投稿者 dembo 日時 2001 年 10 月 10 日 21:52:23:
世界が見殺しにした国、周辺国も含め安定策を
前国連難民高等弁務官・緒方貞子氏
http://www2.asahi.com/national/ny/news/011006ogata.html
インタビューに答える緒方貞子さん=ニューヨークのフォード財団で、撮影・大野明 この数年、アフガニスタンは「見捨てられた国」だった。昨年末まで国連難民高等弁務官を務め、いまニューヨークの民間機関で研究する緒方貞子さんはそう憤る。同時多発テロで、そのアフガンに国際社会の目が向いた。軍事行動で「テロの根源」を排除し、周辺国も含めた安定策をとり、そこで日本は自衛隊の派遣を含めて積極的な役割を果たす――。緒方さんの主張は、難民救済の現場で鍛えられた国際人ならではの説得力を持つ。(ニューヨーク支局長・五十嵐浩司)
――米国は4日、アフガン難民に3億2000万ドルの緊急人道援助を決めました。今回の事件まで米国はアフガン問題に熱心ではありませんでした。
「なかったと思いますよ。でも、どこの国も私どもの出したアピールにほとんど答えてくれなかった。アフガンというのは、極端にいって見殺しにされた人々だという印象を持っています」
――見殺し?
「まず難民を受け入れていたパキスタン、イランへの資金要請に反応がない。だったら、アフガンの安全な所に帰ってもらうしかないが、アフガン国内の活動は国連制裁で制限している。ロシアもアメリカも『制裁、制裁』では一致する。アフガン内には反国連、反国際社会の気分が高まる。結局帰すこともできない。国際社会は見捨ててしまったのだな、と怒りを感じたこともあります」
――なぜ、そんなに冷淡だったのでしょう。
「一つにはタリバーンが非常に弾圧的で人権をじゅうりんして、極端な暴力を振るう望ましくない政権だということが大きかった」
――それでも5年間も実効支配している。
「望ましくはないのだけれど、多くの人には『戦争がなくなった』ということで、我慢する風潮があった」
「アフガンは国として成立することがなかった大きな部族社会。国連が提案した緩やかな連邦をつくる案は実現しなかった。独立性の強い、難しい人たちです」
――タリバーンはバーミヤンの石仏も破壊してみせました。
「非常に残念なことと思います。ただ、3年も続くものすごい干ばつなんですね。昨年9月に現地を訪れたときも、干ばつを逃れてきて、テントもなくて座り込んでいる人がたくさんいた。石仏を壊したとき、あんなに急に国際社会が何とかしようと言い出すなら、生きている人間が悲惨な状況にあるときに、もう少し何かしてくれてもいいのにと思った。その点では私、タリバーンに賛同することもありますよ」
――今回のテロ犯と名指しされるオサマ・ビンラディン氏もアフガン紛争が生んだ人物です。
「サウジアラビアから、(米国が支援する反ソ連の)ムジャヒディン(イスラム戦士)に。そして次の段階に行ってしまうんですね」
軍事行動を
――テロ撲滅にどんな対応が必要でしょう?
「短期的にはタリバーンに圧力をかける。周辺国からも情報をとって、ビンラディンの居場所などをきっちりつかむ。目標に対し効果的な行動をとるのが軍事行動で一番大切。米国も最初は激しい怒りで対応していましたが、いまは情報取りを一生懸命やっている。犠牲を最小限にして、効果のある攻撃ができるか。ビンラディンの引き渡しがあれば最高です」
「長期的には、アフガンでも、中東でも、多くの人が安全も安定もなく、日常生活にも困っている。これを直さないと。アフガンでは周辺の国も全部、国内に抵抗分子を抱えています。そこまで視野に入れた安定策を作っていくことが大事。国造りではなく『地域造り』。そのためにはおカネも技術もいる。それが私たちの安全につながるという意識が必要です」
――「平和と人道の象徴」の緒方さんが効果的な軍事行動を説くと日本の人々が驚くでしょう。
「私が難民の保護と救済のため話し合ってきた人は相当のしたたか者ばかり。難民に制限を加えるとか、追放するぞと脅すとか。どっちがより悪くないかの選択を迫られてきたんです。きれいごとじゃありません」
「日本の方々はあまりに現実を知らない。平和の国にいたから。政治家の方に『もうちょっと現場を見に行ってほしい』と言ったことがある」
妥協も必要
――米の軍事行動にどれだけ協力するか、日本で論議になっています。
「支援するときには、どんな形の軍事力の行使かをまず考えないと。そういうことこそ政府間で話し合われていると信じています。何か、ひとごとみたいですよね。米軍のいろいろなシナリオに『こういうことなら私はできる』『こういう風にしたらどうか』と、同盟国間なら話し合っているものだと思う」
――自衛隊の武器使用を緩和する新法は?
「自衛隊が何をするか。空輸だけなら武器を持たなくともいいが、陸上輸送して難民がいっぱいいる地域に行くなら、それは武器を持っていた方がいい。難民も聖人ばかりじゃないですから。生きた人間が集団で動くときには、隊長に判断の権限を与えるのが大切なんじゃないですか」
――今の事態を「文明の衝突」と見る向きもあります。
「単純すぎますね、あの論は。もっと複雑な利害が絡んでいます」
――タリバーン後の「受け皿」に提言を。
「部族を無視しては政権はできません。(民族、部族の)協調というより妥協。アメとムチがないとだめです。アメには大きな経済復興計画がないとだめでしょう」
――アフガン以外にも、難民はまだまだたくさんいます。
「いちばんの問題は中東だと思いますね。テロとも関係している。大きな不公正とか、大きな暴力があるところは、なかなかテロは抑えられません。軍事力と同時に政治解決も必要でしょう。それと安全と安定。このままいけば明日は今日より少しよくなるのでは、という感情を、たくさんの人が持つことが平和には必要でしょう」