投稿者 いがらし 日時 2001 年 10 月 11 日 01:26:31:
朝日新聞 10月9日
私の視点 特集・米英、アフガン攻撃
道義なき攻撃の即時中止を――辺見庸 作家
この報復攻撃には、なんらかの国際法的、あるいは、人間的正当性があるだろか。この戦いは、成熟した民主主義国家対テロ集団という図式でとらえることのできるものなのだろうか。これは、ブッシュのいうとおり、文明対野蛮、善対悪の戦いなのだろうか。私の答えはすべて、ノーである。結論を先にいうならば、当事国は、このいささかも道義のない軍事攻撃を即時完全停止すべきであり、われわれは攻撃がつづくかぎり、つよく反対の声を上げなければならない。
非対称的な世界の衝突
目を凝らせば凝らすほど、硝煙弾雨の奧に見えてくるのは、絶望的なまでに非対称的な、人間世界の構図である。それは、イスラム過激派の「狂気」対残りの世界の「正気」といった単純なものではありえない。オサマ・ビンラディン氏の背後にあるのは、数千の武装集団だけではなく、おそらく億を超えるであろう貧者たちの、米国に対するすさまじい怨念である。一方で、ブッシュ大統領が背負っているのは、同時多発テロへの復讐心ばかりでなく、富者たちの途方もない傲慢である。
とすれば、現在の相克とは、ハンチントンの「文明の衝突」という一面に加え、富者対貧者の戦いという色合いもあるといえるのではないか。敷衍するなら、20世紀がこしらえてしまった南北問題が、米国主導のグローバル化によってさらに拡大し、ついにいま、戦闘化しつつあるということだ。富対貧困、飽食対飢餓、奢り対絶望――という、古くて新しい戦いが、世界規模ではじまりつつあるのかもしれない。
自前の眼で惨禍直視を
もうひとつ、見逃せない危機がある。テロ攻撃に逆上した米国と、日本をふくむ同盟諸国が、この時期、近代国民国家の体裁さえかなぐり捨てようとしていることだ。テロ対策をすべてに優先し、法的根拠もなく、多数の“容疑者”を身柄拘束し、一切の話し合いを拒否して大がかりな報復攻撃に踏み切るような米国のやりかたは、もはや成熟した民主主義国家の方法とはいえない。これにひたすら追随する日本政府は、首相みずから憲法9条、同99条(憲法尊重擁護義務)に違反してまで、米国の報復攻撃を助けようとやっきである。勢いづくこの国のタカ派の論法の先にあるものは、徴兵制の復活であろう。
そろそろ米国というものの実像をわれわれは見直さなければならないのかもしれない。建国以来、200回以上もの対外出兵を繰り返し、原爆投下をふくむ、ほとんどの戦闘行動に国家的反省をしたことのないこの戦争超大国に、世界の裁定権を、こうまでゆだねていいものだろうか。おそらく、われわれは、長く「米国の眼で見られた世界」ばかりを見過ぎたのである。今度こそは、自前の眼で戦いの惨禍を直視し、人倫の根元について、自分の頭で判断すべきである。米国はすでにして、新たな帝国主義と化している兆候が著しいのだから。
今回の報復攻撃は、絶対多数の「国家」に支持されてはいるが、絶対多数の「人間」の良心に、まちがいなく逆らうものである。問題は、「米国の側につくのか、テロリストの側につくのか」(ブッシュ大統領)ではない。いまこそ、国家ではなく、爆弾の下にいる人間の側に立たなくてはならない。
反米で第三世界の結束招く――北沢洋子 国際問題評論家
ついに米国はアフガニスタンに対する報復攻撃を開始した。私は9月11日の無差別テロ事件について、第三世界の人々がどのように見ているかを述べたい。
事件直後、ブッシュ大統領が呼びかけた「世界反テロ同盟」に対して、途上国の首脳たちがこぞって賛意を表明した。これまでタリバーンを支援してきたパキスタンのムシャラフ大統領、米国の制裁下にあるキューバのカストロ議長の名まで入っていた。これは驚くべきことだが、これまで米国がイラク、スーダン、ユーゴなどに報復空爆を繰り返してきたことを考えると、うなずける。米国の脅威に屈したことにほかならない。
政府、人々の意見代表せず
第三世界では、政府が人々の意見を代表していない例が多い。最も良い例がパキスタンである。ムシャラフ政権は軍事力で支配しているが、内実は400億ドルの債務返済に追われ、外貨は底をつき、破産寸前にある。教育、保健など民生部門に十分に予算を向けることができない。貧しい人々がイスラム原理主義に同調する基盤は、すでにあった。米国の軍事攻撃が続けば、反米デモがやがて政権打倒につながっていくだろう。
これはパキスタンに限らない。中央アジア、中東諸国、さらにインドネシアなどイスラム圏全域が、政情不安に陥る可能性がでてくる。
9月11日以来、インターネット上に見られる第三世界の発言をまとめてみよう。初めのうちは、米国に対する強い「怒り」の発言が多かった。米国は、朝鮮戦争以来、ベトナム、イラクなど20カ国以上の国々に無差別爆撃を行ってきた。湾岸戦争当時、米軍がイラクに投下した劣化ウラン弾はどれほどの放射能被害をもたらしているか。続く経済制裁では、多くの子どもたちが栄養失調で死んでいる。3年前、ケニア、タンザニア米大使館に対する自爆テロの報復として、米国がスーダンの医薬品工場を誤爆したが、その結果、予防ワクチンが不足し、2万人の子どもたちが死んだことに、米国はどう責任をとるのか。米国こそ最大のテロ国家ではないか。
時間を経るにつれて、発信の内容に変化が見られる。アフリカでは、今回の米国でのテロ犠牲者とほぼ同数の人々が、毎日エイズで死んでいる。債務の支払いによって、毎日、1万9千人の子どもたちの生命が奪われている。経済のグローバリゼーションが、第三世界の貧困を深刻化している。1日1ドル以下の生活を強いられている貧困層の数は、13億人に達している。
第三世界の人々の目には、このグローバリゼーションの推進勢力と米国は、重なって見える。ブッシュ大統領の報復戦争は第三世界全体を反米で結束させ、「反テロ世界同盟」に参加した政権の不安定化をもたらすだろう。
報復に日本は「ノー」を
米軍の軍事攻撃が続けば、アフガニスタンから大量の難民が発生するだろう。また、それ以上の人々が“国内難民”となって、飢えと寒さにさらされる。日本はブッシュ大統領の報復攻撃に「ノー」と言うべきである。そして、政府、地方自治体、赤十字、NGO(非政府組織)が共同して、国内の被災者と難民の救済に全力を尽くすべきだ。これこそ、日本が世界に発信する平和のメッセージである。
「そろそろ米国というものの実像をわれわれは見直さなければならないのかもしれない」
「ほとんどの戦闘行動に国家的反省をしたことのないこの戦争超大国に、世界の裁定権を、こうまでゆだねていいものだろうか」
「米国がスーダンの医薬品工場を誤爆したが、その結果、予防ワクチンが不足し、2万人の子どもたちが死んだことに、米国はどう責任をとるのか」
「米国こそ最大のテロ国家ではないか」
なかなか過激なコメントが続きますが、まさに正論です。
朝日新聞の面目躍如というところか。。。