バブル時代、中島健頭取(故人)の元でまさに土地、株漁りに狂奔したのが旧三井信託銀行だった。それは大口融資先のなかに麻布自動車、秀和、第一不動産、コーリン産業、森学園、八大産業といった名うての地上げ屋、仕手筋がたくさんいたことでも明らか。このすべてが現在は破たん、そして多くのオーナーが塀の中に落ちている。
その結果、旧三井信託銀行は他信託以上の巨額不良債権を抱え、生き残りをかけて中央信託銀行と合併。この2月1日には持ち株会社、三井トラストホールディングスが発足した。また、すでに年金運用など法人向け信託に特化した三井アセット信託銀行を発足させている。
その過程で、旧三井信託銀行は信託銀行としては最大の約4000億円もの公的資金を受けている。
いまさら断わるまでもないが、公的資金はいわば我々の税金。その投入は経営健全化が必須条件であり、十分な経営健全化計画を履行しないために収益が改善されない場合には経営責任が問われることはいうまでもない。
ところが、同行の元行員はこう打ち明けるのだ。
「公的資金投入の時はさすがにボーナスも給料も一部カットになりました。しかし、批判の嵐が過ぎると、ボーナスの減った分は別名目で支給、給料は堂々と元に戻りました。そして十分なリストラは未だ行われていない。やる仕事のない中堅幹部がゴロゴロいて、仕事は週2回程度アリバイ的に取引先に電話することぐらい。後は社内で雑誌などを読んで過ごしています。これで年収800万円ぐらいもらっているんですから、OBとしてもこの上なく恥ずかしいというか、“恥を知れ!”とさえ言いたいですよ」
そこで以下、公的資金投入(99年3月)より約半年後に金融再生委員会向けに出された元行員の憂える声(文書)を掲載しておく。このバブリー体質が何ら変わっていない以上、中央三井信託が生き残れるわけがない。また、最近出て来ている公的資金の再投入など問題外だろう。
「3月末に莫大な額の公的資金が大手銀行の資本増強のために注入され、特に三井信託と中央信託は株式に転換されれば、政府が発行株の50%以上を持つことになるため、現時点で事実上の国家管理銀行であると理解しております。その中で国民に理解を得られるような経営再建がなされているかといえばはなはだ疑問であります。大卒5年目に主任となり、主任になった後の年収は700万円。9年目ぐらいで課長代理になり、年収は1000万円近くにもなります。その他に結婚している者で住宅を賃借している者は、家賃の3分の2が補助として支給されます(上限8万円)。社宅に入っている者は月数千円で3LDKのマンションに住んでいます。その他、各種手当て福利厚生の充実さには理解しがたいものがあります。実質、債務超過に陥っており、公的資金を注入されているとは思えない待遇です。しかもボーナスの削減はたった15%です。これぐらいのカットは、今の時期はどこの会社だってやっております。経営環境の厳しい企業では半額だとかゼロというところもあります。(略)戦後の日本経済の発展を先導し、日本の地位を飛躍的に上げたのはソニーやホンダ、トヨタなどのメーカーです。彼等がどれほどの苦しみを乗り越えて合理化を進めて来たことか。公的資金を注入してもらったメーカーなど聞いたことがありません。公的資金を注入してもらった銀行(しかも事実上の国家管理の銀行)の社員が、未だ持って世間離れした厚待遇を受けていることに対して、金融再生委員会は容認しているのでしょうか。(略)」