「銀行アナリストなんかいらない。投資見解も二度と聞かない」―。昨年12月末、複数の銀行アナリストとの面談を終えた国内有力投資顧問幹部がこんな声を上げた。なぜ銀行アナリスト達がこの幹部を失望させたのか。真相を探ると、この国のいびつな金融システムの姿が浮かび上がってくる
●ダイエー問題で「バラバラ」の投資見解
この投資顧問幹部は国内系運用会社に勤務している。同社は某有力金融グループ系列に属すという性格上、様々なしがらみで邦銀株をいまだにに大量保有している。しかし、この年度末にかけ、金融危機が到来することを強く懸念。邦銀株の保有を継続するか、あるいは売却するかの決断を下すため、著名銀行アナリスト数名から見解を聞き出した。
同氏が内外の銀行アナリストに投資見解を質したのは、先に経営再建問題が一応の決着をみたダイエー<8263>問題が銀行経営に与える影響度を探るのが目的。
同氏は、(1)ダイエーの再建問題がどう決着するか(2)同社取引行の先行きはどうか―の2点に焦点を絞り、質問をぶつけた。結果は「あまりにも見解に格差があり、いずれの見方にも同調できなかった」という。
同氏は、20年近い投資経験を有するベテラン。当然、邦銀をカバーする銀行アナリストについても、「官民挙げて“決算を作る”という粉飾行為が横行するセクターで、取材が困難を極めるのは理解できる」と指摘する。しかし、ダイエーのように金融システムの動揺につながりかねない案件の分析があまりにバラバラとなったため、「正直驚愕した」という訳だ。
●事実は反映できない・・・
銀行アナリストにも言い分はある。「大手銀内部の“本当の数値”は持ち合わせているが、そのままをリポートすれば市場はパニックに陥る」(外資系アナリスト)、「政治や所轄官庁の業界への影響力が強すぎるため、事業会社のような取材パターンを使えない」(国内系)などなど、事実を素直にリポートに反映できない事情があるのは確かだ。まれに「事実に近いことを記述すれば、所轄官庁に呼び出されて“行政処分”までちらつかされる」(先の外資系)という恐怖感もある。
ダイエーに関しては、その巨大な企業規模や借入金の額から、政府が再建策づくりに積極関与し、アナリストの予想を超えた次元で事態が進行したのは事実。ただ彼らが調査対象とするセクターは、時価総額の大きさゆえに、TOPIX(東証株価指数)など主要株価指数への影響度が高い。
今後、金融庁の特別検査が進展、個別の過重債務企業の生死が取りざたされるのは必至で、銀行株のボラティリティーも高止まりするだろう。こうした過程で、銀行アナリストの投資判断にバラつきが出ることも考えられる。一般投資家は、こうした事情を肝に銘じて投資に踏み込む必要があろう。
(相場 英雄)