金価格が急騰している。国内での金地金の店頭価格(税別)は、先週末に1グラム当たり1361円と、金融システム不安が高まった98年8月以来の高水準となり、昨年2月の安値から36%上昇した。昨年9月の米同時テロ後、海外相場が堅調なことに加え、為替相場の円安・ドル高が国内価格を押し上げている。今年4月のペイオフ(破たん金融機関の預金払い戻し額を元本1000万円とその利息に限る措置)の凍結解除を前に、資産を金に移し替える人も増えている。(富塚 正弥)
■人気過熱
金投資は、95年の阪神大震災や97年の山一証券の破たんなどの「有事」に活発になった。しかし、貴金属取引大手、田中貴金属工業の池田収・社長室長は、「今回は5キロ、10キロ単位のまとめ買いが目立ち、上げ相場が続いても客足が途絶えない。今までのブームと明らかに違う」と話す。
従来は、値下がりしたときに割安感で少しずつ買ったり、「有事の後も活況は2―3週間しか続かなかった」(池田室長)という。
同社で客足が増え始めたのは、株価下落が顕著になった昨年夏ごろからだ。9月の米同時テロ後にさらに急増した後、やや落ち着いたものの、今年に入って一段と客足が増えている。
金商品の国際広報機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC、本部・ロンドン)によると、昨年の金地金と金貨の国内販売量は、前年比25%増の64・8トン。その6割近くは米同時テロ後の9月以降に集中し、今年1月は前年同期の3倍程度に達した模様だ。
■海外でも急騰中
金価格は海外でも上昇している。欧米市場は先週、1トロイオンス(約31グラム)300ドルの大台を突破し、2年ぶりの高値をつけた。
米エネルギー大手、エンロン社の破たんなどで企業会計への不信が高まり、株や債券などの資金の一部が金に流れたようだ。
国際的な金価格は90年代には低迷が続いた。欧州の国々が通貨統合に向けて保有していた金を放出したほか、米国の国際的影響力が強まり、有事には金よりドルが買われたためだ。
WGCの豊島逸夫・日韓地域代表は、「金価格の上昇は、米国への信頼が揺らいできたことも一因だ」と見ている。
一方、国内は、株価低迷や、MMF(マネー・マネジメント・ファンド)の元本割れなど不安材料が多い。ペイオフ対策で、満期を迎えた定期預金を普通預金に振り替える人が増え、待機資金の一部を金に向けていると見られている。
■リスク商品
金の魅力は、「万が一でも紙くずにならない」ことだ。しかし、元本は保証されず、利息もつかない。
また、店頭価格は海外市場のドル建て価格に連動するため、為替の動きによっても変動する。海外で値上がりしても、円高になれば、店頭価格が逆に値下がりすることもある「リスク商品」だ。
金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏は、「金が注目されるのは、金融不安や円安など、日本の経済力が弱まったことを表している。その中でどう自分の資産を守るか。金投資は短期の値上がり期待よりは、資産をうまく分散させるリスク回避手段の一つと考えた方が良い」と指摘している。
(2月11日18:21)