★阿修羅♪ 国家破産6 ★阿修羅♪ |
米国主導で突っ走ってきたグローバル資本主義が、完全に行き詰まりをみせてきた。
市場主義という米国基準を世界に押し付け、資本を吸い上げる「いいとこ取り」の手法は壁にぶつかり、米国も世界も混沌の時代に入った。
米国に蔓延するのは手のひらを返したような「愛国主義」と国家による過剰介入だ。
剣呑な時代を日本はどう乗り切るべきか。
●米エンロンの破綻は 市場主義経済の限界を露呈
今、米国が規制緩和の旗手ともてはやされた企業の経営破綻に戦いている。電力、ガスなどエネルギー自由化の尖兵、エンロンだ。エンロンは電気、ガスなどエネルギーの卸市場で、全米の4分の1のシェアを誇っていた。子会社である投資会社を使った金融取引が裏目に出て、そのエンロンが2001年12月2日に米連邦破産法11条(日本の会社更生法に相当)の適用を申請し、事実上破綻した。
エネルギー大手のダイナジーがエンロンの買収を発表したが、帳簿に表れない関連会社の金融取引の全貌がつかめないとして、2001年11月28日には買収合意を破棄した。公益事業でもともと収益性の高くないはずのエンロンがこれまで急成長できた原動力は、関連会社を使った「出世払いの資金調達」だった。
将来の収益や株高を見込んだ形で債券を発行し、それを投資や企業買収に充ててきたのだ。数年前にはテキサスのパイプライン会社にすぎなかったエンロンは、いわば米政権の規制緩和路線に乗る形で急成長した。米国が全世界に電力事業の民営化を強く求めるのを追い風に、エンロンはインドやフィリピン、中南米でも事業を拡大、日本でも売電事業の計画を打ち上げたのは記憶に新しい。
こうした事業は投資家に夢を与え、投資資金を大量に集めることに成功した。しかしながら、出世払いの資金調達は常に事業の拡張を必要とする自転車操業である。米景気と米国株が失速するにつれて、錬金術のほころびが見えた。いったん回転が逆になりだすと、資金繰りはいっぺんに逼迫し、経営危機に陥ったのだ。2001年9月の米同時多発テロは同社に大打撃を与えた。スタンダード・アンド・プアーズやムーディーズなどの格付け会社が社債を投資適格外に引き下げたことがエンロンに止めを刺した。
米国は2000年末のカリフォルニア州の比ではない電力危機に直面する恐れがある。しかもエンロンのケネス・レイ会長兼CEOはブッシュ大統領の友人で、ブッシュ政権発足に際しては入閣の下馬評に上ったほど。規制緩和の旗手は、経済のみならず政治をも揺さぶりかねない。
エンロンのケースは、規制緩和と一体になったグローバル資本主義の行き詰まりの一例にすぎない。90年代の米国のマネー戦略の担い手として自らも繁栄を謳歌したウォール街では、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなどで数千人から1万人単位のリストラの嵐が吹き荒れている。米投資銀行のエコノミストたちは相変わらず「V字形の景気回復」を唱えるが、誰よりもそんな予想を信じていないのは投資銀行のトップたちだ。
●舵取りを変えた米国の国益重視 過剰介入で企業を後押し
グローバリズムの破綻が鮮明に表れているのは貿易の分野だ。米国に隣接するメキシコのマキラドーラ(保税加工区)では、米企業向けの部品の発注が激減している。日本などアジア諸国も、米国向けのIT関連輸出がつるべ落としになっている。米国を軸にヒト、モノ、カネと情報を高速回転させるグローバル資本主義は、今や負の連鎖を起こしている。
最も懸念されるのは、グローバル化の旗手だった米国が、あられもない国益重視路線に出ていることである。
例えば、電力に先立って80年代に規制緩和が進んだ航空業界。米同時テロ以降の旅客数減少を機に、米政府と議会が挙国一致で航空業界向けに150億ドルの支援を決めた。民間への政府支援を嫌っていたはずの国とは思えない転身である。皮肉なことに欧州連合(EU)から、「米政府による航空業界支援は旅客運賃のダンピングにつながる」という強い抗議が、ミネタ米運輸長官に寄せられた。
鉄鋼業界については、米国は自由化どころか、国際的なカルテルを画策しだした。業界第3位のベツレヘム・スチールが破産申請するなど、鉄鋼業界の経営が急速に悪化しているからだ。ブッシュ政権は緊急輸入制限(セーフガード)など国内業界保護を打ち出すとともに、日欧やアジア諸国などと過剰設備の削減を図ろうというのだ。
こうした企業重視、国益重視の姿勢は、弱い産業に対してだけではない。ブッシュ政権はマイクロソフトに対する独占禁止法違反の訴訟を取り下げ、和解に応じた。これによってマイクロソフトは企業分割という最悪の事態を免れ、圧倒的なシェアを誇る「ウィンドウズ」に様々な新機能を統合してゆく戦略を継続できるようになった。
