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華々しいお披露目のはずなのに、悲壮感の漂う船出だった。
三和、東海の両行が合併して1月15日に誕生したUFJ銀行。その発足式で、寺西正司新頭取(旧三和銀行専務)は自行の経営方針の説明もそこそこに「ダイエーは潰さない」と表明し、債権放棄に言及せざるを得なかった。その言葉はダイエー処理にUFJの存亡がかかっていることを、正直に認めている。
首相官邸をも巻き込んだダイエーの「新三カ年再建計画」は、まさに時間との競争だった。3回にわたるダイエーOMCカードによる値引きセールで、昨年12月の売上高は目標を1%下回ったにとどまったというが、仕入れ商品の代金支払い期限が1月下旬から2月にかけて集中していたのだ。
ダイエーの通常の仕入れは、食品が月末締めの翌月26日払い、衣料品は10日締めの翌月6日払い。ということは、12月末までに仕入れた食品の代金は1月26日に、1月10日までに仕入れた衣料品の代金は2月6日に支払う必要があったのだ。スーパーの場合、12月の売り上げは平均月商より25%程度多い。その仕入れ代金支払いがやってくる1月から2月にかけての10日間に、ダイエーが「Xデー」を迎えかねなかった。
その一方で昨年、三井住友、三和、東海、富士のメーンバンク四行(UFJの誕生で現在3行)が設定した5千億円のコミットメントライン(短期融資枠)は底を尽きかけていた。
小泉首相は「火中の栗」拾ったが
が、何とか寄せ集めてつじつまを合わせた新再建計画にはこぎつけた。昨年春に主力4行で増資に応じた1200億円の優先株の全額減資、デット・エクイティ・スワップ(債務の株式転換)と債権放棄による3千億円の債務免除、そして一般株主が保有する普通株の50%減資……ダイエーの延命を図ろうとありとあらゆる手段を盛ってある。しかし、実はメーンバンクの担当者が見ていたのは、計画期限の2005年2月期ではない。今年二月にかけての目前の資金繰りだった。
「ダイエーの裏にはUFJ、三井住友、みずほのメガバンク3行あり」と承知していたからこそ、官邸はあえてダイエー延命という「火中の栗」を拾った。昨年12月の青木建設倒産に「構造改革が進んでいる証」と言い放った小泉純一郎首相のもとに、ファウンダーの懇請を受けた財界人らが年末の直訴に及ぶ。ダイエーの有利子負債2兆3千億円もさることながら、1兆6千億円が主力3行に集中している現実を突きつけられ、「銀行に波及したら政権が吹っ飛ぶ」と首相も説得された。
だが、この新再建計画はほんとうにダイエー救済策なのか。むしろメガバンクの救済策ではないのか。
ダイエー優先株を全額減資するのだから、普通株減資は当然と言えば当然。普通株減資は、主力行にとっても優先株減資に応じたことに伴う自行の株主からの代表訴訟を回避する策だろうが、7万人にのぼる株主に犠牲を求めたことは大衆の怨念という不気味な要素を招きいれた。中内ファウンダーの豪邸が週刊誌グラビアを飾り、そごうの水島廣雄元会長の二の舞になりかねない。
1090億円の融資残高を持つ新生銀行の融資引き揚げ問題も時限爆弾。新再建計画が実現したのを機に、融資を引き揚げやすくなるとの観測も流れている。住友銀行が熊谷組に対する債権放棄を実施したのをきっかけに、新生が融資を引き揚げたことからの連想も働いている。国と結んだ瑕疵担保特約を使おうとすれば今がチャンスなのだろうが、これまた大衆の怒りを誘発せずにはおくまい。
納入業者による仕入れ条件の変更要請も難問だ。ダイエーでは今2月期末現在、単体ベースで商品在庫751億円、買掛金303億円と合わせて1054億円が計上されている。商品の仕入れ代金を25日後に支払う約束で、ダイエーは商品在庫と買掛金の約1千億円の資金繰りをつけている。
