「金融庁は言うまでもないが、どうやら小泉総理も国会での答弁を聞く限り、現時点では公的資金の再注入に踏み切るつもりはサラサラないようだ。極めて残念なことだが、近い将来、日本経済が“最悪の事態”に突入する可能性が高まってきた…」
自民党の若手代議士が国会中継を横目で見やりながら、こうつぶやいてみせた。
2月12日、柳沢伯夫金融担当大臣は閣議後の記者会見で次のように述べた。
「(銀行へ強制的に公的資金を注入することについては)これはちょっと考えられないことだ−」
もっともここへ来て、政府・自民党内では、柳沢金融担当相−金融庁ラインとは全く正反対の立場に立つ“強制注入論支持勢力”が大勢を占めつつあるのが実情だ。
去る2月8日には、自民党デフレ対策特命委員会(相沢英之委員長)が、政府による強制注入の容認を新たな検討課題として打ち出しているし、竹中平蔵経済財政担当相が中心となってまとめた政府の統合デフレ対策の原案でも、大手銀行が問題債権に対する引き当てをさらに強化することを前提にする形で公的資金の再注入も視野に入れることが盛り込まれているのが実情だ。
「少なくとも柳沢金融担当相は、政治的に追いつめられつつある」(自民党国会議員)
こうした状況の中、小泉純一郎総理は、少なくとも12日の段階では立場を鮮明にしていない、と言っていいだろう。
とりあえず12日明らかにされた政府の“総合デフレ対策”では、大きく分けて2つの施策が柱となった。 1つは、不良債権処理のさらなる促進。2つ目は、日銀による一層の金融緩和。「どれもこれも政策的に1つも目新しさはない。マーケットに失望感が広まることは間違いない」(大手証券会社幹部)
とは言え、不良債権処理を市場が適正と認める水準まで押し進めていけば、過小資本に陥る大手行が出てくることは確実だ。
「とは言え、2002年3月末段階で、“ビック4”の中から自己資本比率が8%のラインを割り込む銀行が出てくる、という“試算”もあるのです。つまり、このままの状況では“ビック4”の一角を占める大手銀行の中から過小資本に陥るところも出てくる、ということに他なりません。実は、小泉総理もこの“試算”については目を通しているのです」(自民党有力代議士)
もしこのことが事実ならあまりにもショッキングな事態が発生しつつある、と言えるだろう。“過小資本に陥る銀行”がどこであるかを明らかにすることは、現時点ではあまりにも影響が大きいと思われるので、とりあえず伏せておくことにする。
改めて説明するまでもなく、国際業務を行う銀行に関して言えば、自己資本比率8%以上を維持することが国際的に義務づけられている。
「仮に3月末段階で、8%割れという事態に陥ったら当該銀行が国際金融マーケットから締め出されるだけでなく、邦銀全体に不信の眼がむけられることになるだろう」(前述の自民党有力代議士)
しかも問題なのは、こうした“状況”に邦銀が置かれていることを国際金融マーケットが見透かしている、という点だ。
いよいよ小泉総理が“最終決断”を下す時が近づきつつあるようだ。
2002/2/13