投稿者 dembo 日時 2001 年 10 月 13 日 12:55:57:
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ニュー・グレート・ゲーム
2001年10月12日(金)
萬晩報通信員 園田 義明
「米CNNテレビ」は10月7日(日本時間8日)、カブール市内での攻撃 開始の模様をとらえた映像をいち早く放映した。ついにアメリカの大規模な報 復が開始された。長く続く戦いが始まったようだ。
9月11日、イスラム原理主義のアメリカに向けられた憎悪と妬みは、民間 旅客機を巨大な兵器に変え、アメリカの富の象徴を瞬時に崩壊させる。そして、 憎しみが更なる憎しみを生み出す。
10月8日、タリバンは、まるで待っていたかのようにウズベキスタンへの 攻撃を宣言し、ロシアが動き始めた。そしてアメリカは、再びイラクへの攻撃 を示唆する。プレイヤーは今後ますます増えてくるだろう。西側諸国の思惑が 入り乱れ、場合によってはこの戦争が、19世紀後半から続くカスピ海地域の 石油、天然ガス資源をめぐる「ニュー・グレート・ゲーム」に発展する様相を 呈してくるだろう。そして同時に新たな冷戦構造へとつながりかねない。
しかし、この戦争には個人的な遺恨も潜んでいるようだ。だとすると起こる べくして起こったのかもしれない。
■1988年 テキサス
ひとりの人物がテキサスで軽飛行機事故で死んである。彼の名は、サレム・ ビンラディン氏、ウサマ・ビンラディン容疑者の長兄にあたる人物である。サ レム氏は、サウジの裕福な事業家だった父の後を継ぎ、アメリカでのビジネス を任されていた。
この事故は、その後いくつかの憶測を呼び起こすことになる。つまり、彼が 厄介な目撃者として排除されたとの見方である。少なくともビンラディン一族 は、固くそう信じているようである。
もうひとりの主人公がいる。彼は、1968年5月、エール大学歴史学部を 卒業し、父親の元パートナーのもとで働くなどした後、1973年にハーバー ド大ビジネス・スクールに入学する。ここで経営を学び、1975年に経営学 修士号を取得し、石油事業を試みることになる。また、鉱業権や鉱区使用権の 取引や、採掘プロジェクトへの投資を行っていた。
彼は、アルブスト・エナジーという会社を設立したが、経営難に陥り、19 84年、別の中小石油探査会社と合併し、スペクトラム7という新企業の社長 となった。しかし、石油価格の急落が続き、スペクトラム社の財務状況は逼迫 した。1986年には、ハークン・エナジー・コーポレーションが、同社を買 収した。彼は、しばらくの間ハークン社のコンサルタントを務めたが、その後 は、父親の大統領選挙運動に、顧問兼スピーチライターとして参加した。
1994年11月、彼は少年時代を過ごしたテキサス州知事になる。彼の名 は、現在のアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュである。
1988年といえば、父親が大統領に当選した年でもある。そしてブッシュ 氏がアルブスト・エナジーを設立する際に、サレム氏が共同出資者となってい たとする疑惑が持たれている。これは、航空機ブローカーであったサレム氏の 代理人ジェームス・バスを通じて行われたようだ。
テキサスを舞台にちょうど同じ時期に「飛行機」と「石油」と「ブッシュ家」 と「ビンラディン家」と「死」のキーワードが存在していたことは事実のよう だ。父親のブッシュ元大統領は、元CIA長官だった。何が起こっていても不 思議ではない。しかし、真実は永久に公開されないだろう。
そして、13年後にすべてのキーワードが再び蘇ることになる。
■米仏の駆け引き イラクもついでにやっちゃえ?