仮に仕入れ商品の代金支払いサイトが25日から20日へと5日間短縮されると、2百億円の運転資金を新たに用意しなければならなくなる。主力行による支援策は納品業者の動揺を抑え、支払いサイト短縮による資金繰り難を食い止める狙いがあるが、そうは問屋が卸すだろうか。
そもそも、本業そのものが立ち行かないという深刻な疑問が解決されていない。前2月期の単体売上高1兆9805億円に対して、営業利益は122億円にとどまる。1%にも満たない本業の売上高営業利益率を改善しない限り、仮に3年後にOMCを除く連結有利子負債を1兆円に圧縮できたとしても、わずかな金利上昇で経営が立ち行かなくなる。長期金利は円安につれ、すでに上昇し始めている。
こう見ると4200億円の金融支援と1兆円を目標とした有利子負債圧縮策は、いかにも中途半端である。「本気で再建しようとするなら、最低でも倍の8千億円の金融支援が必要だろう」と流通業界首脳は算盤をはじく。
「資産ではなく売場を売ることで看板を残すほかない」と元ダイエー首脳はいう。それは「ホークス人気のある九州や発祥の地である関西以外はすべて売り払い、年商1兆円、有利子負債5千億円規模に身を縮めて生き残りを図る」という地域分割案にほかならない。
資本注入回避から逆算した支援額
では、メガバンクは救えるのか。今回の金融支援は主力行でそれぞれ1千億円余りだが、経営体力が疲弊しきってそれが目いっぱいなのだ。計4200億円という支援額は、それを超えると銀行の資本にめり込み、公的資金再注入を仰がねばならないので、それを避ける限界額から逆算している。ダイエーが立ち直れる負債額からはじいたものではない。資本注入回避が先にありきで、そこまでしても銀行は経営陣のクビを差し出したくないのだ。
特にUFJは三和と東海のダイエー向け与信額を単純に合計しただけで8千億円。地銀など融資順位の低い銀行の引き揚げ分の肩代わりを念頭に置けば、与信額が早晩1兆円にのぼることが考えられた。昨年11月の段階で三和の室町鐘緒前頭取が債権放棄を他の主力行に打診したのは、この1兆円の恐怖に慄いたからにほかならない。
森昭治金融庁長官は当初、三和の債権放棄案にストップをかけていたが、ダイエー株が急落して官邸が緊迫するやダイエー支援策に乗った。だが、ひとまず延命させたにせよ、資本準備金まで手をつけざるをえず、もはや裸になった銀行に火種が残ることになった。
「大きすぎて潰せない」のはダイエーではなく今や「ダイエー・UFJ連合」ではないか。
銀行は裸で耐えられるのか。UFJには「もう一つのD」がある。巨額負債を抱えるマンションの大京だ。金融庁が実施中の特別検査で、真っ先に問題になったのはダイエーではなく大京だった。特別検査を受けて、何らかの処理策を打ち出さざるを得ないというのは、業界の常識だ。
商社では日商岩井が正念場を迎え、ノンバンクでは日本信販が決着していない。日本信販は三和が中心となってコミットメントラインを設定し、資金繰りをつけている。日本信販の子会社であるインターリースについては、同社が抱える債権を証券化してリストラを進めたことになっているが、株式市場は冷ややかに見ている。金融支援の情報が交錯するなか、ダイエーが仕手株と化して株価が100円を挟んで上下に振り子のように揺れ、おもちゃにされたが、それを尻目にUFJ株は50円額面換算で200円台に下落している。4大金融グループ内でもUFJは、今やみずほの後塵を拝してドンジリを行きそうな状態だ。
優先証券利払いで苦しい三井住友
もちろん、ダイエーという十字架を背負う他の2行も、深刻な経営危機に陥っていることには違いはない。三井住友銀行が抱える爆弾は、自己資本のカサ上げを狙って海外で発行した優先証券の利払い問題だ。3月本決算期末に銀行本体の配当原資が底を尽き優先証券への利払いができないようだと、デフォルト(債務不履行)扱いとなる恐れがある。
