit the disease, which is not otherwise contagious. Few people develop symptoms.
●Louisiana: Encephalitis outbreak at end, officials say
MONROE, La. -- The worst encephalitis outbreak in state history is over, though it's possible that additional cases may be identified, health officials say. No new St. Louis encephalitis cases have been reported in northwest Louisiana in more than a week, and the Office of Public Health lab in New Orleans has only a few cases still being tested. Sixty-nine people -- all but five in Ouachita Parish -- were hospitalized with the disease since Aug. 8. At least three died.
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【参考資料】
国立感染症研究所の解説ページ
http://www.nih.go.jp/vir1/NVL/WNVhomepage/WN.html
West NileVirus(西ナイルウイルス)
フラビウイルス科フラビウイルス属に属する。日本脳炎ウイルスやセントルイス脳炎ウイルスに近い。鳥類(野生と飼育の両方)に感染するが時に哺乳類にも感染し、ウマ科では時に脳炎をおこす。ヒトでも発病する。鳥が西ナイルウイルスに感染して発病したり、死んだという報告は過去には少なかった。
潜伏期間;5-15日
臨床症状:多くは不顕性感染におわるが発症した場合以下のような病態となる。
通常型は急激な熱性疾患として発症し、頭痛、背部痛、メマイ、発汗、時に猩紅熱様発疹(約半数の症例で認められる)、リンパ節腫大、口峡炎を合併する。患者は第3ー7病日に解熱し、短期間に回復する。発熱はニ峰性を示すこともある。
脳炎型は重篤で高齢者によくみられる。中央アフリカでは激症肝炎を併発した症例が報告されている、また心筋炎や膵炎を併発した例もある。
臨床検査所見は、白血球減少、脳炎患者の髄液では細胞増加とタンパク上昇が認められる。
治療法は、対症療法である。ウイルスは発症初期の血液から分離されることが多い。
実験室内診断:
患者の急性期の血清からウイルスを分離するか、RT-PCR法によりウイルス遺伝子(RNA)を検出する。確定診断のためには、血清診断よりも信頼性が高い。
IgG抗体は日本脳炎ウイルス等他のフラビウイルスに対して交叉反応を示すので注意を要する。IgM捕捉ELISA法により特異的IgM抗体を検出することにより診断できる。ただし、日本脳炎と西ナイルウイルスは極めて近い抗原性(図2参照)を示すため、症例によっては中和抗体価で判定する必要が生じる場合が予想される。しかし、中和抗体による場合診断にやや時間がかかる。
図1.発生地域:地図参照 (省略)
【引用者注:アフリカ中央部の大部分、インド、ロシア、欧州の一部など】
図2.ウイルス系統樹 (省略)
JE:日本脳炎ウイルス・ WN:西ナイルウイルス・ DEN:デングウイルス
Vero細胞に感染し増殖したWN virus (Eg101)
(原図:国立感染症研究所)←(図は省略)
主としてCulex(イエカ)の吸血によって感染し、アフリカ(ウガンダ、コンゴ、中央アフリカ、マダガスカル、ケニア、エジプト)、地中海沿岸(フランスのカマルグ地方)インドのきわめて広い地域に分布している。Culex(イエカ)のなかでもアフリカや中東においてはCulex univittatusとCulex pipiens molestusが、アジアにおいては、Culex tritaeniorhynchus(コガタアカイエカ)主要な媒介蚊である。
感染環:West NileウイルスはCulex-トリのサイクルで維持されている。トリ以外の中間宿主としてはコウモリも考えられている。ダニにも感染するがダニが媒介するという確証はない。
発生時期:温帯地域では、西ナイル熱・脳炎が発生するのは夏の後半から初秋にかけてである。
遺伝子的に極めて類似したKunjinウイルスはオーストラリアに分布しており、ときにヒトで脳炎をおこす。West Nileウイルスと同じく、馬では致死的な脳炎をおこす。
近年の流行:今回のニューヨークにおける流行以前にも、1994年アルジェリア、1996年ルーマニアにおいて流行した。