9月20日付けニューヨーク・タイムス紙は、報復攻撃をめぐりブッシュ政 権内部で、イラクにも大規模な武力行使を主張する強硬派と、前段階での外交 戦略を重視する穏健派との間で「最初のハイレベルの対立」が生じていると報 じた。
「なぜイラク?」と考えるのが普通であるが、突如として浮上した「イラク もついでにやっちゃえ」にアメリカの本音が見え隠れしている。強硬派の中心 は、ウルフォウィッツ国防副長官とチェイニー副大統領の首席補佐官ルイス・ リビー氏である。
ウォルフォウィッツ副長官の主張は「今回のテロとの関連があってもなくて も、イラクはテロ支援国家。これを機に攻撃すべきだ」との論理に基づいてい る。ワシントンの保守系政治組織の一部も、イラク攻撃を要望するロビー活動 を始めた。 なんとも恐ろしい国である。
この強硬派に対してパウエル国務長官は「同盟国とよく協議するなど外交努 力の重要性を訴え、軍事行動は国際法に基づかないとならない」と真っ向から 対立している。
こうしたアメリカ側の思惑を真っ先に嗅ぎ取ったのはフランスである。 思い出して欲しい。今年のジェノバ・サミットで京都議定書問題を巡ってブッ シュ大統領とシラク仏大統領が、周囲があわててとりなすほどの正面衝突があ ったことを。ここに京都議定書と同じ構図が見えてくる。
シラク大統領は9月18日、ブッシュ米大統領との会談を行うが、おそらく この時にイラクへの攻撃に対して強い懸念を示したようだ。これとひき替えに アメリカ支援を打ち出したと考えられる。 湾岸戦争の時にも石油を巡ってイラクとの政治的、経済的な思惑を持つロシ アやフランスの存在が西側の結束を遅らせた要因となっている。
現にシラク大統領は、帰国後すぐにロシアのプーチン大統領と電話会談を行 い、「テロ対策には国連および国連安全保障理事会を筆頭にしたすべての国際 メカニズムを活用すべきだ」との認識で一致したと伝えている。ここでブッシ ュ政権内の強硬派に対して再びけん制したのである。
また国連を持ち出したことに非常に重要な意味がある。現在イラクの原油輸 出の代金は、ドル建てからユーロ建てになっている。これにはフランスなど欧 州主要国の働きかけがあったとの説が根強く、ユーロ相場をテコ入れしたい欧 州勢と、欧州を後ろ盾に米国をけん制しようとするイラクの思惑が一致して実 現したようだ。
フセイン政権が原油代金を「敵国通貨」のドルではなくユーロで受け取ると 迫ったのは昨年10月であり、認めなければ原油輸出を止めると脅したため、 国連安保理のイラク制裁委員会はこれを承認した。
国連が管理するイラク口座には100億ドル以上のお金があるといわれ、そ の管理銀行は仏最大手のBNPパリバである。このBNPパリバの取締役会に は、すでにコラムで紹介したビベンディ・ユニバーサルのジャン−マリー・メ シエ会長を筆頭にフランス・インナー・サークルが集結している。そして、B NPパリバは、この戦争の鍵を握る企業と密接な関係がある。
■トタルフィナ・エルフ
トタルフィナ・エルフは、1999年に国境を越えた吸収合併を繰り返して 一気に誕生したフランスを代表する石油メジャーである。
仏トタルがベルギーの石油大手ペトロフィナを吸収合併し、フランス第一の 石油会社トタルフィナとなる。その後すぐに日本の石油公団のような国営企業 であったエルフ・アキテーヌと合併し、現在のトタルフィナ・エルフとなる。 エクソン・モービル(米)、ロイヤル・ダッチ・シェル(英蘭) BPアモコ (英米)に次ぐ世界4位の石油メジャーである。
BNPパリバとトタルフィナ・エルフとは、2件の取締役兼任により結合し ており、相互に情報を共有できる体制にある。またBNPパリバには、ドイツ ドレスナーバンクや保険大手アクサとも結合している点は注目に値する。
このトタルフィナ・エルフでは、国策重視の観点からいわば強引にメジャー 化を推し進めたため、合併前からコール前独首相、ミッテラン元仏大統領、デ ュマ元外相を巻き込んだ一連の汚職事件が続いている。私自身はアメリカのエ シュロンが深く介在していると予測している。それ程米系石油メジャーとアメ リカのエネルギー戦略にとって最も恐れられる存在となっている。
