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【信用リスク再考】(3)信用不安の兆候「読み取れる」-野村・土屋氏(2)(東京 1月9日ブルームバーグ)

投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 1 月 09 日 16:07:34:

国内外の金融・資本市場で高まる信用リスク懸念。企業、国(政府)、公共セクターなど、あらゆる部門で信用リスクの顕在化や、いわゆる“突然死”も相次いでいる。投資家は何を信じていいのか。戸惑うばかりだ。
信用リスクとは一般に「債務償還能力に係るリスク」と定義される。だが、このリスクを図る尺度は利益成長を投資尺度とする株式とは異なる。これは市場では常識だが、その相違点や信用リスクの見方や本質は必ずしも市場関係者にはわかりにくいことも多いようだ。
そこで、企業の信用リスク分析に、十数年の経験を持つ野村証券・金融市場本部の土屋剛俊チーフクレジットアナリストに、1)信用リスクを見分ける手法、2)重要視する財務指標、3)財投機関債や地方債の投資判断での着眼点などについて聞いた。

信用不安の兆候は読み取れる

――現在、金融市場では信用不安が高まっているとの指摘が多いが、この状況をどうように考えるか?

「何をもって信用不安の高まりと判断するかによると思う。日本企業の多くが信用力に問題があるという状態はずいぶん前から、指摘されていたし、徴候は公表データーにも、あらゆる点で現れていた。その意味では信用不安の高まりという事態は最近になって急に発生した事態ではない」
「昨年になって、問題の先送りをしてきた企業や融資していた金融機関が先送りの限界に達し、傷が深い状態での企業破たんが現実のものとなった。それで、現状認識が不十分であった一部の市場参加者が突然信用リスクを意識し始め、信用リスクに対して過敏になり始めた。こうした事態を踏まえ『信用不安が高まった』と定義するのであればその通りかも知れない」

――社債市場は信用不安の高まりでスプレッドが拡大しており、発行を延期・中止した企業が出るなど起債環境が悪化している。今後の企業の資金繰りはどうなるのか?

「起債環境が相対的に悪化していることは事実であるが、そのことと日本企業全体の資金繰り問題が直結しているとは考えない方が良いだろう。もともと、資本市場で資金調達できる企業は、当然クレジットが比較的に良く、銀行の債権分類でも正常債権、それもかなり上の方に分類できる企業だ。これらの企業は、銀行からの融資で代替可能だ。起債環境の悪化と銀行の融資姿勢や選別融資とは分けて考える必要がある」
「日本でジャンク債(高利回り債)市場が発達していて、相応の信用力が低い企業でも資本市場で資金調達できるような状態なら話は別だ。ジャンク債市場で起債環境が悪化したりすると、それは憂慮するべき問題となるが日本の社債市場はそこまでに至っている状態ではない」
「現在の日本の社債市場は、十分に信用力が高い発行体に対してまで、投資家が少し引いてしまっているので、発行体にとって社債での資金調達は効率が悪く、しばらくは直接金融による資金調達を控える、といった状況に過ぎない」
「また、社債の発行残高が多いにもかかわらず、社債のリファイナンスができない発行体もみられるが、この場合は、起債環境が悪化していることが理由ではなく、発行時に高かった格付けが、自らの信用力の低下によって格付けが下がったことが原因だ」

――金融庁による大手銀行への特別検査が実施されており、銀行が貸出先を選別しているという指摘も多い。このような銀行の選別融資は、今後の起債環境に影響を与えるのか?

「先に述べたように、起債環境悪化の影響を受けて、社債の発行が難しくなった企業のクレジットの水準と銀行が貸し出しを選別し始める企業のクレジット水準には、かい離があるため、銀行の選別融資が起債環境に与える影響は軽微であると考えている」

営業キャッシュフロー対有利子負債の比率に注目

――クレジットアナリストとして注目している財務指標はなにか?

