【オタワ川俣友宏】
カナダのオタワで開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)では、1ドル=130円台半ばにまで進んだドル高・円安の是正を求める声は出なかった。輸出を拡大させる円安は、国内景気への好材料と歓迎する見方もあるが、日本経済のぜい弱さも示している。G7の事実上の容認を受けて円安が加速すれば、株安、債券安とともにトリプル安の「日本売り」の様相を強める懸念もある。
今回のG7声明は、為替について「引き続き市場をよく注視し、適切に協力していく」と、昨年10月のワシントンG7と同じ一般的な表現にとどめた。会議の席上も「為替はまったく議論がなかった」(塩川正十郎財務相)ため、日銀幹部は「声明の表現に尽きる。不満があれば違う書き方になっている」と、現行水準を事実上、容認したことを認めている。
最近の円安については、日銀が1月の金融経済月報で輸出の下支えに役立つ点を指摘した。さらに輸入物価の下落を抑制することからデフレ対策としての効果にも言及し、「日本経済には円安が望ましいというメッセージ」(民間アナリスト)とも受け止められた。
ただ、アジアの一部から自国経済への悪影響を懸念する声が出ているほか、米国内でも製造業界から不満が出始めている。米国が円安是正を働きかけなかったのは、オニール財務長官が経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)の強化を重視し、多少の為替変動には関与しない姿勢だからという見方が多い。
ただ、オニール長官は1月の来日時の講演で「為替レートで不良債権処理や生産性の回復はできない」と述べ、円安への安易な依存にクギも刺している。「自国経済の弱さを売り物にすると、手痛いシッペ返しをくらう」との指摘とも言える。
実際、2月に入って株安、債券安が加わったトリプル安現象も起き始めている。目先の輸出拡大というメリットよりも、日本経済への信頼が損なわれるデメリットの方が大きく、結果的に経済再生を遅らせる危険がある。
[毎日新聞2月11日] ( 2002-02-11-00:11 )