慎太郎銀行が誕生か−。石原慎太郎東京都知事が都主体の銀行経営に乗り出す意向を固め、関係部局に具体的な検討を始めるよう指示したことが8日、分かった。不良債権処理などで青息吐息の金融機関による貸し渋りや貸し剥がしが相次ぎ、存亡の危機に立たされている中小企業などをサポートするのが狙いとみられる。実現すれば、担保主義にとらわれた既存の金融機関の融資習慣に風穴を開ける可能性もありそうだ。
3年前の都知事選で、世界に誇る技術力を持つ中小企業を育成するため、地域に根差した「強力な銀行の誕生」を公約に掲げていた慎太郎知事が、いよいよ動き始めた。
8日付の東京新聞によると、「日本の金融の新たなシステムを東京から作る」と意気込む都知事は、都が51%以上を出資する方向で、“慎太郎銀行”設立に向け、具体的な検討を始めるよう関係部局に指示を出したという。
これを受け、都は、全く新しい金融機関を設立するか、既存の金融機関の経営権を取得した方が有利か−など具体的な経営手法について詳細を詰める。
地方自治体と銀行については、岩手県が岩手銀行に2.9%出資するなど、いくつかの出資事例はあるが、自治体が完全に経営権を握ることは、現行の金融行政では想定されいない。加えて、郵貯の民営化が議論されるなど、公営機関の民業圧迫が指摘されてもいるなかでの“慎太郎銀行”構想は、関係政府機関や銀行業界に大きな波紋を広げそうだ。
かねてから、「東京には、代表的な大企業にない先端技術を持った中小企業がひしめくが、日本の旧来の融資制度が弊害となり、金融機関の貸し渋りで足踏みを余儀なくされている」との持論を展開していた石原都知事。従来の担保主義にとらわれず、企業の可能性を評価する「融資の新パターン」を確立することで、「東京から日本を再生する」という“公約”の実現を目指すことになる。
また、銀行経営を決意した背景には、4月からのペイオフ解禁を前に、都内の永代信用組合が金融庁の行政権限で破たん処理され、金融機関の淘汰が進むことで、地域経済に悪影響が出る危険性が高まっていることもある。
ただ、今後、民業圧迫や「自治体が銀行経営というリスクを負うべきなのか」といった議論が噴出するのも確実で、“慎太郎銀行”の実現までには多くのハードルもありそう。
一方、東京都はペイオフ解禁に備え、1兆6000億円の資金を分散し、預金している金融機関を独自に6段階に格付けし、一部の金融機関から預金を引き上げるといった対応策を検討中で、こちらも金融機関などに衝撃を与えるのは必至。
外形標準課税の導入で、銀行側との係争も続いているだけに、“慎太郎銀行”設立は、東京都vs銀行団の激突に新たな火種となる可能性がありそうだ。