投稿者 dembo 日時 2001 年 10 月 17 日 14:21:18:
エコニュースNO.17「戦争と地球環境」
ベトナム戦争や湾岸戦争を例に出すまでもなく、人類間の戦争は人類文明を含む
広範な地球生態系を破壊してきた。多くの環境破壊の中でも、戦争ほど直接的かつ大
規模に地球環境を破壊するものはない。20世紀後半に核兵器をはじめ大規模殺戮兵器
が開発され、その環境への破壊力はこの半世紀でますます巨大なものになっている。
(現在、7ヶ国が保有している核兵器だけで地球を100回以上破壊、絶滅できるい
われる)
世界の軍事支出は1950年約2670億ドルから1984年約11440億ドルに達し、
その後冷戦の終結と共に減少してきた。しかし、現在でも、統計機関によって若干数
値は異なるが、およそ7000億ドル(約84兆円)以上が軍事費に費やされてい
る。内訳を見ると、アメリカが全体の35%をしめ群を抜いている。アメリカ:25
00億ドル、ロシア:760、中国:650億、日本:440億、フランス:430
億、ドイツ:380億、英国:340億の順である。これら上位7ヶ国で世界の軍事
費の78%を占めている。(日本は米軍基地への援助その他を含む)
今後、世界大戦のような大規模な戦争は起こらない?と思われるが、戦争の形態が
武力紛争に変化してきている。1989−1996年の間に101の武力紛争が発生
したが、このうちの殆ど(95)は国家間の紛争ではなく、国内の戦闘集団同士によ
る争いである。紛争当事者の組織も政府軍、準軍事組織、ゲリラ集団、テロ組織、麻
薬武装集団など多種多様であり、合計では254にのぼる。
これらの暴力武装集団を支えているものが世界中に蔓延している小火器、銃器であ
る。現在、世界には1億丁以上の軍用ライフル銃があると見られている。拳銃などの
軍用小火器は5億丁といわれている。
これに民間用の数億丁の銃器を加えると、世界中で10人に1−2丁の小火器が存在
することになる。
厄介なことに小火器の耐用年数は長く、紛争から紛争に使いまわしがきき、第2次
世界大戦で使われたものが今でも使われている。例えば、有名なAK47と呼ばれる
カラシニコフ銃は旧ソ連他、10カ国でこれまでに7000万丁が造られ、その殆ど
が現在でも78カ国の軍隊と無数のゲリラ部隊、テロ組織に使われている。また、8
0年代アメリカがアフガニスタンの反政府勢力(タリバンを含む)に供与した約80
億ドルの武器はその3分の2が、パキスタン、インド、タジキスタンに拡散し、それ
ぞれの地方の紛争を激化させた。 (マイケル.レナー)
これら小火器の主要生産国は旧ソ連、アメリカ、中国、ドイツ、イタリア、ベル
ギー、スイス、チェコ、イスラエルである。これらの国々から、毎年数百万から数千
万の小火器が供給されている。冷戦中、ソ連と米国の2超大国は膨大な量の武器を自
体制の政治的目的のため、無償または低価格で世界中にばら撒いてきた。
現在、民間の武器産業はグローバル化し、多国籍企業(産軍共同体)となって合
法、非合法のネットワークを通じて世界中に武器を供給している。はっきりしている
ことは「死の商人」と呼ばれるこの軍需(武器)産業は戦争や紛争がなければ、維持
できない(商売にならない)ことである。(平時は軍事演習よる消耗) いうまでも
なく、これら武器産業を含む軍需産業が存在するためには絶えず「??の脅威」と称
する「仮想敵」が必要である。かって、冷戦下では「共産主義の脅威」であり、「資
本主義国家からの侵略の脅威」であった。
このような紛争により、1991−95年間で320万人が死亡した。1960年
代後半の5年間(ベトナム戦争時)の死者数が410万人であるから、これに比較し
ても少ない数字ではない。 しかも、1975年以降、紛争による死亡者数は増加傾
向にある。また、特徴的なことは、犠牲者の中で戦闘員よりも民間人の占める割合が
高くなってきている。第1次世界大戦で14%、第2次世界大戦で67%、1980
年代には75%、90年代には90%となっている。
銃器拡散の弊害は紛争だけに限らない。先進国では凶悪犯罪が増加している。アメ
リカではライフルが100ドル程度で手に入るから、これら銃器を使った犯罪が多く
なる。いうまでもなく、この被害者は100%民間人である。ちなみに、1990年
代後半の人口10万人当りの刑務所への入所者数をみると、先進国であるロシア:6
87人、アメリカ:645人、ウクライナ:413人、(幸いなことに日本は39人
