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(1)3日間の分刻みの破綻作業指示
いみじくも『手順書』と表題のついたA4判2枚の文書の存在が、理念なき金融改革の核心部分をさらけ出しているといっていい。
文書には外部に流出した場合のことを考えて発信元は書かれていないが、間違いなく金融庁監督局が作成し、各財務局に内々に配布したものだ。
では、一体、何の『手順』なのか――。
そこには金融庁がどうやって銀行を取り潰していくかの手続きが克明に書かれている。事後的な銀行破綻のドキュメントではなく、金融庁があらかじめ設定した手順書通りに現に営業中の銀行を潰していく――そうみると、文書は実に迫真力を持つ。
金融庁が仮にR銀行を破綻させる計画を実行に移すとして、文書の手順を実際に追ってみる。
手順書では、銀行破綻は必ず金曜日の午前8時30分から始まると定められている。
<8:30〜 破綻金融機関の理事会招集 預金保険法74条の申し出の承認(預金払出しが不可能になった旨の届け出及び金融整理管財人による管理)>(以下原文のまま)
預金保険法の銀行破綻手続きには74条の規定により2通りの方法がある。金融庁が職権で強制的に破綻だと認定するケースと、銀行側が自発的に破綻を申し出るケースだ。ただし、強制破綻させた場合、銀行の経営者が不服を申し立てて行政訴訟を起こすと、裁判で金融庁の検査が適正だったかどうかが争われる可能性がある。
金融庁はその事態を想定し、かつ避けるため、『手順書』では、まず、金融機関に理事会(役員会)を開かせて、あくまで自発的破綻を決定させる手続きをとらせる――としている。
理事会招集からは、分刻みのスケジュールになる。
<9:30〜 財務局への預保法74条申し出及び財務局の確認作業>
<同刻 譲受側金融機関への受け皿要請連絡↓譲受側金融機関決断理事会開催>
銀行が破綻すると、別の銀行が債権などを引き継いで業務を行なう。破綻申請と同時に『譲受側金融機関』に連絡するというのは、金融庁が事前に売却先を決めたうえで破綻させることを意味する。外資系など金融庁が望まない企業に破綻銀行を買収させることを防ぐための措置である。まさに≪官製金融≫そのものであり、かつての≪護送船団行政≫が依然として健在であることを物語っている。
『手順』は粛々と進められる。
<9:45〜 銀行法26条(業務停止命令等)に基づく命令と受理の確認作業>
<10:00〜 銀行法24条に基づく、財務諸表、決算書等の修正報告命令↓理事会決議を経た報告>
それからしばらく時間を置いて、
<15:00〜 破綻金融機関における役職員への説明>
――となっている。
現実には、銀行は直前の決算では経営的に何の問題もないと発表されていたのに、破綻とされた途端に1年以上も前から債務超過に陥っていたと説明されることがよくある。なぜ、そういうことが起きるかというと、『手順書』の“無言の行間”が理由を語っている。手順による時間稼ぎと併行して決算書の修正が行なわれるわけである。
さて、クライマックスだ。
<15:30〜 預金保険法74条命令の交付(破産宣言) 金融整理管財人選任書の交付>
<16:00〜 譲受側金融機関の受け皿意向表明 破綻金融機関の記者会見>
正式な破綻決定は金曜日の午後3時30分に設定されているが、そのことには2つの意図がある。
第1は、銀行の営業時間が終わるのを待って公表することで取り付け騒ぎの発生を防ぐ。もう一つは、東京株式市場が週末の取引を終える時間であり、銀行破綻を引き金に株価暴落を招かないように逆算してスケジュールが決められていることがわかる。
破綻が正式に宣告されると、金融庁が選んだ金融整理管財人が送り込まれ、銀行の経営陣は解任される。
手順書にはその後の作業がこう書かれている。
<土曜日 破綻側金融機関全役職員自主出勤>
<日曜日 譲受側金融機関全役職員自主出勤>
――『全役職員自主出勤』と、わざわざ書いてある箇所の、あくまで自主性を取りつくろいたがる官僚流の表現に失笑を禁じ得ないが、かくして、R銀行は有無をいわさず、金融庁の≪破綻レール≫を走らされる。
