投稿者 MIROKU 日時 2001 年 10 月 02 日 21:26:34:
米ロ、表で握手 裏で“新冷戦”
米、WTO加盟盾にけん制
【東京新聞アメリカ総局・喜聞広典】米中枢同時テロに対する報復攻撃が迫る中、タリバン政権駆逐後のアフガニスタンに対する支配力の確保を目指して、米国とロシアのせめぎ合いが始まった。核心にあるのは、カスピ海の石油資源をインド洋に搬出するパイプラインの建設計画だ。経済利権争いに絡んだ米ロの“新たな冷戦”の構図に迫った。
■密 使
報復攻撃に向けた緊張が高まり始めた九月二十七日。全米のアフガニスタンへの視線をかいくぐって、一人の米政府高官がワシントン近郊の空港を飛び立った。
ロバート・ゼーリック米通商代表部(USTR)代表。貿易担当閣僚という表の顔とは別に、ブッシュ大統領の“外交密使”を務めることで知られ、インドネシアにメガワティ政権が誕生した直後の八月には、軍事交流再開の特命を帯びて同国を訪れ、新政権と渡り合った実績がある。
今回、ゼーリック氏が向かった先は、モスクワだった。「ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟交渉の促進のため」−。この時期、特にせっぱ詰まってもいないテーマを掲げての唐突な訪ロの裏には、明らかに「何か別の目的」(USTR筋)が隠されていた。
ゼーリック氏は、ロシア政財界代表と会合後「六月の米ロ首脳会談で合意された二国間問題も話し合った」と述べ、両首脳が成功を誓い合った「カスピ海石油・天然ガスのパイプライン計画」の再確認が訪ロの目的のひとつだったことを示唆した。
■再 開
ブッシュ大統領はもともと石油探査会社の経営者。米石油業界はその大統領から、三年後の再選も見据えた政治的保護を受け続けている。その利権に絡んで、密使を急派するほど重要な「パイプライン計画」とは何か。一通の声明文がある。
一九九八年八月二十一日。米系メジャーの一角「ユノカル」(カリフォルニア州)。
「われわれは九五年から進めてきた、トルクメニスタンからアフガニスタンを通過し、パキスタン、いずれはインドにも至る天然ガスパイプラインの建設計画を中断する。(在ケニアなどの米大使館爆破テロに伴う)米政府のアフガニスタン非難の姿勢に賛同し、同国当局者との関係を一切断つ。そしてアフガニスタンに再び平和が訪れた時、計画は再開する」
タリバンは九七年三月、ユノカルを主軸にしたアフガニスタンでのパイプライン計画を認めた。パイプラインの出発点は、膨大な石油資源が眠り「第二のペルシャ湾」と呼ばれるカスピ海だ。国際的な利権競争が激しく交錯する中、クリントン前米政権は当時、敵対国イランを通過しない有力ルートとして、ユノカル計画を強く支持した。
そのタリバンは今や米国の宿敵。ブッシュ大統領は「タリバン駆逐後のアフガニスタンで、戦勝記念として計画再開を打ち出したいはずだ」(米シンクタンクCSIS=戦略国際問題研究所)。
一方、ロシア。アフガニスタンへの軍事介入(七九−八九年)から旧ソ連軍が撤退以来、悲願の「インド洋への出口」を求め、タリバン後に「自国主導でこのパイプライン計画を進める構想が周辺国と固まりつつある」(同)という。
■戦場裏
こうしたロシアの攻勢に焦ったブッシュ大統領は、急きょゼーリック代表をロシアに派遣。代表はロシア当局に「WTO加盟にはまだまだ克服されるべき障壁が数多い」と伝えた。パイプライン計画でロシアが主導権を握る流れに強いけん制球を投じたとみられる。
テロ組織せん滅という表向きの目標では固く手を結ぶ一方で、米ロ両国のアフガニスタン支配に向けた戦場裏の駆け引きは、日に日に激しさを増しているといえそうだ。