「仮に“それ”を認めなければ、野村アセットマネジメントの運用するMMFは、間違いなく元本割れを起こしていただろう。そしてもし万が一そうした事態−つまりMMFの元本割れ−が発生していたならば、日本のMMFマーケットは完全に壊滅状態に陥っていただろう」
金融庁幹部がこう言ってみせる。
気になるのが、前述のコメントに登場する“それ”の中身だ。以下順を追って説明していくことにする。
去る1月23日のことだ。野村証券の子会社、野村アセットマネジメント(以下、野村アセット社)は、自社の運用するMMFに満期保有目的債券として組み入れられていた銀行劣後債2859億円のうち、14銘柄・1959億円を買い取ることを決めた。
なぜこうした措置がとられたのかというと、投資信託協会が決めたMMFに関する新ルールに対応するためだ。1月18日、投信協会は、「時価評価を免除される満期保有目的債券は、シングルAマイナス以上の格付けを得ていなければならない」とする新ルールを発表した。
そしてこの新ルールに直撃されたのが、銀行が発行した劣後債を組み入れているMMFだった。
「銀行劣後債の格付けは、あの“ビッグ4”クラスですらトリプルB以下というのが実情なのです。従って、投信協会の新ルールに従えば、銀行劣後債をMMFに組み込んでおくことは完全に不可能になったのです」(大手証券会社幹部)
ところがここで問題なのは、銀行劣後債がまったくと言っていいほど市場性を持たない、という点だ。つまり、買い手が存在しないということにほかならない。
「従ってマーケットで銀行劣後債を無理に売却しようとすると、その売却価格(時価)は取得価格(簿価)を大きく下回ってしまうことは明らかです。つまり、そうした売却損の発生は、ストレートな形でMMFの元本割れという事態を招いてしまうのです」(前述の大手証券幹部)
“MMFの元本割れ”という状況が、どのような事態を招くかは、米国・エンロン債の経営破たんによってMMFの元本割れを引き起こした日興アセットマネジメントのケースからも明らかだろう。
野村アセット社は、そうした最悪の事態を回避するために、銀行劣後債の“自社買い入れ”に踏み切ったのである。
ここで問題となるのは。その“買い入れ価格”だ。野村アセット社は、その価格についてはまったく明らかにしていない。
「まず“MMF元本割れ回避”という結論が先にあって、その条件を満たす“価格”が設定された、と言っていいでしょう。従って、時価を大きく上回る価格であったことは間違いない」(野村証券関係者)
しかし、このことが事実だとしたら大問題だ。なぜなら、野村アセット社が自社のMMFを保有する顧客に対して事実上の“損失補てん”を実施したことを意味するからだ。
とはいえ、この“売買価格”は、金融庁証券課も正式に承認したものだ。 そうした点で言えば、金融庁も“損失補てん”のお先棒を担いだということにほかならない。言うまでもなく、MMFは元本が保証された金融商品ではない。
まさに、モラルハザード(倫理観の欠如)の極致ともいえる一件だ、と言っていいだろう。
2002/2/8