「マーケットがこれまで『絶対防衛ライン』と認識していた“日経平均9500円ライン”だが、いとも簡単にこの一線が突破され、“9000円割れ”という最悪の事態も現実的な問題として視野に入ってきた、といえるだろう」
大手証券会社役員がこう言ってみせる。
この結果、邦銀の決算基準日となる3月末日−今年は3月29日−へ向け、“日経平均9000円ライン”をめぐる攻防となってきたといえるだろう。
「そして、この“9000円ライン”を割った段階で、公的資金の再注入という流れになっていく可能性が高い。いずれにしても、一連の相場下落が銀行株が主導する形で引き起こされているということ、それに加えて大手行が保有する株式に数兆円規模の“評価損”が発生することから、公的資金投入の理由づけとしては十分だろう」
金融庁幹部がこう言ってみせるが、次のような指摘もある。
「今回の公的資金投入は、壮大な“モラルハザード(倫理観の欠如)”を引き続き起こすキッカケになる可能性が高い。それというのも、配当原資となる剰余金が大きく毀損するという状況の中で公的資金投入が行われることから、実質的に配当原資確保のために公的資金投入が行われることになるからだ」(大手行役員)
このコメントを理解するためには若干の補則説明が必要だろう。
今年度決算から時価会計制度が導入され、銀行の保有有価証券の評価損(今期末株価が前期末株価を下回った場合、その差額)については、その60%を資本の一部である剰余金から差し引くというルールが導入された。
以下に大手各行の2001年9月段階の剰余金と有価証券評価差額を列挙してみることにする。(注、前者剰余金、後者評価差額)
みずほ…6635億円、マイナス6647億円
三菱東京…8745億円、マイナス741億円
UFJ…2736億円、マイナス3169億円
三井住友…4790億円、マイナス4257億円
大和…マイナス2149億円、マイナス326億円
あさひ…98億円、マイナス2631億円
住友信託…1736億円、マイナス453億円
中央三井信託…834億円、マイナス2070億円
以上、示した数値からも明白なように、三菱東京フィナンシャルグループ、住友信託銀行の2行を除いた大手行は剰余金−つまり配当原資枯渇の危機に直面しているのが実情だ。
「とは言っても各行は、剰余金消滅という事態に備えて、資本の一部である“法定準備金”を取り崩し、剰余金に振り替えられる体制をとりつつあるのが実情です」(大手行経営中枢幹部)
しかしながら、そうした“措置”が構じられたとしても、資本が減少することには変わりはない。そこで、公的資金による資本注入の必要性が出てくるのである。
「そこが問題なのです。バランスシート上、投入された公的資金の相当部分は、法定準備金に回ることになります。つまり、剰余金に振り替えた分の穴埋めに使われるのです。一方、株式配当の相当部分は、これまで受けてきた公的資金の配当として政府に回ることになります。つまり政府は自らの配当を確保するために、再び公的資金投入に踏み切るという異様な事態が発生してしまうのです」(大手行役員)
これをモラルハザードと呼ばずして何と呼ぼうか…。
2002/2/7