一見すると国家介入路線の逆のケースと思われるが、独占禁止による自由競争の確保という市場経済の基本原則に目をつむってまで、ブッシュ政権は米企業の活動を後押ししようとしている点が見逃せない。2001年9月17日の株式市場の再開に際して、企業の自社株買いの規制を大幅に緩めて株価を下支えしたのと、そっくりの発想である。
本来なら小さな政府を唱えるはずの共和党政権の下で、国家介入が強まるのは矛盾というほかない。同時テロ以降、米国を覆う愛国主義の奔流が、冷静であるべき経済政策をも狂わせているのである。インターネットの通信傍受などを合法化したテロ対策法の別名が、「愛国者法(パトリオット・ロー)」と聞けば、今の米国の空気がうかがえよう。
●財政赤字覚悟で金融テコ入れ 官民一体の消費刺激策
ミクロだけでなく、マクロの財政・金融政策でも、方向ははっきりしている。テロリストに屈せず、景気の底割れを防ぐというものだ。減税を中心にブッシュ政権が打ち出した財政政策は、合わせて1000億ドル規模。これは、米国のハイテク産業の投資落ち込み分に相当する。財政赤字を覚悟で、米国は景気のテコ入れに出ている。
米連邦準備制度理事会(FRB)も金融緩和を急ぎ、フェデラルファンド(FF)金利はついに2・0%になった。40年ぶりの低水準で、利下げのスピードは1913年にFRBが発足して以来、最速である。これまた、なりふりかまわぬ金融緩和というほかはない。
景気テコ入れを徹底させようと、米政府は自動車メーカーに働きかけて、オートローン(自動車ローン)の金利をゼロにした。金利ゼロで自動車が買えるようにして、個人消費の下支えを図ったのだ。2001年7月以降の所得減税が貯蓄に回ったことで、消費の先行きを懸念した米政府と自動車メーカーは、文字通り官民一体の作戦行動に出たのである。
もちろん、米国がすべて一枚岩になっているわけではない。例えば、減税問題では民主、共和両党の路線対立が鮮明になっている。民主党が所得減税を主張するのに対して、共和党は企業向けの戻し減税を唱えている。アルミメーカー、アルコア出身のオニール財務長官が議会対策の手腕を持ち合わせていないこともあり、財政問題では次第にほころびが広がりかねない。
アフガニスタンでの作戦行動では事実上のタリバン崩壊に至り、ブッシュ政権の追い風になっているが、湾岸戦争のケースを思い出しても戦争人気は長くは続かない。今後戦闘が長びくようだと、国内経済の不振に米国民の不満が募ることが予想される。
それにしても、米国がブッシュ政権の下で、市場主義から国家統制へと舵を切ったのは間違いあるまい。そのことは、「米経済の潜在成長率を押し下げる要因となるだろう」と、モルガン・スタンレーのエコノミスト、スティーブン・ローチ氏はいう。民間に比べて政府部門は非効率なうえに、航空機や建物、果ては郵便物に至る安全チェックは企業活動の効率を落とす。いったん切断されたグローバル化の鎖は、元には戻らない。
●日米合作PKOの禁じ手解禁 数少ない日本の選択肢
グローバル化や規制緩和を目標にしてきた小泉純一郎政権の構造改革は、手を付ける前から米国の頓挫に見舞われてしまった。自民党内の守旧派の巻き返しにもまして、米国の路線転換は小泉政権への痛手となりかねない。加えて、世界同時不況の足音が高まるなかで、ただでさえ不況に直面する日本の経済は、一層の落ち込みが避けられない。
日本でも今求められるのは、見てくれの良い構造改革の総論ではなく、非常事態を乗り切る強力な政治的指導力なのである。ブッシュ政権が航空業界の救済に踏み切った手法を単純に真似するのも芸がないが、銀行の不良債権処理の過程で生じる企業の整理・淘汰に対して手を拱いているのは許されまい。政府に対する民間のもたれかかりが「失われた10年」を招いたのは確かだが、金融と産業の危機連鎖を食い止めるのは最大の政治的課題なのだ。
日本の財政、金融政策はすでに手詰まりとなっている。財政は破綻状態だし、金融はこれ以上の緩和余地がない。現状の日本が取れるのは、米経済の底割れを防止するための補完的な政策しかあるまい。日銀が米国債を購入して、米国への資金還流のパイプ役となることは、日本がとり得る数少ない選択肢であろう。
為替相場を円安ドル高にして企業の輸出採算を好転させる一方、日銀による米国債の購入で米長期金利を低位に安定させるのだ。日本は輸出という命綱を確保し、米国も低金利による景気下支えを図る「一挙両得」の作戦は、日米合作のPKO(株価維持政策)ともいえる。市場原理に対して統制のウエートが高まるのに応じて、日本も通常なら禁じ手とされる政策を検討すべき段階にきているのではないか。