投稿者 YOCHIREN 日時 2001 年 8 月 23 日 17:10:03:
回答先: 東海地域の異常な地殻変動続く 地震予知連で報告 投稿者 asahi 日時 2001 年 8 月 22 日 10:08:35:
第144回地震予知連絡会議事概要
平成13年8月20日、国土地理院関東地方測量部において、第144回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動、
兵庫県南部地震の前兆と予測可能性などについて観測・研究成果の報告が行われ議論がなされた。以下に、その概要について述べる.
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間、北海道東方沖、青ヶ島,南西諸島などの地域でM5を越える地震が発生した.
M5以上の全国の地震 (2001.05.01−2001.07.31)(気象庁資料)
2.東海地域の地殻活動について
東海地域の推定固着域周辺における地殻内の地震活動に顕著な変化は見られない.フィリピン海スラブ内では,2001年4月に発生した
静岡県中部の地震の余震域を除いても地震数が増加傾向にある.
固着域周辺の地震活動(地殻内 1997年以降)(気象庁資料)
固着域周辺の地震活動(フィリピン海スラブ内 1997年以降)(気象庁資料)
水準測量結果によると,最近3ヶ月間に御前崎の先端付近が若干隆起したが,こうした変化はこれまでにも時々見られたものである.
森〜掛川〜御前崎間の上下変動(国土地理院資料)
掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595の動きに特に変化は見られないが,最近は年周変化の傾向が変化したように見える.
水準点2596(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)
一方,浜名湖周辺では1年間に10mmを越える顕著な隆起が観測された.この隆起量は通常よりも大きな値であり,GPSで検出された
異常地殻変動との関連があると考えられる.
東海地方の上下変動(国土地理院資料)
GPS観測で見つかった東海地域の異常地殻変動は7月後半時点でも継続している.また,一連の変化は2000年の伊豆諸島の地殻活動
と前後して開始したようにも見える.
東海地方の地殻変動(国土地理院資料)
東海地方の地殻変動(国土地理院資料)
浜名湖−東濃地域の地震活動を調べると,異常地殻変動が生じている地域の周辺でプレート境界上面の地震活動が低下している.また,過
去の地震活動を調べると,1980年代後半にも同様な静穏化現象のあったことが明らかになった.
浜名湖−東濃地域深部地震活動(名古屋大学資料)
浜名湖−東濃地域深部地震活動(名古屋大学資料)
この異常地殻変動はGPSの観測精度からは有意と考えられる.プレート境界面のゆっくりとしたすべりによる解釈が現状では最も有力で
あるが,モデルには様々な不確定要因があり,結論を得るには至っていない.いずれにせよ,今後の推移を注意深く監視していくことが必
要である.
3.福島県沖の地殻活動について
2001年2月25日に福島県沖でM5.8の地震が発生し,沖合に設置されたGPSで地震後半年間にわたる地殻変動が検出された.周辺の
地震活動を詳細に検討した結果,この地震はプレート境界で地震活動が活発な地域の一部を震源域として発生しており,翌日に発生した最
大余震(M5.4)や1987年に同地域で発生したM6級の地震の破壊領域が互いに重なり合うことなく分布している.今回発生した地震の余
震域に20km×40km程度の断層面を仮定すると観測されたGPSの変位を説明することができ,本震の発生後にゆっくりとしたすべりが
生じたものと推測される.
(東北大学資料)
(東北大学資料)
今後,こうした観測例を増やすことによりプレート境界の挙動が解明されていくものと期待される.
4.箱根周辺の地震活動について
2001年の6月以降,箱根で地震活動が活発化した.震源はほぼ南北方向の並びと,それに直交する東西の並びに分かれ,震源は5km以
下と浅い.
箱根周辺の地震活動(東京大学地震研究所資料)
湯河原の堆積歪み計やGPSにも関連した地殻変動が観測されており,火山性の活動と考えられる(気象庁資料,14頁).
湯河原体積歪変化と積算降水量(気象庁資料)
5.兵庫県南部地震の前兆と予測可能性について
トピックスでは,1995年兵庫県南部地震について,活断層,地震活動,地殻変動,地下水,電磁気などの様々な観測事実を現在の知見
で見直した場合に,地震発生の予測が可能かどうか,また,予測を実現のためにはどのような問題点があるかについて議論した(世話人:
梅田康弘委員).震災後に行われた活断層調査結果に基づいて考えると,淡路島から有馬−高槻構造線にいたる活断層系のシステマティッ
クな調査が事前に行われていれば、兵庫県南部地震の切迫性に気づいた可能性が高い.琵琶湖西岸断層周辺は現在そのような観点で調査さ
れている.
(産業技術総合研究所資料)
長期的な地震活動データを見ると,兵庫県南部地震も2000年鳥取県西部地震も中規模の地震活動があった地域で発生しており,注意すべ
き断層の抽出は可能だと考えられる.
(京都大学資料)
兵庫県南部地震の震源域は事前に空白域として指摘されており,場所の特定は可能であった.
(京都大学防災研究所資料)
また,周辺地域では本震発生の数ヶ月前から地震活動が静穏化しており,異常の検出は可能であったと考えられる.
(京都大学防災研究所資料)
こうした解析を行う場合には,複数のパラメータを重ねて見る工夫が重要であり,b値やフラクタル次元に現れた変化は,地殻歪みの変化
と同期していたようにも見える.
(京都大学防災研究所資料)
一方,測地測量による地殻変動観測では歪みの絶対量を知ることができないため,地震発生を予測する上であまり効果的でなかった.地殻
変動連続観測では近畿地方の広域にわたり異常が検出されていたが,場所の特定は困難だったと思われる.地下水観測では地震前兆と考え
られる観測例が3つ報告されたが,これは震源域の真上付近でデータが得られた結果と考えられ,場所の特定が事前になされた場合には有
効な観測手段になると期待される.
地下水観測から検知された地球科学的な前兆現象(東京大学理学部資料)
電磁気現象についても多数の異常が観測されたが,こうした異常が観測された場合に,それが必ずしも大地震につながるとは限らない点に
注意が必要である.また,前兆現象から震源域を特定することは重要かつ困難な問題であり,組織的な観測により異常の原因を絞り込んで
いくような体制の整備が重要である.