投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 9 月 21 日 22:28:19:
世界が終わる前触れは、あまりにも突然やって来た――。倒れることはないと思っていた世界経済のシンボルだったビル、まるで世界を見張っているかのような顔をしていたペンタゴン……。その“崩落”は、あまりにあっけなかった。ハリウッド映画さながらの現実をつきつけられたわれわれに、まだ見残したシナリオがある。そう「核」だ。中東から来た「最強のテロリスト支援家」に狙われた世界――。もちろん日本も例外ではない。この国の危機管理能力を、あなたは信じることができるのか。ブッシュの手は、もうあのスイッチに伸びている。そのとき、あなたは誰と何をしているのだろうか――。
「いま、ニューヨーク市民には、この大惨事をなすすべもなく眺めていることしかできなかったという、一種の無力感が蔓延しています。ただ、いっぽうでは、自分にできることはなんでもやろうと、献血の呼びかけにたくさんの人が集まっている。私も行こうとしましたが、4時間待ちという状況でした」
ニューヨーク市立大の霍見つるみ芳浩教授は、事件直後の現地の模様をこう話す。
世界が言葉を失った。9月11日午前9時ごろ(日本時間午後10時)、米ニューヨーク市マンハッタンにある、世界貿易センターのツインタワービル(ともに110階建て)に、ハイジャックされた2機の旅客機が、相次いで激突。同ビルは炎上し、その後、まるで解体工事をしているビルのように崩落した。
最初の激突から約1時間後、ワシントン郊外の米国防総省(ペンタゴン)に、やはりハイジャックされた別の旅客機が突入。さらに、ペンシルベニア州ピッツバーグ近郊でも旅客機が墜落し、計4機のハイジャック機による、同時多発テロが発生した。
4機の乗客、乗務員だけで計266人、国防総省でも約800人が死亡。数万人が中で働いていた世界貿易センタービルの犠牲者をあわせると、死者は数千人から、1万人を超えるとみられる。まさに、史上最悪のテロとなった。
貿易センタービルには、日本企業も多数入っていた。9月13日現在、富士銀行グループの社員ら、21人の安否が判明していない。また、ピッツバーグで墜落した旅客機には早大生、久下季哉くげとしやさん(20歳)が乗っていた。
●テロは自由主義世界に対する挑戦だ
アメリカのリチャード・ダービン上院議員は本誌の取材に答え、憤りをあらわにした。
「世界貿易センタービルは、観光客も多く、世界中から来たビジネスマンやビジネスウーマンが働く国際的な場所だ。そこをテロの標的に選んだということは、アメリカだけでなく、全世界を対象にしたということに他ならない。これは自由主義世界に対する挑戦だ」
むろん、彼だけではない。いまアメリカ国民すべてが激しい怒りに震えている。
「パールハーバーでの日本軍の奇襲が引き合いに出され、国民はもはやテロではなく戦争ととらえています。テロリストは国家ではありませんが、彼らは、自分たちは軍隊だと主張している。これは宣戦布告なき戦争です。ハイジャックした飛行機で、神風特攻隊を再現したわけですから。アメリカ国民はみな怒りに震えています」(前出・霍見教授)
テロリストたちは、ホワイトハウスとアメリカの大統領専用機「エアフォース・ワン」もターゲットにしていたというから驚きだ。
アメリカのブッシュ大統領は現地時間で11日の午後8時半、テレビ演説を行い、
「首謀者を必ず捜し出し、法の裁きを受けさせる。われわれの軍隊は強い。戦う準備もしている」
と、こちらも“宣戦布告”。合衆国を挙げて、臨戦態勢に入った。
アメリカに、これだけ大がかりな攻撃を仕掛けたテロリストとは、いったい何者なのか。米国での報道などによると、この史上空前のテロは、ウサマ・ビン・ラーディン氏を首謀者とする、イスラム原理主義過激派組織による犯行との見方が強い。
ワシントンDCに本部を置く安全保障問題研究団体「グローバル・セキュリティ」のジョン・パイク代表はこう語る。