手順書は金融庁内部の単なるシミュレーションにはとどまらない。実際、今年度1年間で地銀、信用金庫、信用組合など47の金融機関が破綻し、いずれも金曜日の営業時間終了後に発表された。金融庁がいかにこのマニュアルに沿って銀行を計画的に破綻させてきたかがわかるが、破綻の最終段階に至るまでには、もっと隠微な準備工作がなされていた。
(2)見せしめ破綻の永代信用組合
金融庁の再編方針に逆らった銀行は悲惨である。
1月12日に破綻した永代信用組合は、経営陣が自主的な破綻申請を拒否したことから、金融庁は職権で債務超過と認定し、業務停止命令を出した。
それに対して山屋幸雄組合長が不服申し立てを行なうと、今度は金融庁が即座に却下して破綻宣言するという異例のケースとなった。
山屋氏は当日の会見で「自己査定では債務超過にはなっていない」と主張し、破綻取り消しを求めて行政訴訟を起こす構えをみせている。
なぜ、金融庁と永代信組の経営陣との対立がそこまでこじれたのか。
金融庁は一時、永代信組を中核に東京都内の10行あまりの信組を統合させる構想を描いていた。しかし、他の信組がまとまらずに再編に失敗すると、昨年11月に一転して≪取り潰し≫の方針を固める。そこから永代側と金融庁の攻防が展開された。
金融庁は金融検査の結果、永代側に96億円の債務超過であることを通告したが、永代側は何度も資産査定の内容に不服を申し立てた。
その一方で、永代信組は破綻を回避するために組合員など2500人から38億円の出資金を集め、さらに外資系金融機関から160億円の増資を受ける交渉を進めた。
しかし、ひとたび永代信組の取り潰し方針を固めた金融庁は認めない。
破綻前日の1月11日、永代信組の組合員は柳沢伯夫金融相に最後の要請を行なった。
「あと1か月の猶予があれば、出資金を250億円に増資できる。3月末まではペイオフが解禁されないから、預金者にも迷惑をかけない」
しかし、金融庁はその日、永代側に業務停止を事前通告し、破綻が決定的となった。
永代信組は現在も営業を続けているが、破綻後の1週間で300億円が流出した。
金融庁の態度は不可解だ。
前述の『手順書』では破綻と同時に業務を引き継ぐ受け皿金融機関を決めることになっているが、永代信組の場合は現在も宙に浮いている。
取引先の中には融資が受けられずに資金繰りに苦しむ企業が増えている。受け皿金融機関の準備もないままに破綻させたとすれば、それこそ預金者や融資先より、監督官庁の面子のためにまず取り潰しを優先させたとみられても仕方がない。
(3)取り潰し政策が危機を一層深刻化
金融庁の強権発動による銀行取り潰し政策よって、果たして金融危機はいくらかでも回避されたのか。現実は逆に、危機は一層深刻化している。
さる1月21日、米国の有力債券格付機関『ムーディーズ』が邦銀大手10行の格付け見通しを「ネガティブ」に変更した。いずれ格付けを引き下げるという警告だ。
しかも、足利、北陸、北海道、紀陽、福岡シティの地方銀行5行については長期預金格付けを≪投資不適格≫を示す「Ba1」に引き下げた。「Ba1」になると海外での債券発行など資金調達が困難になる。5行はすでに海外部門を撤退しているため直接の影響は小さいものの、海外の投資家が日本の大手銀行や有力地銀に厳しい目を向けていることを物語っている。
現在、証券取引等監視委員会は東京市場で銀行株の取引を厳しく監視し、少しでも株価が下がると外資系証券会社に警告を出すという市場統制でなんとか急落を食い止めている。しかし、いつまたヘッジファンドに邦銀株を売り浴びせられるかわからない不安定な状況が続いている。
折しも、ムーディーズが邦銀の格付けを引き下げたその日、自民党は緊急金融安定化本部の会議を開いた。
党側は山崎拓幹事長、青木幹雄参院幹事長ら執行部中枢が顔を揃え、柳沢伯夫金融相に金融情勢の説明を求めた。
出席者の1人が語る。
「とくに問題になったのは東海と東北の第2地銀だ。昨年末に石川銀行が破綻したばかりだけに、『金融庁は2つの地銀も潰すのか』という質問が集中した。柳沢氏は『再建計画をまとめさせている』と言葉をにごした」
金融庁は1年間に47の金融機関を破綻させながら、まだ次から次に銀行危機が噴き出しているのが現実なのだ。