現在、フランスは、「ユーロ建て」を武器にイラク政府との間で天然ガス開 発計画を進めようとしているが、この計画には、トタルフィナ・エルフや仏ガ ス公社(GDF)などが参加する予定となっており、この計画は対イラク制裁 が解除されれば正式締結される見込みだ。
またトタルフィナ・エルフは、イラン・リビア制裁法で動きのとれない米系 石油メジャーをしり目に、イランに対してもカスピ海からイランのペルシャ湾 を結ぶガス・パイプラインの建設を構想しており、アメリカのイランやロシア をう回し、カスピ海とトルコを結ぶパイプライン計画と真っ向から対立してい る。
フランスに続いて伊ENIは油田開発に調印し、日本勢は石油に続き天然ガ ス田開発に乗り出し、中国もイランでの資源開発に意欲的な姿勢を見せている。
アメリカにとって唯一の牙城であるサウジアラビアに対してもトタルフィナ ・エルフの攻勢が開始されており、米系石油メジャーが焦燥感を強める中、こ の事件が発生したのである。
なお、もし日本政府がトップシークレットの情報を得たいのであれば、秘策 がここに隠されている。自民党の麻生・バズーカ・太郎政調会長も近い存在で はあるが、その言動からいささか疑問を感じざるを得ない。
■パウエル国務長官の得意技
穏健派で人気を博しているパウエル国務長官は、カタールのハマド首長に対 して「アラブ世界のCNN」といわれる衛星テレビ局アルジャジーラに影響力 を行使するよう依頼する。アルジャジーラは、中東では数少ない独立・中立的 な報道機関であり、米国に対しても批判を向ける姿勢に対してお気に召さなか ったようだ。
実はこれがパウエル国務長官の得意技でもある。あまり知られてはいないが、 パウエル氏は、AOLタイムワーナーが合併する前まで、アメリカ・オンライ ン(AOL)の取締役であった。
現在AOLタイムワーナーの傘下に「米CNN」や米タイム誌があり、現在 のAOLタイムワーナーのステファン・ケース会長は、パウエル氏にとって元 同僚の関係になる。「米CNNテレビ」が、いつもいち早く放映する理由がこ こにある。
他にパウエル氏は、米エンジニアリング大手のベクテル社のエグゼクティブ も務めたこともあるが、このベクテル社は、米政府が推し進めてきたアゼルバ イジャンからのトルクメニスタンを通る天然ガスパイプライン建設コンソーシ アムの中核企業であった。この計画は、ロシア側からの攻勢等により交渉がこ じれ、撤退する事態にまで陥った経緯がある。
それにしても、今回のパウエル国務長官のハマド首長に対する要請は、果た して日本にはなかったのだろうか。
■歴史に残る「ショー・ザ・フラッグ」
10月5日、日本記者クラブで行われたハワード・ベーカー駐日米大使の講 演で、アーミテージ国務副長官の「ショー・ザ・フラッグ」について、「これ は英語の慣用句。『旗幟(きし)鮮明にせよ』ということを意味したのではな いか。自衛隊派遣まで考えてなかったと思う」との見方を示す。
日本国内では一般的に「日の丸を見せてほしい」と訳され、事実上の自衛隊 海外派遣のきっかけをつくった。その経過を詳しく見てみよう。
テロ発生の翌12日、小泉首相は福田康夫官房長官を執務室に呼んで「自衛 隊の派遣も含めて検討してほしい」と伝えていたが、政府・与党内の足並みは そろっていなかった。
そして15日。ワシントンにある国務省の一室でアーミテージ国務副長官が 柳井俊二駐米大使に「ショー・ザ・フラッグ」を告げる。アーミテージ国務副 長官は、米政府きっての知日派で対テロ戦略を練る中心人物であり、会談内容 を記録した公電は「極秘扱い」になった。
巨額の資金協力をしながら評価されなかった10年前の湾岸戦争時の「ツー ・リトル、ツー・レイト(少なすぎる、遅すぎる)」の二の舞いは避けたいと の強迫観念にも似た思いから、野上義二事務次官ら外務省幹部の間にはテロ発 生直後から強い危機感を持っていた。
野上事務次官と確執が続く英語に強い田中真紀子外相は、米国務省職員の退 避先を記者団に明かした問題に絡み、柳井駐米大使との直接の電話をつながな いよう野上事務次官から部下に指示が出ていた。
おそらくこのときに「『日の丸を見せてほしい』でいっちゃえ〜」となった と予測される。
防衛庁幹部は『空母と日の丸を付けた護衛艦のツーショットが、「CNN」 にでも流れればうれしい』と有頂天になり、政治家たちは次々に「派遣賛成派」 に転じていく。小泉首相は歓声を上げ、一気に自衛隊派遣の流れができること になる。