<1999年のニューヨークにおける西ナイルウイルス感染症>
● 臨床症状は発熱(98%)、消化器症状(80%)、異常な精神状態(64%)、頭痛(53%)、筋力低下(40%)、項部硬直(29%)、発疹(18%)が代表的な症状で、このうち筋力低下は比較的特徴的な症状といえるようである。
● 臨床的には、筋力低下を伴う脳炎(40%)・脳炎(27%)・無菌性髄膜炎(24%)であった。単に頭痛を伴う発熱を呈した症例が9%であった。なお初期の症例ではギランバレー症候群と診断された症例があったそうである。West Nile脳炎は髄膜脳炎であり、髄膜炎症状のみを呈する場合がある。
● 62例が実験室内診断でWest Nile脳炎と確定診断し、そのうち7人(11%)が死亡した。62例の内訳は、New York City (n=46), Westchester Co.(n=9), Nassau Co.(n=6), Canada (n=1)であった。なお、カナダ人の発症例は、ニューヨーク市のQueensを訪問し、帰国して5日後に発病した輸出症例(カナダからみれば輸入症例)である。
●下水道から集めてプールした蚊から、またRed tail Hawkの脳から、この2月にWest Nileウイルスが分離された。したがって、ウイルスが越冬したと考えられる。
<2000年、夏の流行状況>
●5月下旬から、ハドソン河などで死亡したカラスが見つかるようになり、脳・腎臓・肝臓などからWest NileウイルスがPCR等で検出され、今年も流行する可能性が大きくなった。カラス以外にもblue jay, Red tail hawkなども感染して死亡している。
●CDCのの発表によれば、2000年4月から11月の期間中21例のヒト感染者が発病しうち二人が死亡しており、その内訳はコネチカット州では235例中1例、ニュージャージー州では55例中6例、ニューヨーク市では検討した512例中14例であった。ニューヨーク市以外のニューヨーク州では検討した589例中WNV感染者はみられなかった。2000年の流行の中心は、1999年、多くの発病者を出したQueens地区よりやや南西に位置するStaten Islandである。
*鳥に関して:
2000年、12州の鳥4,139羽からウイルスが分離された。12州は、ニューヨーク州・ニュージャージー州・コネチカット州・マサチューセッツ州・ロードアイランド州・メリーランド州・ペンシルベニア州・ニューハンプシャー州・バージニア州・デラウェア州・ノースカロライナ州・バーモント州とワシントンDCである。
l Culex pipiens、Culex restuansとCulex salinariusは主として夕方から夜明けにかけて活動が活発であり、またAedes japonicusとAedes triseriatusは昼間に刺す蚊であって、これらが西ナイルウイルスに感染していることが明らかになっている。
<2001年の状況>
2001年7月15日に、フロリダ州(Madison郡)で西ナイル熱のヒト患者例1例
(64歳女性)が確認されたようです。さらにフロリダでもう一例患者(73歳男性)が発生したようです。9月29日現在7例の患者が確認されている模様です。
7月26日ニューヨークでも患者が発生したようです。患者は73歳女性(Staten Island)で脳炎症状で31日に入院した。8月16日ウイルス性髄膜炎で入院した44歳の男性(Staten Island)もWNVが原因と判明した模様。さらにQueensでも1症例が報告され9月21日現在、ニューヨーク市では5人の患者でWNV陽性が確認されている。
ジョージア州アトランタで71歳女性が8月11日西ナイル脳炎により死亡した。
ニュージャージー州で72歳の女性患者が発生したようです。
メリーランド州で72歳の男性患者が確認されたと9月6日発表されました。その後1例の患者が発生している。(9月8日)
コネチカット州で3例の患者が発生した(9月7日)
( 以上の情報は未確定情報も含みます。)
● 成田空港検疫所では、昨年7月末より出国ゲートにアメリカ東海岸への旅行者に西ナイル脳炎についての警鐘ポスターを掲示していましたが、9月6日より、入国ブースに「アメリカ東海岸から帰国される方へ」というポスターを掲示し、「熱」等の症状の有る方また「蚊にさされた記憶があり」心配な方に対して、血液検査をしますという呼びかけを実施しています。希望される方は成田空港検疫所健康相談室までお申し出下さい。
●アメリカ東海岸からその他の空港へお帰りになって発熱、異常な精神状態、頭痛、筋力低下、項部硬直、発疹などの症状がある方は、当室に直接メールで御相談ください。(takasaki@nih.go.jp)
(ウイルス第一部 神経系ウイルス室 )
2001年9月27日更新
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