円安がじりじりと進み、東京外為市場では今月初め、円が三年四カ月ぶりに一時一ドル=一三五円台まで下落した。昨年九月の高値一ドル=一一六円台からの下落率は16%になる。円安の最大の要因は国内景気の悪化に尽きる。これが株価下落、企業倒産増加、金融システム不安などと重なり合って円売りを強めている。
逆に円高要因は小泉内閣の構造改革への期待や経常黒字などだ。だが、外相更迭で内閣支持率は急落、構造改革に陰りも指摘される。経常(貿易)黒字も縮小傾向にあり、対日輸出が不利になる円安に警戒感を示す中国や東南アジア諸国の“口先介入”も、相場を大きく動かす力はない。
ただ、円安が進めば輸入価格が上昇、デフレ解消につながるといわれる。自動車など輸出産業の収益拡大で景気回復をもたらすとして、政府内には「円安容認論」が根強い。
一方で過度に円安が進めば株安、債券安を含めた「日本売り」に拍車が掛かり、一千四百兆円といわれる個人金融資産が海外へ流出する恐れもある。このため、日銀は通貨の信認を失うような円安には断固とした姿勢を見せている。
日本経済の低迷が今後も続く一方で米国経済が立ち直りを見せれば、円売りドル買いが一気に進む可能性もある。(鈴木宏征)