投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 10 月 01 日 11:14:39:
【今週主な政治日程】
▼1日(月)衆参両院で各党代表質問(3日まで)、ムベキ南アフリカ大統領来日
▼4日(木)衆院予算委(5日まで)、連合第7回定期大会
【政局の焦点】
●後方支援新法は60年安保以来の大きな転機
政局は1日から、衆院本会議での小泉純一郎首相の所信表明演説に対する各党代表質問が始まり、いよいよ国会論戦の火ぶたが切って落とされる。当初は構造改革や不況対策、株価下落などの経済問題が中心となるはずだったが、ニューヨークとワシントンで起きた米同時多発テロで同国会も当面はテロ対策一色となる。特に米軍の後方支援のための新法は自衛隊の輸送機や艦船の派遣がどこまで可能か、武器・弾薬の輸送はできるのかなど、集団的自衛権が絡む難題を抱えている。ある意味では10前の湾岸戦争時より難しい判断を迫られており、日本の外交と安全保障にとって1960年の日米安保条約締結以来の大きなターニングポイントとなる可能性がある。小泉首相の決断は今後の憲法論議や政党再編にも大きく影響しよう。
●新法賛成で鼎(かなえ)の軽重問われる鳩山代表
後方支援新法や自衛隊法改正案では公明、民主両党の動向が焦点となるが、特に野党第1党の民主党の賛否は法案の成否に直接関係する。民主党は今回、「政権に就いた時の備え」(幹部)ということを強く意識、「武器・弾薬の輸送は認めない」などの条件が受け入れられれば最終的には法案賛成に回る見通しだ。ただ同党内は旧社会党系議員を中心に米軍の報復攻撃そのものに反対するグループもあり、党内は必ずしも一枚岩ではない。このため、いかに混乱が少なく、納得づくで党内をまとめ切れるか、鳩山由紀夫代表は鼎の軽重を問われている。
●だだをこねている?小沢党首
一方、社民、共産両党の法案反対は予想通りだが、従来からどの党よりも自衛隊による国際貢献の必要性を強く主張してきた自由党が反対を打ち出したのが目を引く。小沢一郎党首は「米国自身の自衛の戦争に参加することは集団的自衛権の行使そのもの。憲法解釈を変えないまま自衛隊を派遣するのはごまかしだ」と、反対の理由を説明している。同氏の主張はまさにその通りだが、しかしそれを言うなら、憲法改正しろというのが筋だろう。要は現実的対応とスピードの問題。湾岸戦争の時は議論に議論を重ねた挙げ句、130億ドルも支援したにも関わらず、「トゥーレイト・トゥーリトル」などと、どこからも感謝されなかった。そのことは当時自民党幹事長だった小沢氏が最も分かっているはず。何やら小泉首相に持論の集団的自衛権でお株を奪われたため、だだをこねているいる感じがしなくもない。
●復活なるか「加藤・野中コンビ」
ところで11日ごろから始まる予定の特別委員会の委員長には自民党の加藤紘一元幹事長が就くことが内定した。同氏の表舞台への出番は昨年11月の「加藤の乱」以来で、その点でも注目を集めている。加藤氏が特別委員長に起用されたのは、防衛庁長官経験者で、今回法案の成否を握る民主党ともパイプがあるなどが評価されたものとみられる。また同氏が同委筆頭理事に野中広務元幹事長を希望していることも話題を呼んでいる。これまでのところ野中氏は就任を固辞しているが、もし引き受けることになれば、かつてのコンビ復活となる。永田町では早くも「野中氏は小泉首相の後任に加藤氏を考えているのではないか」(公明党筋)などの観測が流れている。
●“答弁不能”で田中外相更迭論
ところで新法は当初、政府提出(閣法)か議員立法かで揺れていたが、憲法や自衛隊法、周辺事態法、国連平和維持活動法(PKO法)などの関連法や日米安保条約などとの整合性から閣法とすることが決まった。その場合、最大の問題は答弁者が首相、外相、防衛庁長官のほぼ3人に集中するということ。政府答弁は10年前のPKO法の時は外務省条約局長ら官僚が前面に出ることができたが、国会法の改正で今は原則として閣僚のみに限られる。
このため普段でも予算、外務両委員会などでの答弁が「満足にできない」(首相周辺)田中真紀子外相では、「とても乗り切れない」(同)との見方が急速に広まっている。外相は天皇への内奏の際、小泉首相批判を繰り広げ、さらにこれを外部に漏らすなどしたため首相が激怒したとも言われるなど、このところ「問題児ぶり」に拍車がかかっている。首相がどの時点で田中外相の更迭に踏み切るかは今のところ不明だが、既に後任に元外務官僚で外交評論家の岡本行夫氏や高村正彦元外相などの名が上がっている。
●日本は被テロの当事国の一つ
前にも触れたが、「テロがテロを呼ぶ」式の論調がまだ大手を振っているのがどうも理解できない。第1に、何の関係もない多数の旅客を巻き添えにしていくつものビルを爆破、約6000人に上る犠牲者を出した今回のテロとそれに対する自衛権の発露としての「反撃」が同一レベルの「暴力」として論じられるのがまず分からない。テロには毅(き)然とした態度で臨むしかないというのが「世界の常識」であり、日本はかつて福田内閣時代、その常識を破り、世界中から非難されたことをもう忘れたのだろうか。ましてや今回のテロでニューヨークでは日本人が24人も巻き込まれており、日本も当事国の1つだ。97年のエジプト・ルクソールでの観光客虐殺事件でも、イスラム原理主義過激派によって多数の日本人が犠牲になっている。
●違憲ではない対テロ集団への武力行使
第2に、自衛隊派遣が憲法の“禁じる”集団的自衛権行使に該当するのではないかとの意見も多いが、これも“禁じる”と有権解釈してきたのは内閣法制局であり、それが現在も本当に妥当なのかどうかの疑問が生じている。そもそも憲法9条で禁じられた武力行使は「国家」が対象。今回のような「顔」が見えない、国家とも言えないテロリストに対しては、厳密に言えば武力行使禁止の対象とならない。その意味で、今回のテロはまさに「新しい戦争」なのであり、従来の「国家間の戦争」には当てはまらない。従って憲法解釈も違ってきて当然といえる部分があり、その検討すらしないまま「軍国主義復活の懸念」と決めつけるのでは話し合いにならないであろう。
●テロリストとの「話し合い」は幻想
かといって、例えばアフガニスタンに無差別爆撃を行い、婦女子も巻き込んだ“復しゅう”をしろと言っているのではない。事件の全ぼうはまだ明らかになっていないにしろ、“1人勝ち”の米国が世界中に自分たちの価値観(アメリカンスタンダード)を押し付けたことへの強烈な反発が今回の事件につながったであろうことは想像に難くない。しかしまた、だからといって6000人もの無辜の民を殺していいという理由には到底なり得ない。まして彼らが今後、核・生物・化学兵器を入手すれば、躊躇なくそれを用いる可能性は非常に高いと言ってよい。その意味でもテロリストたちを徹底的に根絶する必要がある。たとえ「八岐大蛇」のように次の敵が現れようとも、われわれが強い姿勢をみせなければ、彼らが跳梁ばっこすることは目に見えている。テロリストと話し合いが通じるなどというのは幻想に過ぎないのではないだろうか。
(政治アナリスト 北 光一)