で先進国中最低である。)に比較して、途上国はインドネシア:20人、インド:2
4人、ネパール:29人となっており、圧倒的に先進国での犯罪が多くなっている。
世界中に拡散している銃器は途上国では紛争を激化させ、先進国では犯罪を増加さ
せているのである。犯罪の増加は、一般市民に防衛のための銃器携行を増加させ、更
なる銃器の拡散を招くことになる。正に、銃器の拡散はまた「憎悪の連鎖」の拡大で
もある。
最近は市場経済活動のグローバル化、資本の集中統合、市場の独占化によって、紛
争が国内の枠を超えて、国際的に拡大していることに特徴がある。いわゆる、多国籍
企業の富の独占に対する反発である。この反発が狭隘な思想と武器を伴うと、紛争、
テロ発生の原因となる。
この背景となっているものが地球上の富の不均衡であり、その顕著なものが、国際
的には南北間に広がっている貧富の格差である。
一人あたり年間800kg(穀物換算)の食料を消費し、そのために国民の55%
が太りすぎとされるアメリカを初めとする飽食な先進国(日本は約550kg)と年
間200kg以下の餓えに苦しむ開発途上国との格差は1995年以降、2000年
代に入ってからもますます拡大している。1日1ドル以下の飢餓ぎりぎりの生活をし
ている人々が世界には13億人いるのである。この殆どはアフリカ、アジア、中南米
の途上国に集中している。このような生きることに絶望的な状況下で、年間およそ1
200万人の子供が飢餓と栄養失調で死んでおり、5億人が飢餓に苦しんでいる。
希望をなくして自暴自棄になった人々は暴力的な「解決法」に頼りやすくなる。(ダ
ン.スミス)
利害の不一や意見の相違を話し合い、歩み寄ることによって解決するためには、長
い粘り強い努力が必要だが、「武器が簡単に手に入れば、それを使って解決したほう
が手っ取り早い。」と考える「強者の論理」をまだ現人類は捨てきれないでいる。し
かし、同じ喧嘩でも「げんこつ」(議論)でしている分には、歩みよりの余地がある
が、武器による争いは殺人につながり、「憎悪の連鎖」となる。戦争はその典型的な
ものである。 その点で、戦争を放棄し、国際間の問題を武力によって解決すること
(交戦権)を禁じた日本の憲法は、世界に誇るべきものである。人道的見地だけでな
く、地球環境を次世代に渡すためにも、国際社会が戦争を放棄することは今後、極め
て重要となるであろう。
(参考資料:WORLD WATCH.日本語版 地球環境データブック 外)
---統計数値の比較(WorldWatch「MATTERSofSCALE」抜粋一部改定----
世界47の重債務貧困国の負債務総額----------------------4220億ドル
西側先進国の12ヶ月ごとの武器と軍人への支出総額----------4220 〃
アフリカのエイズの流行を抑制するために必要な金額--------150億ドル
アフリカ諸国が毎年、債務の利子として支払っている金額-----135
エクソン社の2000年の収益----------------------------169
ザイールの1人当り年間所得------------------------------110ドル
同国が対外債務完済のために調達しなければならない
国民1人当りの金額--------------------------------------236
アメリカでマグドナルドのハンバーガーを買うだけの賃金を稼ぐのに
必要な労働時間--------------------------------------------11分
ケニアで同様の賃金を稼ぐのに必要な労働時間----------------480
途上国の全人口へ基本的健康と栄養を提供するために
毎年必要な総金額(現在の金額に加えて)------------------130億ドル
ヨーロッパとアメリカでペットフードのために
毎年支出される総金額----------------------------------170
途上国の全人口に基本的教育を提供するために
毎年支出される総金額(現在の支出に加えて)-----------------60億ドル
全世界の毎年の軍事支出の総金額-----------------------7800
全世界の最も豊かな225人の総資産--------------------1兆ドル
全世界の最も貧しい25億人の年間所得------------------1兆
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