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【ダイエー再建問題】
●日本発の金融危機は起こさない
ダイエー<8263>の1兆7500億円に上る有利子負債(カード事業を除く)を2005年までの3年間で1兆円未満に圧縮する新3カ年計画が発表され、当面の金融危機が回避された。これは「日本発の金融恐慌は引き起こさない」という小泉純一郎首相の断固たる決意が功を奏した結果だ。首相は18日の日本記者クラブでの会見で、ダイエー再建問題について「ダイエーの破たんは小さな影響では済まない。金融不安を起こさない、無用な混乱を起こさないという観点から、政府としてできるだけの措置を講じたい」と強調、ダイエー再建支援に全力で取り組む意向を示した。
こうした小泉首相の方針について「構造改革一辺倒から微妙に軌道修正してきた」との見方もあるが、恐らくそうではないだろう。首相は既に12月27日の自民党幹部との会談でこの方針を確認して以来、1月4日の年頭記者会見などでも同様の考えを示している。首相としては構造改革という小泉政権を象徴する旗は掲げつつ、金融危機につながる恐れのある銀行などの破たんには機動的に対処するのが基本方針で、これは今後も続けられていくものとみられる。
●「危機感がないのが危機」と首相周辺
ただ首相周辺が「3月危機などない。昨年からやれ9月危機、10月危機、11月だ年末だと危機が煽られ、年明けも1月半ばだと言われた。2月にどうとか3月にどうとか、そんな危機感は全くない。危機感がないことが危機だといわれてもしょうがない。特に銀行にはそういう意味での危機感はない」というのは言い過ぎ。もちろん、不安解消のため意図的に危機説を沈静化しようとしているのだろうが、あまりの楽観論は逆に不安を増大させる可能性もある。
逆に野党側の「小泉はダイエーを潰さない代わりに、銀行の言うことを何でも聞くことで手を打った。これで経営責任も追及しないし、不良債権も何もないことになる。しかし、不良債権は現実にあるのは確かで、日本経済は自然死するしかない」(民主党幹部)というのも、正確とは言えまい。政治的思惑が含まれているとしても、今後への牽制球とも読み取れる。
●すべては本業にどれだけ専念できるか
ただダイエーの再建策は、主力取引銀行3行に債務放棄を含む4200億円の支援という大きな犠牲を強いるが、順調にいっても3年後に依然1兆円という膨大な負債が残るのは事実。それだけに、ダイエー自身が今後、本業の小売り業にどれだけ専念し、売り上げを伸ばすかにすべてがかかっている。私もこの稿を書くに当たって、ダイエーとライバルのイトーヨーカ堂<8264>を見てきたが、ダイエーの店舗は全体に薄暗く、雑然とした印象。置いてある衣料品などもヨーカ堂に比べ、古臭い印象が強かったのは思い込みだろうか。万が一、再建策がうまくいかないようだと、ダイエーそのものの存亡に直接関わるだけではなく、UFJ<8307>、三井住友<8318>、富士の主力銀行3行も経営危機に陥りかねない。その時は金融危機がいよいよ本物になる。
●最後に老醜をさらした中内功氏
1972年に小売業日本一の座に着いたダイエーがバブル崩壊と歩調を合わせるように経営危機に陥ったのは、土地を担保に銀行から多額の融資を受け、それでさらに他の土地を購入し、新たな店鋪を開設するという拡大路線を取り続けたためだ。さらにプロ野球球団やリクルートなど本業と何の関係もない企業を次々と買収、事業を拡大していった。しかしバブル崩壊で土地の担保価値は急落、その他の事業も急速に業績を落とした。つまりダイエーの最大の失敗は本来、最も力を入れるべき本業をおろそかにした点にある。何の苦労もなく資金が得られる「土地神話」に目が眩んでいたとしか言い様がない。