ここにきて業界再編に乗り遅れた大手生保の危機説が流れ始めたことも、金融庁にとって予想外の事態だった。
大手銀行幹部の話。
「大手銀行はダイエーへの経営支援や相次ぐゼネコンの倒産でいずれも3月末決算で大幅な不良債権処理を迫られている。そのうえ生保破綻ということになると、メーンバンクは経営を直撃されるし、金融不安につながりかねない。金融界は最悪の場合に備えて厳戒態勢をとっている」
金融庁の金融再編政策の根本が問い直されている。
(4)自治体出資方式は事実上の裏税金投入
小泉内閣の金融行政は極めていびつな方針の下で進められている。金融庁が金融再編を名分に信金、信組など中小金融機関の破綻処理を急ぐ一方で、当の小泉純一郎首相や竹中平蔵・経済財政相は≪金融システムの安定≫を口実に大銀行への税金投入を固めている。
≪潰す銀行≫と≪助ける銀行≫はどこで線引きするのか。本当に大銀行さえ救えば金融安定につながるのかという視点の検証もまるでなされていない。
そのうえ有力地銀に対しては、奇妙な形で税金投入されようとしているのだ。
昨年12月、北陸銀行と足利銀行が地元自治体(県や市)に出資を要請し経営を再建する計画を発表した。自治体の出資とは、銀行支援のために県民税や市民税を投入することに他ならない。
北陸は富山県、足利は栃木県の指定金融機関であり、再建に失敗すれば地域経済への影響が大きい。
両県が出資に応じる方針を決めたのも、当然、破綻を防ぐためだと説明する。
しかし、自治体には銀行への監督権はなく、金融の安定には大銀行も地銀や信金、信組であれ政府(金融庁)が責任を負っており、預金保険機構には銀行支援のための15兆円の資金が用意されている。
地域経済安定のために北陸と足利両行に税金投入するなら、小泉首相が『金融危機対応会議』を招集し、政府の金融政策としてやるべきだろう。すでに足利銀行には3年前に政府の税金投入が行なわれているのである。
それをいつの間にか、≪大銀行は政府≫、≪有力地銀は自治体≫と役割を分担させて、金融行政に何の権限もない県や市に税金投入を肩がわりさせるのは金融庁の責任放棄以外の何ものでもない。
(5)デフレ加速の小泉政策
金子勝・慶応大学経済学部教授は小泉内閣の金融政策について「経済再生どころかデフレを加速させている」と正面からこう斬り込む。
「金融庁は大手銀行が3月決算をどう乗り切るかというその場しのぎの発想しかない。金融システム安定化のために大手銀行には公的資金を入れても、信金・信組には入れない。規模は違っても同じ金融機関ではないか。企業にも同じことがいえる。大手銀行の取引先企業には何千億円という債権放棄を認める姿勢なのに、信金・信組が地元の中小企業の長年の信用で貸していた無担保融資については、不良債権として貸倒引当金を積み増すように指導していることに驚く」
その結果――、
「中小金融機関が次々に債務超過となって潰れる。破綻した金融機関の多くは債務超過額が数十億円ほどしかない。何千億円もの債権放棄で1企業を救うのなら、それだけの資金があれば多くの中小企業が救える。あるいは、金融システム安定化のための15兆円の公的資金を中小金融機関に振り向ければ、多くの信金や信組が破綻しなくて済む」
そうした発想がなぜ小泉首相や金融庁にできないのかと金子氏は迫るのである。
「金融庁は本来メスを入れなければならない大手銀行を処理すれば連鎖倒産や取り付けが起きると心配して、中小金融機関だけを標的にする。それも金融庁がこなせる業務範囲の中で計画的に潰しているように見える。小泉内閣は規制緩和で民間活力を高め、経済回復をめざすといっているが、金融庁がやっているのは裁量行政そのものだ。政府のサジ加減で破綻を決められる中小企業や金融機関にとっては専制政治に近い」
小泉首相は経済危機脱出の具体策を問われると、「構造改革なくして成長なし」と繰り返すが、金融政策一つとっても、いくら改革の衣を着せたところで、中身が矛盾だらけでは改革の効果など出ようはずがない。逆に、不況を深め、金融システムの再構築を阻害している。重大なことは、小泉首相がそこを全く理解できていないことだ。
自己陶酔型改革論の転換こそ急務である。