破綻(はたん)した金融機関の預金保護を、一千万円とその利子までとする「ペイオフ」が四月に解禁される。与党や財界の一部にあった再延期論は影をひそめ、いまは解禁後の預金保護のあり方が焦点となっている。四月から何が変わるのかを検証する。(藤沢志穂子)
【カット率】
ペイオフ解禁は二段階で実施される。四月からは主に定期預金が対象で、普通預金や代金決済に使う当座預金は来年四月から。いずれも金融機関の破綻時に保護されるのは一千万円とその利子までとなる。ただし外貨預金や譲渡性預金(CD)は預金保険制度の対象外で、「一千万円保護」の規定にかかわらず、四月からは破綻金融機関の財務状況に応じて払い戻し額が決まる。外国銀行の預金も保護対象外だ。
一千万円を超える預金は、破綻金融機関の債務超過の状況により払戻額がカットされる。例えば、債務超過額が負債総額の40%の銀行に、預金千五百万円がある場合だと、一千万円を超える預金五百万円の40%に当たる二百万円がカットされ、手元に残るのは千三百万円になる。
【個人と法人】
同じ銀行の複数の支店に口座をわけても預金は「一預金者」として合算される。金融機関はこの「名寄せ」作業を急いできた。ただ再編金融グループの場合、持ち株会社傘下に複数の銀行がぶら下がる形式だと預金は別々に扱われるが、合併なら合算される。
また銀行に借入金がある場合は、預金と相殺できる「相殺規定」がある。例えば二千万円の定期預金と一千万円の住宅ローンがあれば、ローンが相殺され、一千万円分の定期預金が残り、全額保護の対象になる。
万が一のセーフティーネットとして、首相が議長を務める「金融危機対応会議」で「金融危機」の状態が認定されれば、解禁後も預金が全額保護される例外規定がある。
この仕組みは、法人の場合でも基本的には個人の場合と同じ。
【公金保護】
国家予算は日銀の管理下にありペイオフ対象外だが、民間金融機関に預け入れられている自治体の公金は個人・法人と同じく一千万円までしか保護されない。そのため各自治体は公金管理対策を急いでいる。定期預金から、解禁が来年四月の普通預金へシフトする傾向が強い。
東京都は一月末、独自の銀行査定基準を策定した。取引先金融機関十七行を六段階に振り分けるもので、各行の自己資本比率、預金量の増減状況、格付けを参考にした。自己資本比率は、国際基準の8%を上回る比率が望ましいとしており、今後、低ランクの金融機関から預金引き上げの可能性もある。
【選別の目】
だが市区町村レベルでの対策はあまり進んでいない。取引先が地元と密着した少数の地銀や信金・信組であるケースが大半で、「ランク付けによる預金シフトが、地元経済の混乱につながりかねない」(東京都出納長室)との慎重論があるからだ。「日銀の支店に預ける」「『公金バンク』を作る」との要望もあることを受けて自民党金融調査会では対策を検討中。来年四月の普通預金のペイオフ解禁まで持ち越しになる公算が大きい。
金融機関の整理・再編は進んでいる。昨年十月から今年一月末までに、第二地銀の石川銀行(本店・金沢市)ほか十二信金、二十七信組が経営破綻した。経営改善を促す早期是正措置を受けた地方銀行もある。
こうした流れが、預金者の間に金融機関を選別する意識を高め、これが地域金融機関の再編につながる可能性もある。