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■ 2002-02-04 BARRONS-【カレント・イールド】日没を迎えた日本国債
ニューヨーク(バロンズ)信用の質や、企業の財務会計処理に関する懸念が高まり、米国金融市場は揺れ動いているが、もっと大きな危機が日本では爆発しそうだ。
疑わしい会計処理に対する懸念が引き続き市場に蔓延し、投資家は週初から米国債市場に逃げ込んだ。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が予想通り1年に及んだ利下げ打ち止めを決定し、景気回復が始まったことを暗に確認したため、30日には投資家は株式に資金を移動して、米国債は下げた。
フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、過去40年間で最低の1.75%に据え置くことを決めた声明文のなかで、「需要の弱さが減少し、経済活動が堅調になり始めている兆候がより広範にわたっている」と、連邦公開市場委員会(FOMC)は述べた。「経済を抑制している力が減少し始めており、生産性の伸びに関する長期的な見通しは引き続き良好で、金融政策も緩和的であるので、景気回復の見通しはより確信できるものになってきている」と続いている。
しかし、企業業績と雇用喪失がまだ懸念されており、米国債価格は高く、利回りは低い状態で週を終えた。1日に労働省が発表した1月の雇用統計では、統計上の偶然から失業率が思いがけず0.2%低下して5.6%となった。しかし、非農業部門就労者数は、12月の130,000人減に続いて、1月は89,000人減となった。また、サプライ管理協会(ISM)の1月製造業景況指数は、12月の48.1から予想を上回る49.9に上昇し、企業活動の拡大と縮小の分岐的となる50に接近した。
指標銘柄の10年債利回りは1週間前の5.07%から4.98%に低下した。2年債利回りも3.18%から3.08%に低下し、30年は5.47%が5.41%に下がった。
一方、財とサービスの価格が低下しながらも、日本国債市場では利回りが上昇している。
指標銘柄の10年国債利回りは、昨年末の1.342%から、2月1日には1.500%に上昇した。同時に円安も進み、一時40ヶ月ぶりとなる1ドル=135.15円をつけ、1日の引けは133.42円となった。年初は1ドル=114.32円にすぎなかった。
日本国債(JGB)の状態も悪いのだが、状況はさらに悪化する可能性がある。
「世界にまだ残されている最大の金融バブルがJGB市場だ」と世界最大級の債券投資会社パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の役員兼グローバルストラテジスト、リー・トーマス氏は警告している。バブルが崩壊するのは時間の問題だとトーマス氏は考えている。
「われわれは指標に対してJGBを低く見積もっており、円の比重も下げている。どちらに対しても自信をもっていない」とトーマス氏は続けた。
バロンズに寄稿しているニール・マーティン氏は、1月28日号で「預金保護の終了が新たな日本の危機を引き起こす」と題して、ペイオフ解禁後に日本の金融機関が直面する可能性のあるリスクの深さを描き出した。
そして今や、恐ろしいことに、日本の銀行および金融システムの悪化と、翻って、政府の財政および政治的状況の悪化が、日本国債市場を下降スパイラルに陥れ、潜在的にさらに新たな危機を引き起こしている。
「債務者としての日本の信用度は次第に損なわれている」とハイフリークェンシー・エコノミクスのチーフエコノミスト、カール・ワインバーグ氏はバロンズの取材に対し語った。
「海外の人々は国内と同様に、(最近、ネガティブな見通しで格下げされた)資産について懸念を高めている」という。
スタンダード&プアーズ(S&P)は31日、日本は12ヶ月以内に3回目の格下げを行われるリスクに直面している、と語った。「日本の経済不振は、深刻なデフレ的リセッションに進展している」とその理由を述べている。「経済の中期的な成長見通しの悪化が、構造改革を遅らせており、公的債務を引き続き増加させている」と指摘し、S&Pは2001年に2回日本のソブリン格付けを引き下げた。昨年2月にS&Pは日本の長期債格付けをAAAからAA+に引き下げ、11月末にさらにAAに格下げされ、アウトルックはネガティブとされた。
S&Pは日本の政府の負債総額が2002年財政年度(2003年3月末まで)において国内総生産(GDP)の140%に達する可能性があると試算しており、構造改革と景気回復がさらに遅れるとさらなる格下げの可能性が高まるだろうと言っている。
ワインバーグ氏は1日に発表した調査レポートで、日経225指数が1週間で353ポイント下落し、1日の終値が1984年以来3回目の10,000割れとなったことを強調している。
日経平均株価の勢いが低下しているにもかかわらず、JGBは売られ続け、明らかにもはや安全資産としてみなされていない。また、ペイオフ解禁後に対する不安から、質への逃避がJGBに集まることも無いことが、日本の投資家の心理を物語っている。
モルガン・スタンレーのシニア・グローバルエコノミスト、ジョセフ・クィンラン氏は最近の調査レポートで、「金融システムに問題が残る限り、日本の債券市場は突然大きく売り込まれる危険性がある」と書いている。
過去数週間、外国人投資家は株式も債券もともに含めて、日本の資産の売却を加速してきた、とクィンラン氏はいう。JGBに占める外国人投資家の保有比率はわずか5.8%に過ぎないが、「国内投資家が資金を海外に配分し始めるリスクがある」と述べている。「長期的な円安観測が高まり、日本政府のリスクは投資資本の流出をもたらしており、これがJGBバブルを突然崩壊させるかも知れない」と続けている。
昨年、銀行や他の機関は、下げ続ける日経株価から避難場所を求め、JGBの保有残高を積み上げ、10年指標銘柄の利回りは昨年3月には1.05%まで低下した。しかし、彼らはここ数週間、JGBの最大の売り手となっている。
日本の銀行は、3月31日の決算期末にむけて、利益確定のために債券を売却しているが、JGBの売りは、財政と政治情勢の悪化に加え、銀行システムの悪化によりさらに拡大するかもしれない。先々週、小泉純一郎首相は、物議をかもしていた田中真紀子外相を突然更迭したが、マーケット・インテリジェンス・レポートを発行しているTISグループは、これを「自由民主党守旧派の大きな勝利」と評した。
「(日本の)問題の主要なものとしては、国内の信用はそのまま収縮しており、倒産は加速していることが現実としてあり、企業の見通しはまさに悪い状態だ。日本が長期にわたって経験してきたことの延長線上として、本当に強烈な信用収縮がおきている」とハイフリークェンシーのワインバーグ氏は指摘する。
さらに、メリルリンチのグローバル債券調査部長、トム・ソワニック氏は、日本の問題はそれだけではない、と警告を発している。
「日本が本当に円安を許容し始めると、日本がデフレを世界的に輸出するリスクが生じる。円安を許容することで、貿易相手国、特に中国やアジア諸国は、安い円と競争しなければならなくなるため、政治的な不安が形成される」と言う。
米国の債券市場やその他の市場では、インフレと財政赤字が「非常に懸念」されてきた、とソワニック氏は言う。しかし、「間違ったことを懸念しているのかもしれない。懸念すべき問題は、おそらくデフレのリスクだ。ということはFRBは引き締めサイクルから遠く大きく離れているということを意味する」と語った。
しかし、さしあたりは、「3月31日の会計年度末に向けて、日本の投資家が、典型的な資金の本国回帰を急いでいるため、間違いなく円高圧力が高まり、米国債や世界の株価には下ぶれ圧力をもたらすことになるだろう」とワインバーグ氏は結論づけている。