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【瀋陽総領事館事件】
●「戦後外交最大の失態」との酷評も
中国・瀋陽の日本総領事館で起きた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の住民5人による亡命未遂事件は、案の定と言うべきか、日本側が多くの不手際を露呈したこともあり、早期解決はならなかった。しかし、ここで指摘しておかなければならないことは、今回の亡命は事実上「成功」だったことである。あれだけはっきりと総領事館に侵入した映像による証拠を突き付けられると、もはや中国は国際社会を敵に回して北朝鮮への強制送還はならず、5人を第3国に出国させる以外に方法はない。その意味で偶然か必然かは別にしても亡命者とその支援者の意図は当たった。残ったのは、日本の対応のまずさと主権、人権を守る意識の低さだけ。識者の中には今回の外務省の対応について「戦後外交最大の失態」(中西輝政京大教授)と酷評する者も多く、不祥事まみれの同省がさらに傷がついたことは間違いない。
●中国に“完敗”した日本外交
この1週間、予想以上に多くの事が起きたため、その詳細をいちいち論評するゆとりはない。しかし、全体を通して言えることは第1に、日本側の調査報告書があまりにズサンで、中国側の度重なる反論を許したことだ。意図的と思える中国側の「新事実」の小出しのたびに、日本側が追認せざるを得なかったことは外交戦術として最悪だった。事の是非や信ぴょう性は別に、この事実だけで日本外交は中国に“完敗”したと言ってよい。日本が中国に「いいようにあしらわれた」との印象はぬぐえないであろう。
第2に、日本側に亡命や難民に対する基本認識がなかったことだ。いや正確に言えば、「亡命者や難民はできるだけ受け入れない。面倒には関わりたくない」との一応の対処方針はあった。しかし、そういう半ば「鎖国体制」で、続発する北朝鮮からの亡命者に対処できるわけもない。また入れないなら入れないで、総領事館の門を固く閉じるなど警備を強化していたわけでもない。要するに上から下まで危機管理体制がなかったに等しい。
その証拠に事件発生当時、副領事が本省や北京の日本大使館に指示を仰いだ答えが「追って指示があるまで待て」「現状を維持せよ」「無理するな」―である。これでは緊迫する情勢下で、もともと外交官でもない現場の人間がとっさに判断できるわけがない。外務省や大使館の中には、厚生労働省と山口県警から出向してきた2人の副領事にすべての責任をおいかぶせようとする動きもあるやに側聞するが、言語道断である。この2人が1人の身柄も保護できなかったことの責任は免れないにしても、その後の対応も含め真に責任を問われるべきは大使とアジア太平洋局長、あるいは外務省や政府全体であろう。
●在外公館は「自前警備」の強化を
起きてしまったことを、いつまでもあげつらっていても建設的ではないので、今後取るべき指針を2点だけ提案しておきたい。ひとつは、在外公館の日本による「自前警備」の強化である。事件のあった瀋陽総領事館では、門の外を中央軍事委員会と国務院(中央政府)公安部の配下にある武装警察が守り、内を中国側「服務公司」の警備員が守っていた。何の事はない、総領事館は内も外も中国側の支配下にあったのである。中国側がウィーン条約のうち「領事館の安全確保」の条項をたてに総領事館内に侵入してきたのは、ある意味で“当然”なのかも知れない。普段から自分たちの管理下にあったわけだから。
この状況を早急に変える必要がある。といって米国の海兵隊や英国の特殊部隊のように日本の自衛官に武装して門内外に立たせるわけにはいかず、相応の訓練を受けた人間を警備要員として在外公館に派遣する以外にないだろう。最も現実的な方法は各都道府県警察の機動隊員の中から選抜することだろうか。
また公館の門は常時閉門とし、入館希望者全員に対し、日本人職員がチェックする必要がある。ちなみに瀋陽総領事館では門外の武装警察官がチェックしていた。つまり入館の諾否は中国側が握っていたわけである。
●亡命・難民受け入れには国民のコンセンサスが必要