10年前の湾岸危機における日本に対する批判がトラウマとなって、異常な 行動につながることになるが、本来歯止めとなるべきマスコミが全く機能して いなかった。同時多発テロ発生から、10月4日の衆院予算委員会で民主党の 菅直人幹事長が小泉首相に対して、「ショー・ザ・フラッグ」の意味を問いつ めるまでの間、この誤訳にふれた記事は日経、朝日、毎日、読売、産経5紙で わずか一件である。何の検証もせず、「日の丸」や「旗」を流し続けた。
一件の記事は9月28日付け毎日新聞朝刊に掲載された。 『[私はこう考える]米国同時多発テロと日本』の中で 栗山尚一・元駐米大 使が記者との質問に答えている。
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――「日の丸」が見える支援は、決定的に重要なことですか。
◆アーミテージ米国務副長官が「ショー・ザ・フラッグ」と(柳井俊二駐米大 使に)言った件だろうが、あの人は、湾岸戦争の時も同じことを言っていた。 やはり「リスクを負ってほしい」ということ。
――「汗」はまだしも「血」を流す国民合意がありますか。
◆米軍や多国籍軍に参加して前線まで出て戦うことは、現時点で日本がやらね ばならないとは必ずしも思わない。その他の面で協力することは憲法でも認め られている。その過程で尊い人命が失われることも、全くは排除されない。リ スクを負う、と言ったのはそういうことだ。
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特に目に余る誤訳を伝えたのは、産経新聞である。9月21日朝刊の『【新 法を追う】テロ対策 自衛隊の派遣決断 踏み出した「見える支援」』にて、 「『日章旗』を見せてほしい」と書いている。これは完全な行き過ぎである。 戦前を思い出させる異常なものが垣間見られる。断じて許されるものではない。
■日本の国際協力
ハワード・ベーカー駐日米大使の「ショー・ザ・フラッグ」誤訳発言は、日 本政府の外圧利用政策への痛烈な批判も含まれている。また小泉政権への不信 感の表れだろう。
アメリカがこんな時でも一貫して日本に要求している協力とは、不良債権処 理である。ようやく実現した9月25日の日米首脳会議でも、ブッシュ大統領 は、敢えて踏み込んで不良債権処理に言及している。ブッシュ政権が、今回の 同時多発テロで何よりも怖がっているのは、世界的な金融危機であり、日本が その一因になりえる可能性を見抜いているのである。
国際協力を完全に間違えて理解し、猛然と突き進む小泉丸の前途は険しいも のとなるだろう。そして、第二、第三の危機が日本発となる危険性をはらんで いる。
しかし、これは日本にとって絶好のチャンスでもある。更なる不良債権の発 生すなわち世界的な金融危機回避を目的に、早期戦争終結を訴えることは、極 めて説得力があり、自国のみならず世界的な支持を集めるはずだ。本来日本に は、「ニュー・グレート・ゲーム」への参加資格などない。ましてや外務省が 正常に機能していない以上、無謀ですらある。この点を踏まえて早急に政策の 見直しが必要であろう。
一部経済界に戦争特需を待望する勢力も存在しているようだが、時代に応じ て需要は変化する。今回の戦争の特徴が限定的攻撃と徹底した諜報戦と見られ ている点で、戦争特需が生まれたとしても極めて限定されたものになる。
残念ながら古き良き時代にはもどれない。過剰な期待をせず、粛々と燃料電 池電池に代表されるエネルギー技術に取り組む方がはるかに戦略的である。
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参考URL
中央アジアにおける天然ガス・パイプラインプロジェクトへの参加について
http://www.inpex.co.jp/japanese/971025.htm
第二次グレートゲーム
http://www.mine.ne.jp/a-rans/afghan/afg_6.html
防衛庁調査課(カスピ海方面)
http://www.jda.go.jp/j/library/secur/1998/04/defsemi.htm