「世界で、これほどのテロ事件を起こせる人物は、ラーディンの他に見当たらない。今回のテロは、彼のスタイルにもあっている。同じ日に何機もの旅客機をハイジャックして、地上の建造物に突っ込ませるという芸当は、並の組織力ではできない。そんな芸当ができるのは、ラーディン以外にはいない」
ラーディン氏は、'58年('57年説もある)、サウジアラビア・リヤド生まれ。'79年の旧ソ連軍によるアフガニスタン侵攻の際、イスラム義勇兵(ムジャヒディン)として参加。'91年、湾岸戦争勃発で反米に傾き、'96年には、「聖地を占領する米国人に対する宣戦布告」を出し、アメリカに対するテロを宣言した。'98年には他のイスラム過激派とともに「ユダヤ人と十字軍に対するジハードのための国際イスラム戦線」を結成したという、世界最“凶”のテロリストだ。
●ラーディンの背後にいる真の“黒幕”
ラーディン氏は、今回消滅した貿易センタービルが爆破された事件('93年)をはじめ、サウジアラビア・リヤドの国家警備隊施設に対する自動車爆弾テロ('95年)、サウジアラビア・ダーラン近郊の米軍基地宿舎爆弾テロ('96年)、タンザニアとケニアの米大使館同時爆弾テロ('98年)などの事件に関与したとされる。
「これほどの規模の攻撃を、用意周到にできる組織はほかにない」(上院情報特別委員会のボブ・グラハム委員長)
「ラーディン以外、対米同時テロを仕掛ける組織力や資金力を持つテロリストはいない」(ウェズリー・クラーク前NATO軍最高司令官)
12日には、ボストンの地元紙『ボストン・ヘラルド』が、ラーディン氏と関係があると思われるアラブ人5人のグループが、世界貿易センタービルに激突した飛行機をハイジャックしていたと報じた。
その報道によれば、5人はボストン国際空港で旅客機に乗り込み、カミソリで作った凶器で女性客室乗務員を殺害。コクピットから出てきた操縦士も襲って、ハイジャックしたという。ボストン国際空港の駐車場に残されていた不審車の車内からは、アラビア語で書かれた航空機の操縦マニュアルが発見された。
「ただ、いくらラーディンであっても、あれほど大規模な攻撃をアメリカに対し仕掛ける力はない。おそらくラーディンの背後には、アメリカをもっとも恨んでいる国・イラクか、彼が身を寄せるアフガニスタンの武装勢力・タリバンのスポンサー、パキスタンがいると思われます」(拓殖大学海外事情研究所教授・佐々木良昭氏)
真の“黒幕”は、このどちらかのイスラム教国なのだろうか。報復の対象が判明すれば、アメリカが総攻撃を仕掛けるのは間違いない。これまでもアメリカは、テロに対しては断固たる態度で報復攻撃を行っている。'98年のタンザニアとケニアの米大使館に対する爆弾テロでは、アフガニスタン国内のラーディン氏の拠点とスーダンを、巡航ミサイルで攻撃。昨年10月にイエメン・アデン港で起きた米イージス艦爆破事件の際も、当時のクリントン大統領が「犯人に責任をとらせる」と宣言し、いまだ主犯者を追跡中だ。
「今回は、国の中枢部が襲われ、凄まじい数の被害者を出したテロに対する報復です。アメリカは標的に対し、少なくとも無差別ミサイル攻撃くらいはやるでしょう。'98年のときはトマホークを発射しましたが、今度は“敵国”の一般市民を巻き添えにしてでも、絨毯じゅうたん爆撃をやると思います。そうしないと世論がとても収まらない」(大阪経済法科大・吉田康彦教授)
ブッシュ大統領は、来年の中間選挙を控え、いまなんとしてでも、国民の期待に応えなければならない立場にある。今度のアメリカ軍の行動は、湾岸戦争以来の規模となるであろう。だが、それは新たな危険を伴う行為でもある。
「アメリカによって大量殺戮を受ければ、当然イスラム教徒側も報復する。再び今回のように超大規模なテロが2度3度と起きる。報復が報復を呼び、『目には目を』の論理が大手を振って歩き始めます。ついには文明の衝突、つまり、キリスト教とイスラム教文明の、全面衝突が始まるのです」(前出・吉田教授)
そうなれば、もはやそれは第三次世界大戦だ。
●イスラム原理主義