そのことに早い時点で気付いていた同社幹部もいたようだが、そこに立ちはだかったのが創業者の中内功氏だった。いずれの再建策も既に時流からずれていたとしか思えない同氏によって退けられ、負債は雪だるま式に増えていった。政界などでもよく見られるが、トップに立った者は引き際を間違うと、過去にどんなに功績があろうと、最後に老醜をさらすという典型的な例となってしまったようだ。
●「土地本位制」に振り回された銀行
一方、ダイエーに多額の資金を融資し続けた銀行側の責任も重い。本来、銀行はその企業の経営実態や方針に目を光らせ、厳格な審査に基づき融資額を決定するのが筋であろう。それを無視し、一方的に貸し込んでいったのでは、銀行家失格と言われてもやむを得ない。それもこれも、土地さえ持っていれば、企業の経営内容には立ち入らないという銀行側の従来からある間違った方針にある。つまり借り手のダイエーも貸し手の銀行も「土地本位制」という幻に振り回されただけに過ぎなかったのではないか。土地だけを唯一の価値基準に置いた場合、バブル崩壊で土地価格が暴落すれば、双方の経営が致命的な打撃を受けることは自明のことである。厳しく言えば、中内氏も銀行の頭取もこんな簡単な理屈すら理解できていなかったことになる。
●「複数の都銀破たんがあり得る」の厳しい見方も
では本当に金融危機が無くなったのかと言えば、専門家の間では当然のことながら、4月1日のペイオフ解禁や企業の3月期決算を控え、なお危険な状態が続いているというのが一般的な判断。中には「複数の都銀の破たんや有名企業の倒産で、恐慌もあり得る」との厳しい見方や「政府は銀行への公的資金注入の準備は終えているが、大手生保が倒産した場合の手当てができていない」などの情報も政府筋から漏れてくる。ダイエーの再建策によってあくまで当面の危機が回避されただけで、その他の要因による金融危機発生はまだ危険水域にあるというのが妥当な認識だろう。
●首相は構造改革で強力なリーダーシップ発揮を
今月初めの「2002年政局展望」の中で「金融危機は政変に直結しない」と書いたが、少し補足したい。あの中で「政変」が起きないとみる理由について(1)衆院解散・総選挙や首相交代などは政治空白を招き、国民の厳しい指弾を受けること(2)仮に衆院解散となれば、反小泉派は全員「抵抗勢力」と見なされ、落選の危機があり、さらに首相が民主党と結ぶ可能性があること(3)小泉首相の有力な後継者が見当たらないこと(4)自民党内の権力構造が変化し、小泉首相の改革路線に反対することは困難なこと―などを挙げた。
このうち有力後継者がいないということが、結果的に小泉首相の強さを際立たせる重要な要因となっている。先にも触れた「ポスト小泉」候補のうち加藤紘一元幹事長はその後発覚した私設秘書の脱税問題で窮地に立たされ、後継レースからほぼ脱落した。また積極財政論者の麻生太郎政調会長や平沼赳夫経済産業相は構造改革路線が行き詰まり、政策を180度転換する必要に迫られた場合にのみ有力候補となり得る。しかし、改革路線推進の正しさは繰り返し証明されており、そのうえダイエー問題などでみせた柔軟性も備えれば、首相に死角はほとんどないと言っていいかもしれない。
最近の各種調査での内閣支持率も一部の例外を除けば、先月よりさらに数ポイント上昇し、70%後半が多く、民放などには80%を超している例もみられる。一方、経済界にも「小泉首相を選んだことは構造改革を断固としてやるんだということ。今さら泣き言を言っても始まらない」(丹羽宇一郎伊藤忠商事社長)と、首相の改革路線を強く支持する発言が相次いでいる。しかし、それでも大きな課題は残っている。丹羽氏も指摘するように改革後の日本の姿に関する青写真を首相自ら明らかにする必要があることで、改革によって“リセットした日本”がどこへ向かうのか、どうなるのか・・・が薄っすらとでも見えない限り、国民の不安は残るであろう。
(政治アナリスト 北 光一)