投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 9 月 25 日 11:28:47:
【今週の主な政治日程】
▼25日(火)日米首脳会談(ワシントン)
▼26日(水)経済財政諮問会議
▼27日(木)第153臨時国会召集(12月7日まで)
▼28日(金)社民党党首選立候補締めきり、8月の完全失業率、有効求人倍率発表
【政局の焦点】
●臨時国会はまずテロ対策から
日本の政局は、米国中枢部を狙った同時多発テロで、構造改革や補正予算案など本来全力で取り組むべき懸案が後回しにされ、米軍後方支援のための新法や自衛隊法改正などテロ対策一色になってしまった。27日召集の臨時国会でもまずこうしたテロ対策関連法案が優先処理される見通しだ。小泉純一郎首相は事件発生直後こそ、ややもたついた感があったが、その後、「テロ攻撃は米国のみならず、自由・平和・民主主義に対する重大な挑戦だ。世界の国々とともに毅然として立ち向かっていかなければならない」ことを繰り返し強調。日本にできる最大限の協力を伝えるため、急きょワシントンに向かった。
●心もとない外相と防衛庁長官
米国にしろ、日本にしろここで重要なことは、“主要な敵”はわれわれの生活の基盤を成す「自由・平和・民主主義」を破壊しようとする国際テロ組織であり、決してイスラム教を信奉する国や人々ではないということだ。その意味ではブッシュ米大統領が当初、「十字軍(クルセイド)」とキリスト教徒による異教徒弾圧の不幸な歴史を思い起こさせる言葉を使ったのは明らかな間違い。小泉首相をはじめ各国首脳は今回の場合、言葉には特に神経を使う必要がある。ひと言の言い間違いが各国のイスラム原理主義者に火をつけかねない恐れが十分にある。
それでもやや未熟な言葉を使いがちなブッシュ大統領にはチェイニー副大統領とパウエル国務長官という湾岸戦争の英雄2人がついているが、翻ってわが国は一体どうなのか。田中真紀子外相と中谷元防衛庁長官の2人がその役割を果たして担えるのか。はなはだ心もとないと言わざるを得ない。
と書いたところで、テロ事件の主犯と目されるウサマ・ビンラディンが「米国の十字軍に対する聖戦」を呼び掛けたと報じられた。懸念したように、ブッシュ大統領のひと言がテロリストに徹底抗戦の口実を与えたわけである。
●米国民の「気の長さ」が勝負の分かれ目に
現在、世界の関心は日本を含め、米軍の報復攻撃がいつ始まるかに集まっている。いずれにしてもアフガニスタンのような山岳地帯を攻める場合、巡航ミサイルや戦略爆撃機B52や長距離戦略爆撃機B1による空爆といっても、湾岸戦争時の砂漠やベトナム戦争時の密林よりもさらに効果が薄く、いずれ特殊部隊の投入以外に手はない。
それも11月半ばの降雪までに主犯とみられるウサマ・ビンラディンを逮捕できなければ、解決の長期化は必至だろう。旧ソ連が10年かかってもついに攻め切れなかった難航不落の自然要害の地だ。どちらかと言えば「気が短い」米国民にその覚悟があるのか。戦闘が長期化した場合、大統領の手腕を非難しないだけの我慢強さがあるのか。意外にこの辺りが勝負の分かれ目になる可能性がある。
●懸念されるパキスタン、サウジの崩壊
あまり報道されていないが、今後の戦況に大きく影響してくるのがパキスタンとサウジアラビアの国内情勢。パキスタンはムシャラフ大統領が米軍への協力を言明しているが、一般民衆や軍部はアフガンを実効支配するイスラム原理主義勢力タリバンに同情的で、特に軍幹部や情報部はタリバンとの関係が深いといわれる。このことはパキスタンでのクーデターや大統領暗殺の可能性もあることを意味する。最悪の場合、核保有国が反米イスラム過激派に国家が乗っ取られることになる。
またサウジでも湾岸危機以来、国内への米軍駐留を許している王家に対し、民衆の不満が高まっているといわれ、万一、イラン型の王制崩壊があれば、同国に25%もの原油を依存しているわが国経済への影響は測り知れない。
●「自民・民主」協調路線の可能性も
一方、日本国内では米軍後方支援法案をめぐって新たな与野党協力の枠組みができようとしている。小泉首相は「与党とか野党とか、そういう対立の問題じゃない。党派を超えて、今、日本が何ができるのかだ」と、与野党共闘を呼び掛け、これに野党第1党の民主党が「(対米支援の)入り口は賛成。あとは中身の問題」(岡田克也政調会長)と、政府・与党との協調路線を進めようとしている。
いつもはどちらかといえば反応が鈍い自民党の山崎拓幹事長が首相から指示され、たった5日間で新法案をまとめたのも、国会での法案修正協議の相手を民主党に定めたためとみられる。首相はもともと構造改革でも民主党との共闘を目指している節が随所にみられるが、今回の問題を奇貨として自民・民主協調路線が敷かれるかも知れない。
●首相は集団的自衛権で主体的解釈を
ついでに言えば、集団的自衛権について政府は内閣法制局に解釈を全面的に委ねてしまっているが、それは戦後連綿として続いてきた“憲法9条トラウマ”とでも言うべき現象だ。集団的自衛権について国際社会では、国連憲章第51条で「固有の権利」とされ、国家に必然的に与えられている半ば「自然権」に近いものと解釈されている。
このため小泉首相が行政の長として主体的に憲法解釈し、必要な措置を取ればよいのであって、後の合憲違憲判決は最高裁に任せればよいのである。その点で歴代政府は、内閣法制局という洞穴に逃げ込み、自らの判断を放棄してきたのではないか。今回のテロが「従来の形と全く異なる戦争」という見方に立てば、政府の判断もこれまでと違ってきて当然だろう。
●「中選挙区一部復活」はごまかし
前回も触れたが、与党3党がまとめた衆院選挙制度の「中選挙区一部復活案」は、大都市部でなかなか勝てない自民、公明両党の思惑が一致しただけの「合理性も論理性もない」(小沢一郎自由党党首)代物だ。菅直人民主党幹事長はテレビ番組などで「一説にはテロの対応とバーターで、中選挙区復活を自民に飲ませたといわれている」としきりと強調しているほど。菅氏が「都市と地方で選挙制度が違うというのは論理的に成り立たない」と指摘するように、これなら公明党が当初主張していた「1区3人の中選挙区(150区)案」の方がまだましだろう。同案に対しては自民党内にすら異論があり、万が一にもこういうごまかし法案を通すようでは小泉改革の成功は覚束ない。
(政治アナリスト 北 光一)