日本銀行の政策委員会・金融政策決定会合が7日午後2時ごろから2日間の日程で始まった。「当座預金残高が10−15 兆円程度となるよう金融市場調節を行う」とした金融調節方針は据え置かれる見通しだが、株価下落などを受け、内外から追加緩和を求める圧力が一段と強まっている。中長期国債の買い入れ増額を期待する声も多い。信認の危機に直面する日銀は、苦しい決断を迫られている。
日銀は「景気は、輸出や設備投資の減少に加えて個人消費も弱まるなど、広範に悪化している」とした前月の情勢判断を、概ね踏襲する見通し。昨年12 月の鉱工業生産が前月比2.1%増と予想を上回り、国内の在庫調整に進展がみられたほか、米国経済にも底入れの見通しが強まっている。雇用・所得環境は悪化の一途だが、少なくとも景気循環のうえでは明るい材料も出始めている。
政策判断についても、日銀は12月に取った追加緩和措置で、どうにか年度末を乗り切りたい意向だが、株価急落など市場環境の悪化で、金融政策運営も予断を持てない状況になりつつある。田中真紀子前外相の更迭を受けた支持率低下を嫌気し、株価は大きく下落。金融システム不安も一向に衰えず、銀行株も下げ続けている。
「政府・日銀が一致協力してデフレを阻止」
こうしたなか、「金融市場の監視を怠ることなく、政府としては日銀と一致してデフレ阻止を行っていく」(小泉純一郎首相が6日の衆院本会議で)、「政府・日銀は一体となって、強力かつ総合的にデフレ克服に向け取り組んでいく」(竹中平蔵・経済財政政策担当相の4日の経済演説)と、小泉政権はデフレ対策で一段と日銀頼みを鮮明にしている。
海外からも「(日本経済への)不安は不良債権問題の解決の遅れや、日本の金融政策によってさらに増幅されている」(ハバード米大統領経済諮問委員長の5日会見)と、追加緩和を求める声が強まっている。8、9日にはカナダ・オタワで7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれ、17日にはブッシュ米大統領が来日する。デフレの長期化、株価の下落、信用不安の強まりで、内外の追加緩和圧力は、強まりこそすれ、弱まることはあり得ない。
ただ、何をやれるかとなると、伝統的な金融政策の枠組みのもとでは、残された手段はほとんどなくなっている。日銀は昨年12月、当座預金残高目標を「6兆円超」から「10−15兆円」へ、長期国債買い入れ額を月6000億円から 8000億円に引き上げた。日銀としては、政治や市場の圧力に先手を打ち、持てる弾をすべて打ち尽くしたつもりだったが、市場の反応は冷ややかそのもの。長期金利に至っては、追加緩和のタイミングを境に上昇基調に転じた。
深刻な信認の危機に直面する日銀
日銀は1月の決定会合で、中長期国債の買い入れ対象から「1年以内のものは除く」としていた1年ルールを撤廃したが、これも国債引き受けへの連想から、国債相場の売り材料にされた。量的緩和策の効果も「これまでのところ、明確には観察されていない」(速水優総裁の1月29日講演)。打つ手打つ手が裏目に出ていることで、日銀は深刻な信認の危機に直面し始めている。
日銀は現在、10−15兆円の当預残高目標の上限を目指して大量の資金供給オペを行っているが、応札額が提示額に満たない「札割れ」がひん発している。しかも、年度明け以降、資金需要が減るのはほぼ確実で、現状の10−15兆円ですら、安定的に達成できるかどうか不透明感が漂う。ここから、さらに当預残高目標を引き上げるのは、技術的に一段と困難を伴う。
そこで思惑が高まっているのが、中長期国債の買い入れ増額だ。日銀は昨年3月の量的緩和の導入時、中長期国債買い入れに「日銀券発行残高を上限」とする歯止めをかけた。市場関係者の推定では、上限に達するまで、まだ月数千億円ペースで増やせる余裕があるという。国債相場は軟調な地合いを続けているだけに、市場参加者の間では“干天の慈雨”に期待する向きもある。
「必要」ないなかで買い増せば枠組みの修正に
しかし、買い入れ増額は「円滑な資金供給に必要な場合」と限定しており、2重の制約がある。足元で札割れが連発しているが、10−15兆円の目標は十分達成されており、増額が「必要」とは言い難い。そこに目をつぶって、買い増すかどうか。昨年8月と12月に国債買い入れを増やした後、いずれも長期金利は上昇に向かった。「おいで、おいで」と手招きする市場の誘いに乗って安易に買い増せば、逆に長期金利上昇という“だまし討ち”にあうリスクもある。
なにより、「必要」もないのに買い入れ増額に踏み切れば、それは、昨年3月の枠組みの修正に他ならなくなる。2重にかけた制約の1つを反故(ほご)にすれば、必然的に、もう1つの制約(=上限)もいずれ、反故にされるとの思惑が強まるだろう。上限について詰めた議論もせず、なし崩し的に買い入れを増やせば、日銀に対する信認の危機は一段と深刻になるだろう。
一部では、ロンバート金利に適用される公定歩合(現行0.1%)を0.05%に引き下げたり、交付税特別会計の民間借入を適格担保に加えたりするのではないか、との思惑も出ている。いずれも小手先の感は否めず、“幕間つなぎ”で次への期待感を強めるだけだろう。“麻薬中毒者”のように次を求める政治や外圧、メディア。それに押されるままに政策を安売りし、“パブロフの犬”と化す日銀。次の一手は、こうした構図に陥りかねないリスクをはらんでいる。