「そう慌てなくても、あと半年もすれば、一通り片付くんじゃないの」
大手ゼネコン首脳は、あっさりとこう言った。“片付く”というのは、ゼネコンの不良債権処理と再編劇のことである。
本来、企業再編は、競争力を強化する目的で行われるはずだが、ゼネコンの場合は事情が異なる。あくまでも、金融機関の不良債権処理が目的であって、ゼネコン自身が再編したくて、するわけではない。
「経営統合の時期は、1、2年後をメドに」−。三井建設と住友建設もマスコミ報道などに背中を押されるように経営統合の発表を行った。
これを聞いた準大手ゼネコンの幹部は、「いまやドッグイヤーといわれるような時代に、『1−2年後』の統合なんて、やる気の無さの表れみたいなもの。金融機関に言われて、嫌々という感じが出ている」と“感想”をもらした。
つまり、「あと半年もすれば…」は、ゼネコンの不良債権処理をそれ以上は先延ばしできないだろうという、あくまでも金融機関側のタイムリミットなのだ。
問題は、金融機関側の都合で強行されるゼネコン再編で、本当に建設業界の構造改革が進むのか、ということだ。
債務免除と引き換えに、ゼネコン側は、不採算部門や重複部門の徹底的なリストラを実施する必要があるはずだが、もともと再編には消極的である。
三井建設と住友建設でも、経営統合までに従業員数を合計で5163人から4600人体制へと、約1割削減するとしている。ただ、ゼネコンの場合、売上高と従業員数はほぼ完全に比例する関係にあり、現在の建設需要の動向からみて、1−2年後には黙っていても1割程度、売上高が減少し、それに伴って従業員も1割削減せざるを得ない事態は十分に予想される。
さらに、三井・住友建設にフジタなどが合流するとなれば、統合後の経営トップは間違いなく外部から招へいされるだろう。その場合、国土交通省OBが天下る可能性が最も高い。
果たして金融機関と国土交通省のコントロール下に置かれたゼネコンが、大手ゼネコンを脅かすほどの存在となって、競争を促進し、市場の活性化をもたらす可能性はあるのだろうか。
当然、鹿島や清水建設など大手ゼネコン5社は、多少の支援を行うことはあるかもしれないが、基本的に再編シナリオからは蚊帳の外である。
業界を指導する国土交通省も、「大手5社の再編なんか別に考える必要なんてないでしょう。問題は準大手以下ですよ」(担当幹部)というほど、大手5社体制を崩そうなどという意識はまったくない。
どの業界でも、首位争いが起こることで、業界全体が活性化し、消費者にも安くて良いものが供給される。ビール業界では、アサヒビールがついにキリンビールをトップの座から引きずりおろし、安くて消費者に喜ばれている発泡酒も誕生した。そうした他業界と比較すれば、建設業界はまったくの無風地帯。大手5社の受注高は気味が悪いほどに横並び状態である。
「過剰債務の問題が片付けば、建設需要が減少するなかで、あとは市場原理に任せていけばよい」(国土交通省幹部)。果たしてそれでゼネコン再編が進むのか。
「公共工事でも発注件数を減らせば元請けチャンスが減ってゼネコン再編が進むとの考え方もあるが、やっても無駄。下請けにもぐりこむだけで業者数は減らない」(同)
どうやら市場原理に任せても、丸投げ(一括下請負)が横行するだけのようである。