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(1) 金融庁がみずほ・東京海上を恫喝
真紀子ショックに見舞われたばかりの小泉首相を、続けざまに≪生保ショック≫が襲った。
1月30日、バブル後最安値を更新する東京株式市場に追い打ちをかけるように、東京海上火災保険と朝日生命の統合計画が白紙撤回されることが明らかになった。
逆ザヤや保険解約に苦しみ、経営建て直しを進める朝日生命にとって、損保の雄・東京海上との統合計画は生き残りの切り札だっただけに、計画発表の期限とされていた1月末を目前に、東京海上側が急に態度を変えたことは政府、経済界、市場に大きな衝撃を与えた。
実は、両社の“破談”が明るみに出る前日、1月29日に東京海上は重大な方向転換を決定していたのである。
それまで東京海上・石原邦夫社長と朝日生命・藤田譲社長の2人は、それぞれ担当の役員を伴って、今年はじめから連日、合併協議用のオフィスで≪4者会談≫を続けてきた。関係者の証言を総合すると、破談に至る直前の会談では、朝日側が東京海上に営業譲渡する際に受け取る代金、いわゆる≪のれん代≫の算定をめぐり、両社の意見は対立したという。
東京海上社内では、かねてから朝日生命との統合計画を疑問視する声があった。後述するように、株主からも猛反対されていた計画だったが、金融庁からの強い指導もあって、同社首脳部は統合・支援の方針を貫いてきた。
ところが、この空白の1日に状況は急変した。社内では、統合反対派が結集し、計画発表の先送りを石原社長に迫った。石原氏に強い影響力を持つ樋口公啓会長が先送り支持に回ったともいわれる。
翌1月30日、東京海上は朝日生命に破談を通告した。
金融庁はなおも圧力をかけ続けた。銀行同様、生保再編でも官僚主導の強引なシナリオを推し進めてきただけに、ぎりぎりになって計画変更となれば“威信”にかかわるばかりか、金融危機が一気に火を噴きかねない。
金融庁では、東京海上に対して厳しい恫喝をかけた。財務省の大物OBがこう明かす。
「東京海上首脳部に直接、予定通り計画を進めるよう圧力をかけた。ひとつは“中途半端な先送りは許さない。もし計画を見直すなら朝日生命から一切手を引け”というものであり、もうひとつは、“すでに朝日は東京海上が中心となって設立したミレア保険グループに参加している。同社がミレアの看板で売った商品には責任を持つべきだ”という指摘だった。計画撤回は許さないという脅しだ」
また、金融庁総務企画局のある幹部は、部下に東京海上への対応を聞かれ、
「白紙撤回なら石原(社長)、樋口(会長)のクビを取る」
と吐き捨てた。
(2) 東京海上合併断念の株主総会
東京海上が朝日生命との経営統合を見直すきっかけとなったのは、株主側からの激しい突きあげだった。
昨年12月20日、経営統合の承認を得るための臨時株主総会は大荒れとなった。議事録から再現する。
株主A「朝日生命との経営統合には問題がある。超一流の東京海上が多額の不良債権につぶされるのではないか。経営統合は破棄すべきだ」
株主B「経営統合の発表以来株価がいくら下がったと思っているのか。株価が上がる統合なら納得もできるが、下がっている状況では何の説得力もない」
経営陣「あくまで経済合理性と株主利益が前提です」
株主C「そのどっちもないから株価が下がっているんじゃないか!」
株主の危惧した通り、その後も同社の株価は下がり続けた。統合相手の朝日生命の経営状態が劇的に回復する見込みはなく、東京海上社内にも統合見直し論が出始めた。朝日生命では、藤田社長と花田専務が毎日、連絡を取り合って善後策を協議した。
ここで金融庁が登場する。統合見直しか計画推進かで揺れる東京海上の石原社長を、金融庁首脳が怒鳴りつけたという。
金融庁の介入を国会で追及した民主党の池田元久議員は踏み込んだ言い方をする。
「森長官は東京海上の社長と副社長を呼び付けて、『統合計画からは逃げられない』といったという。そればかりか、『もし計画を撤回するなら、新しい保険商品を認可しない』という主旨の脅しがあったという疑惑もある。もし事実なら、裁量行政どころか、職権を使った恫喝になる。個別企業の問題に対する金融庁の介入疑惑はこれだけではなく、森長官を国会に出席させて、徹底的に事実を解明し、責任を問わなければならない」
そもそもこの統合計画は朝日生命救済という側面が強いが、株価が下がり、市場から評価されない統合にはやはり無理があった。官支配の限界というものだろう。
(3) 「生保大手3社が危機」の極秘データ
さらに金融庁は、三菱グループの中核、東京三菱銀行にも東京海上の説得を頼み、朝日生命の主力行・第一勧業銀行には、“もしもの場合”の支援を迫った。
金融庁が強引に生保再編を進めようとしているのも、生保危機がもはや待ったなしの段階にあることがはっきりしたからだ。
問題の調査データは≪将来収支分析≫と呼ばれている。昨年6月に発表された2000年度決算から、正式に金融庁への報告が義務づけられたものだが、その内容は非公表扱いとされ、予定利率の引き下げが問題となった昨年の保険審議会でも、「非公表はおかしい」と金融庁に対する批判が相次いだ経緯がある。
≪将来収支分析≫とは、過去数年にわたる生保の新規契約、解約の状態やコストなどを総合的に分析し、今後5年間の経営状態をシミュレーションしたものだ。新規契約数が多くても、今後はじり貧になる生保がいかに多いか一目瞭然になる。
どんな結果だったのか。金融庁総務企画局最高幹部のひとりがこう明かす。
「分析の結果は金融庁にとっても予想外のものだった。大手生保の中で、すでに2社は経営状態がかなり苦しいことがわかっていた。それに加えて、別の大手生保についても危機がはっきりしたことで庁内も緊張した。その大手は、5年間経営が維持できないレベルにあることがわかったのだが、その時点では特に経営建て直しのための方策はなかった。そのため、庁内でも先の2社も含めて思い切った業界再編を進めて、何とか大手生保を救済しなければならないということになった」
東京海上と朝日生命の統合が白紙に戻った一方では、突然、明治生命と安田生命の合併が発表されるなど、水面下の合併交渉を含め、ここにきて生保再編が慌ただしく進められている。金融庁が各社経営実態調査によって、改めて危機の深刻さを思い知り、有無をいわせぬ再編工作に走ったからである。
官の恫喝がいまだに幅を利かせ、企業側もやる気もないのに統合に前向きの姿勢を見せたりするのも、双方に依然として≪護送船団行政≫の意識が抜けていないからだ。何よりもそのことが生保危機を招いた最大の原因であることに両方が気がつかない。