もうひとつは最初に触れた亡命者・難民受け入れの基本方針を早急に再検討し、日本政府として、あるいは日本全体としてどう対処するかのコンセンサスを得る必要がある。一部マスコミのように「政治亡命や難民を受け入れよ」と言うのは容易だ。しかし、日本が亡命者や難民を広く受け入れることが明らかになった途端、何万人あるいは何十万人という人間が押し寄せることを覚悟しなければならない。当然、日本国内の治安は悪化するし、それでなくても失業者があふれている巷にさらに職を求める人間が増加するのである。当然、ある程度の世情不安は避けられない。そうした覚悟なしに、水際の入国管理政策は変えられないことを国民一人ひとりが考えなければならない。その際、仮に北朝鮮が近い将来、崩壊した場合、日本には100万人単位の難民が押し寄せる可能性が十分あることも考慮する必要がある。
【政局の焦点】
●有事関連法案は次期国会に継続か
今国会の会期が残り1カ月間を切ったことで、重要法案成立のためには30〜50日間程度の大幅延長との意見が政府・与党内で大勢となってきた。それでも会期中に成立が見込まれるのは、小泉純一郎首相が構造改革の一環として最も力を入れる郵政公社関連4法案と医療制度改革関連法案に限られる見通しだ。これまでのところ最も審議が進んでいる有事関連3法案と衆院小選挙区「5増5減」の公職選挙法改正案は、首相側から民主党に対し、「選挙制度とか有事法制は野党第1党と合意ができなければやらない。与党3党でまとめたから何が何でもとは思わない」との意向が伝えられており、修正案が短期間にまとまらない限り、今国会での成立は見送られる見通し。またマスメディア規制として与党内でも評判が悪い個人情報保護法案と人権擁護法案は、審議開始前から首相が修正検討を指示するという異例の展開となっており、次期国会への継続にもならず廃案となる可能性がある。
焦点の郵政関連法案は、郵政族のドン・野中広務元幹事長が法案を容認する姿勢に転じたため、今国会中に少なくとも衆院通過は図られる見通し。野中氏は、同関連法案が仮に通らなかった場合、小泉首相が衆院解散に踏み切る可能性ありとみている。このため、まず解散権を封じた上で内閣改造・党人事などで主導権を握った方が得策との判断したようだ。しかし、野中氏の片腕の古賀誠前幹事長が会期延長と郵政関連法案成立に難色を示しているほか、郵政族最強硬派の荒井広幸総務部会長が依然反対の姿勢を崩さないなど、必ずしも野中氏の威令が党内に届いていない。このため、法案修正などをめぐって今後さらに曲折があろう。
●佐藤容疑者逮捕は無理筋か?
鈴木宗男衆院議員の最側近とされた佐藤優元外務省主任分析官が東京地検特捜部に背任容疑で逮捕されたことについて、自民党内では「検察はだいぶ無理しているという感じがする」(野中氏)、「公金流用というのは別件逮捕だ。会計検査院の検査でも流用で逮捕されたことはない」(自民党幹部)、「検察ファッショだ。内部で始末書でも書けばいいこと」(橋本派若手)などと、非常に評判が悪い。
逮捕の具体的容疑は、旧ソ連諸国を支援するため日本と各国政府との協定で設立された国際機関「支援委員会」の予算をイスラエルでの学会への旅費として不正支出したというもの。しかし佐藤容疑者は決済書に決済するだけの資格がなかったため、同予算案を起案した前島陽元ロシア支援室課長補佐との共謀とされた。ただ同予算は支援委員会の条約上の解釈権限を有する同省条約局が承認しており、これが背任になるなら、同決済書にサインした当時の条約局長や欧亜局長も逮捕されなければならない。つまり外務省ぐるみということになる。
検察の狙いは言うまでもなく“本丸”の鈴木議員にあり、そのために側近の佐藤容疑者をまず別件で逮捕したということなのだろう。しかし、仮に同容疑者が勾留中に核心に触れる供述をしなければ、同容疑者が不起訴になるだけでなく、このルートでの鈴木議員の逮捕はできないことになる。もちろんそうなれば検察の威信は大きく損なわれる。
(政治アナリスト 北 光一)
・分析「日本の政治を読む」〜命取りとなった日本の初動ミスと「主権」意識の低さ
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