●外相更迭は虚偽答弁が原因か
以前、小泉政権存続のデッドラインをあえて数字で示せば「内閣支持率50%、日経平均株価9000円」と書いたが、田中真紀子外相更迭をめぐる騒ぎが一段落し、この2つの指標も危険水域目前でどうやら下げ止まったようだ。今回の騒動は、もともと虚言癖のあったとされる田中外相が予算委員会で虚偽答弁をし、第2次補正予算の成立が危うくなったため、首相としてもかばい切れなくなったのが真相である。あとは付随的なことで、今回の問題の本質ではない。(外務省とNGO、鈴木宗男議員との問題は少なくとも外相更迭とは直接関係ない)
それをあたかも小泉首相の路線が変わったなどと騒ぎ立てたのは、田中氏を取り上げることによって視聴率や部数を稼いできた一部のテレビや新聞、週刊誌などである。(従ってこれらのマスコミは今、同氏を“悲劇のヒロイン”に仕立てるのに躍起になっている。しかしこの企ては必ず失敗に終わるだろう)
これらのマスコミに煽動され、小泉内閣支持から不支持に回った人々は本来、この政権が目指した「改革」の意味を理解していなかった。つまり、これらはいわば支持率の“水増し”部分だったのであって、この層が離れた50数パーセントがこの政権本来の支持率と言ってよい。従って今回減った約30%はその大部分がもう元に戻ることはないだろう。(ちなみにこの層が民主党など野党にいくとは考えにくい。その時々で投票行動を変えるいわゆる無党派層となるか、元々の政治的無関心層に戻るだけだろう)
●政局見通しで3つのケーススタディ
今後の政局を読むに当たっては、(1)内閣支持率急落に伴う政権の求心力低下はどの程度か(2)小泉首相が構造改革をどこまで断行できるか(3)これに対する抵抗勢力の反対の強さはどの程度か(4)経済・金融危機は本当に発生するのか、あるとすればいつか(5)経済的危機は国内からか、あるいは外的要因か―など不確定要素が多過ぎて、なかなかはっきりとした道筋は見えてこない。
そこで問題を整理するため、いくつかに分けてケーススタディしてみたい。
(ケース1)小泉首相が不退転の決意で構造改革を推進、抵抗勢力の反対もかわす。「3月危機」も乗り切り、米国経済が上向くに従い日本の景気も底を打ち、反転上昇の機運が出てくる。支持率も60%台まで回復。内閣総辞職・衆院解散などの可能性は遠のく。
(ケース2)抵抗勢力の反対で改革関連法案がことごとくとん挫。3月危機も発生。支持率は50%を大きく割り込み、平均株価も8000円台と低迷。小泉内閣は責任をとって総辞職。麻生太郎氏が後継首班となり、積極財政に政策転換するものの、外資から「日本売り」を浴びせかけられ、国債価格は暴落する。
(ケース3)状況は(2)と同じだが、小泉首相は改革の是非を国民に問うため、衆院を解散。自民は分裂選挙となり、小泉氏を支持する自民、民主両党の一部が新党結成し、政界再編。しかし「小泉新党」でも大きく勝てず、不安定な政局が続く。
近未来の政局を占うと、ごく大雑把に言ってこういう3つの流れが想定される。このうち現状では最もあり得ないのが(2)のケース。小泉首相に最近会った人はすべて首相が意気軒高で、とても弱気になって総辞職するような可能性がないと指摘している。首相周辺は、仮に予算不成立や内閣不信任案成立などで内閣総辞職か解散のどちらかを選ばなくてはならなくなった場合でも、小泉首相は必ず「解散」を選択すると言い切る。
こうした証言に加え、自民党内の抵抗勢力も早期の解散・総選挙を望んでいるわけではなく、小泉首相をある程度のコントロール下に置きたいと思っているだけということを勘案すると、(1)のケースをベースに(3)が加味されるのではないか。つまり、小泉首相は支持率低下を機により一層改革実現に邁(まい)進し、抵抗勢力がどうしても反対するなら解散も辞さず―と、こういうことではなかろうか。もちろんその場合「3月危機」が発生しない、あるいは発生しても小規模に終わるという前提付きなのだが。
●銀行への資金注入で割れる閣内
大手銀行に対する公的資金注入について閣内が割れている。いざとなったら注入し、国有化もやむなしとしているのが小泉首相、竹中平蔵経済財政担当相、福田康夫官房長官ら。これに反対しているのが塩川正十郎財務相と旧大蔵省出身の柳沢伯夫金融担当相だ。小泉内閣はよく橋本内閣とその類似性が比較されることが多いが、橋本龍太郎首相(当時)は政策がなまじよく分かったがゆえに、大蔵省の手の上でいいように踊らされ、ついには政権を潰してしまった。今回もそうならなければよいがと考えるのは何も筆者ばかりではあるまい。もし財務省側がそうではないと反論するのなら、その前に、なぜ不況がかくも長く続くのか、その責任者は一体誰なのか、まず聞きたいものだ。
●辞任不可避の武部農水相
狂牛病をめぐり問題発言が相次いだ武部勤農水相の辞任が不可避の情勢となっている。恐らく調査結果の全ぼうが明らかになった時点か、遅くとも2002年度予算成立直後の更迭は免れないだろう。狂牛病については、触れる機会がなかったが、薬害エイズをめぐる厚生省の対応とそっくりとだけ指摘しておきたい。役人が四の五のと言い訳している間に対策が後手後手に回り、被害が拡大するという典型的なパターン。いつも泣かされるのは何の情報も手立ても持たない庶民や酪農家だ。それにしてもこのように無責任な政治家を農水相のような重要閣僚に指名した小泉首相の任命責任は大きい。
●橋本派幹部に告発状
民主党関係者によると、同党は現在、自民党橋本派の有力幹部を東京地検に告発する準備を進めているという。内容は日本道路公団が全国13カ所で決めた工事中止に介入し、元に戻させた件。これが「あっせん利得罪」に当たるという。もし仮に地検がこれを受理し、正式な捜査に着手すれば、抵抗勢力は大打撃を受ける可能性がある。これに対し小泉首相がどう反応するかは、今後の道路関係4公団の廃止・民営化の行方を占う上で、重要な要素となる。場合によっては、これが取引材料となって抵抗勢力が首相側に折れてくることも考えられる。
(政治アナリスト 北 光一)