同行は会計上のやり繰りをしても優先証券の利払いを続けるだろうが、他の大手行に比べて剰余金のレベルが低いことが大きな制約になっているのは否めない。他の大手行と違って金融持ち株会社方式をとらなかったため、法定準備金の必要額が大きく、他行のような「タコ足配当の余力」が乏しいのだ。今3月期の三井住友銀行の不良債権処理損が1兆円と、UFJやみずほの2兆円を大きく下回っていることは、債権が健全なのではなく、不良債権の処理原資の乏しさを物語る。
みずほについては、あえて多くを語るまでもないだろう。4月からのリテール銀行とホールセール銀行の誕生がグループ解体の遠心力となりかねないと、同行関係者さえ危惧している。しかもここへきて第一勧銀の重荷であるオリコの債務超過額が一段と拡大したとする怪文書が出回るなど、統合3行内の情報戦が熾烈さを増している。
人口に膾炙したトルストイの『アンナ・カレーニナ』の言葉がある。
「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸である」
ダイエーを支えるメガ3行は「それぞれに不幸」なのだ。が、銀行のミゼラブル・インデックス(悲惨指数)とも言うべき正味の自己資本は、皮肉にも「どれも似たりよったり」だ。
各行とも見かけ上は10〜11%台の自己資本比率を誇るが、公的資金と繰延税金資産を差し引き、スワップ取引の損益などを自己資本から控除すると、実質自己資本比率は軒並み4%を割り込んでしまう。メガバンクの株価が1998年の金融危機当時の水準さえ下回り、一段の格下げ圧力がかかっているのは偶然ではない。
一月初めに米国の情報コンサルタント会社は、実名を挙げて日本の財務省関係者の発言を紹介した。
「心配なのはUFJとか、大和、あさひ、みずほクラスがのっぴきならなくなったときだ。そのとき政府は何と言われようと、公的資金の注入どころか、一時国有化もやらなければいけない」
「橋本政権末期みたいな不安感が出てきたときは、政権が危うくなる。そうなったら小泉政権はもたない」
「銀行は組織とか役員とかを守ることばかり考えている。不良債権がいったいどのくらいあるのか分からない。金融庁にしっかりやってもらうほかないけれど、大丈夫とは言えないんだな」
背筋が寒くなる。小泉首相が金融危機回避に全力を尽くすと繰り返すそばで、霞が関や官邸内に虚脱感が広がっていることがうかがえる。
「時間稼ぎ」に苛立ち隠さぬ米国
米国のブッシュ政権はすでに日本による自主的な問題解決能力に匙を投げているのかもしれない。平沼赳夫経済産業相が「ダイエー再建策は一つのモデルケースになる」と述べるそばから、ジョン・テーラー米財務次官は「改革は速ければ速いほどよい。日本は不良債権処理の先延ばしはできない」と釘をさす。
不良債権問題をひとまず先送りしたうえで、円安による時間稼ぎでしのごうとする日本の財務省に対して、ポール・オニール財務長官も怒りを隠さない。世界第2の経済大国日本が、国ごとデフォルト宣言したアルゼンチン化しかねないことに、米国側の苛立ちは強まっている。2月17日に来日するジョージ・W・ブッシュ大統領も、改めて不良債権処理を迫るだろう。
ダイエー問題に先送りの絆創膏を張ったと思ったら、朝日生命など生命保険問題に火が付きだした。安田生命にも飛び火しかねない情勢とみるや、金融庁は明治生命との合併話をマスコミにリークして見せる。森長官お得意の口先介入だろう。
が、明治と同じ三菱系の東京海上火災保険が、明治と大合同する芽はこれで完全に摘まれてしまい、朝日生命と「心中」を余儀なくされかねないとの観測から東京海上株が急落した。そして1月28日、朝日生命の営業部門を統括する花田宗夫専務がカッターナイフで自殺した。三井生命と住友生命にも焦点が当たるのは必至だ。あちら立てればこちら立たず−−。金融危機は次々とうねりとなって押し寄せる。裸の王様の行進は、1400兆円の個人金融資産を食い潰すまで続きかねない。それは日本国という国の価値を灰燼に帰す、究極の「価格破壊」のようにも見える。