投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 9 月 28 日 09:06:12:
【ワシントン27日=吉池亮】
米同時多発テロ事件が起きた11日午前(日本時間11日夜)、未曽有(みぞう)の事態に直面した米連邦航空局(FAA)のオペレーションセンター内の緊迫と混乱の模様が、関係者の証言で明らかになった。センターでは、ハイジャックされた2機の航跡を、その直後からかたずをのんで見守ったが、世界貿易センタービルに突入した後に、飛行中の各機に緊急着陸を指示するのが精いっぱいだった。航空管制の中枢もまた、ビルへの体当たりという“狂気のシナリオ”の前には無力だった。
◆「何が起きているんだ!」◆
11日午前8時過ぎ、ワシントンの官庁街にあるFAA本部は、静かな朝を迎えていた。最上階(10階)のオペレーションセンターでは、十数人の管制官が、全米の空域の状況を示すモニターをながめていた。
その平穏な雰囲気が突然、変わった。ボストンを飛び立ったアメリカン航空11便とユナイテッド航空175便が本来の飛行ルートを大きく外れたからだ。
「いったい何が起きているんだ」。センター内に困惑が広がった。常駐している連邦捜査局(FBI)の担当官が無線情報などを分析して「ハイジャックされた可能性が高い」と語り、一気に緊張は高まった。
張り詰めた緊張感が驚がくに変わったのは、同8時45分。それまでレーダースクリーン上で点滅していた11便の機影がマンハッタン島で消えた。センター内の全員の顔に「信じられない」という表情が浮かび、まもなくテレビには、黒い煙を上げる世界貿易センタービルが映し出された。
続いて同9時3分、175便の機影も同島で消えた。同時にテレビ画面では旅客機がビルの陰に消え、巨大な火の玉が上がった。「オー・マイ・ゴッド(何てことなの)」。女性職員の1人が手で顔を覆い、しゃがみ込んで泣き出した。
「すべての飛行機を、ただちに最寄りの空港に着陸させろ」。FAAの管制責任者が全米の航空管制官に緊急指令を出した。着陸の指示に従わない機がハイジャック機というわけだ。かつてだれも経験したことのないシナリオだった。
◆「10機、連絡が取れない」◆
「連絡の取れない飛行機が10機以上!」。悲鳴のような声がセンター内に響いた。そのうちの1機、アメリカン航空77便は、飛行中の機の位置や高度の情報を管制センターに自動送信するトランスポンダーのスイッチが乗っ取り犯に切られたと見え、スクリーン上には航跡を示す明かりの点滅だけが表示されていた。
管制官の1人が「まっすぐこちらに向かっています」と叫んだ。
「『こちら』を具体的に」とFBI担当官。管制官は息をのんで、「ワシントン」と小さく答えた。
担当官は落ち着いた声で無線連絡を入れた。「77便、目的地はワシントン」。その声を耳にした管制官の何人かは、恐怖のあまり建物の外に避難しようと腰を浮かしかけた。担当官は再び尋ねた。「到着予想時刻は」。「10分後です」。これを聞いて、管制官たちのため息が漏れた。
「なぜこういう施設をビルの地下に設けないんだ」。担当官が苦々しげにつぶやいた。管制官は「ここは軍の施設じゃない。だれがこれを予想できるというんだ」と吐き捨てるように答えた。ワシントンのすべての連邦政府ビルに、緊急避難命令が出された。
◆「次はホワイトハウスか」◆
その直後、77便は、ベテランパイロットも舌を巻くような操縦技術を見せた。1度、国防総省ビルの上空をかすめた後、高度と速度を落としながら360度旋回、同9時45分、同ビルを直撃。FAA本部からわずか数キロの距離だった。
「もう1機、こちらに向かっています」。管制官たちの目が、今度は米中部で旋回したユナイテッド航空93便に張り付いた。「攻撃されるのは、ホワイトハウスか国会議事堂か」
「いったい何機いるんだ」。1人が声を荒らげた。近くの基地から急発進した空軍機が撃墜のため93便に向かったが、間に合わない。
同10時10分、93便はペンシルベニア州の草地にいきなり急降下した。墜落の報が入った。その後の調査などから、一部の乗客がコックピットで犯人ともみ合いになったとみられている。
連絡のつかなかった機からは、次第に連絡が入った。センター内に、重苦しい静けさが戻ったのは昼過ぎだった。
(9月28日03:02)