【ジュネーブ大木俊治】
国連環境計画(UNEP)は16日、地球温暖化の影響でヒマラヤ山脈の氷河が急速に溶け出し、近い将来、洪水によって数万人が直接の被害を受ける大災害が起きる恐れがあるとする報告書を発表した。UNEPのテプファー事務局長と、調査を担当した専門家らは同日、ジュネーブの国連欧州本部で記者会見し「このままでは5〜10年後にヒマラヤの氷河湖が決壊する可能性がある」と訴えた。
専門家チームは99年から今年にかけ、現地調査や衛星写真などをもとにネパールとブータンの氷河や氷河湖を調査した。
それによると、両国で約4000カ所の氷河と約5000カ所の氷河湖の存在が確認された。うち44カ所の氷河湖は氷の溶解によって水位が上昇する危険な状態であることも分かった。水位の上昇で40年余りの間に面積が6倍に広がった氷河湖もあるという。また、ブータンでは氷河が年平均30〜40メートルも後退しており、ネパールでは年100メートル後退した例もあった。
ネパールの49カ所の測候所の観測記録では、70年代半ばと比較して気温が平均で約1度上昇しており、温暖化と氷河溶解の因果関係が裏付けられた形だ。さらに報告書は「世界の水源の破壊によって、下流の水系が干上がる恐れがある」と指摘し、地球環境に巨大な影響が出ると警告した。
UNEPは、国際社会に温暖化防止策への早急な取り組みを訴える一方、両国政府と協力し、早期警戒システムの開発や、排水施設の建設などの対策を進めている。しかし、排水施設の整備には一つの湖だけで100万〜300万ドルの費用が必要で、国際支援が急務になっている。