中東をはじめ、イスラム教地域が西欧のような近代化を目指す中で、伝統が崩れ、貧富の差など不満が広がった。
そうしたなか、「富は喜捨によって貧しい人たちに還元されなければならない」などの、イスラム教義の根本に基づいて社会・経済的矛盾を解決しようとする動きが出てきた。
キリスト教の「ファンダメンタリズム(原理主義)」が語源で、教義を厳格すぎるほど信奉する立場のこと。非寛容なイメージが強いうえ、もともとイスラムを脅威と感じてきた欧米の見方が、この言葉に重なったと考えられる。なかには、貧困救済などの運動に力を入れている組織もある。
イスラム原理主義者はイスラム法による国家の統治を目指しており、イスラムの領域を広げ、守る闘いを「ジハード(聖戦)」と呼ぶ。イスラム復興を目指すうえで、伝統を破壊した西欧文明を邪悪とみなし、武装闘争による「聖戦」を重視する集団も多い。
●核使用が招く恐るべき結末
世界の今後は、いまやアメリカの報復行動のいかんにかかっている。だが、この難局を、はたしてブッシュ大統領で乗り切れるのかという点に、疑問を呈する声は多い。そもそも今回のテロ事件は、ブッシュ政権の失政が遠因という指摘がある。アメリカ在住の政治経済アナリスト・伊藤寛氏はこう語る。
「イスラエルのシャロン首相とアラブ諸国との激しい軋轢を、ブッシュ大統領は放置してきました。パウエル国務長官はブッシュ大統領に、『アラブ諸国をなだめるため、イスラエルを抑えたほうがいい』と意見を具申した。ところがブッシュは聞かず、ライス安全保障担当補佐官とともに、イスラエルの好きなようにさせておけ、という態度をとった。そのためいまや、アラブ諸国では穏健派の、エジプトやヨルダンとの関係も悪化してきているのです」
また、ブッシュ大統領の、大統領としての資質そのものに疑問符を付ける声もある。
「同時多発テロが起こったとき、ブッシュ大統領はフロリダにいて、テロ発生の報でワシントンに戻ることになりました。でも周囲のアドバイザーから『命を狙われているから直接戻らないほうがいい』と言われ、ルイジアナに進路を変えました。ルイジアナに緊急避難用シェルターがあるのでしょう。そこで数時間過ごし、ワシントンに戻った。決断力に乏しいというか、他人の言いなりというか、この経緯を見ると、ブッシュ大統領には、どこかひ弱さを感じます」(ワシントン在住ジャーナリスト・堀田佳男氏)
そんなナイーブな性格で、大国アメリカの難局を打開していくことができるのだろうか。国際ジャーナリスト・角間隆氏もブッシュ大統領の資質を懸念する。
「彼は自分が頭がよくないことを痛感しており、学生時代からコンプレックスを持っている。だから、自分の周りに優秀な人材を置いて、彼らにまかせている。本人は決断力も根性もない。テレビで見てもおどおどしている」
このブッシュ氏の性格が、世界にとって真に最悪の結末を招く恐れがあるという。
「いまのアメリカ国民の怒りからいって、ライス補佐官らタカ派の部下が、テロの首謀国に対し核兵器の使用を進言する可能性があります」(前出・角間氏)
その時、ブッシュ大統領はどうするか。
「これまでの経験で、ブッシュ大統領も通常兵器での空爆には限界があることがわかっている。もっと強い打撃が必要と考えるでしょう。とすると、再度テロ攻撃をさせないためにも、最後の切り札として核のボタンを押すという決断を下すこともありえないことではない」(軍事ジャーナリスト・鍛冶俊樹氏)
状況は一気に、破滅的様相を帯びていく。
「アメリカが核攻撃を繰り出しても、過激イスラム勢力すべてを一掃できるわけではない。生き残ったイスラム側は、今度は生物兵器や化学兵器を使用して報復することになるでしょう。それに対して、再び核の報復が……。そうなれば後戻りはできません。もはや第三次世界大戦どころか最終戦争、アルマゲドンです」(日本大学国際関係学部・大泉光一教授)
マンハッタンの超高層ビルが、多数の人命とともに消滅した2001年9月11日。すべてはあの日が始まりだったと、後悔とともに思い出す日が来るのだろうか。