「いくつかの財務指標があるが、それは、どれくらいのリスクをどれくらいの期間でみるかによって注目する指標も異なってくる」
「経営状態が悪く、しかも2―3カ月後に社債の償還が来る場合には、収益力があるかないかは二の次だ。流動資産がどれくらいあるか、銀行からの短期コミットメント額などの資金繰り関連の情報が重要となる。非常に短期的な問題になると、たとえ債務超過でも銀行からのコミットメントがあって、その未使用分が余っており、支払い債務の額を十分に超えていればいいということになる」
「ある程度の信用力があり、期間が5年くらいの中期的な場合には、キャッシュフロー分析をみることとなる。特に、営業キャッシュフローに対して有利子負債がどれくらいあるか、が重要だ。キャッシュフロー計算書というのは原則として操作できる余地が少ない財務指標であるのが良いポイントだ」

利益は見解の相違‐合法的な操作可能

「利益という指標は、Profit is a matter of opinion(会計上の利益は考え方によってその額が変わり得る)ということがしばしば言われ、売上高の計上基準、減価償却の方法、有価証券の評価方法、棚卸資産の処理、各種引当金の計上方法などによって大幅に変わり得る。もちろん、これは粉飾といった違法な操作ではなく、まさに『考え方の違い』である」
「したがって、会計上の利益をそのまま採用して利益関連の指標を計算するのは誤った結論を導く可能性があり、また、分析の対象となる企業がすべて同じ基準で利益を認識していない限り、単純な比較もおこなうべきではない」

キャッシュフロー創出能力の見極めが重要

「重要なのは本業で現金をどれだけ稼ぎ出せるかどうかだが、会計上、営業キャッシュフローを大きく見せる手法があるというのも事実だ。例えば、売掛金の回収といった行為も会計上の営業キャッシュフローを増大しうるが、売掛金の回収という行為は本業によるキャッシュフロー創出能力を必ずしも示すものではない。
「つまり、会計上、営業キャシュフローがどれだけ計上されているということよりも、企業の本業から発生しているキャッシュフローの創出能力がどれくらいあるかを与えられた財務諸表のなかから探り出し、見極めることが最も重要だ」
「さらに自己資本の絶対額にも注意を払っている。もちろん自己資本の絶対額が大きくても有利子負債の額が大きければ自己資本比率は低下するために、自己資本の絶対額が大きければよいというものではないことは明白だ。自己資本の絶対額に注目するというのもあまり論理的なアプローチではないが、それでも、それなりに意味があるのも事実だ」
「自己資本の小さい会社は、ある時点で他の財務指標がよくても環境変動などによって財務が急激に悪化することがある。一方、自己資本の絶対額が大きい企業は有利子負債が大きくても(逆に大きいことが銀行からのコミットを得やすいという部分もある)破たんしにくいというのも事実だ。回帰分析や格付け推定モデルなどの統計的なアプローチを行っても自己資本の絶対額が変数として高い説明力を示す傾向がある」

クレジットアナリストの眼

――クレジットアナリストと株式のアナリストは当然、見る眼も異なると思うが、その相違のポイントはなにか?

「株式アナリストは、一株あたりの利益などという点で損益計算書というフローに重きを置いているように見受けられる。一方、クレジットアナリストの場合には、社債の償還能力という信用リスクを見るので、貸借対照表というストックのチェックから始める」
「もちろん、クレジットアナリストにとってもキャッシュフローは最重要項目の一つであり、また、昨今の株式市場は信用リスクに影響される部分も多いことから、最近のエクイティーアナリストもバランスシート分析にも注目しており、両者の共通性が高まってきたように思える」
「また、違いとしては投資のタイムスパンがクレジットアナリストの方が一般的に長いと認識している。それ以外には株と債券の商品性の違いが影響している部分もある」

無借金経営で株価が上昇するとは限らない

「たとえば、信用力をみる場合、自己資本比率は高い方が好ましい。外部借入れが少なければ少ないほど良く、無借金経営会社が債務不履行(デフォルト)に陥りにくいというのは事実だ」
「ところが、無借金経営会社の株価が上昇するかと言えばそうでもない。ROE(株主資本利益率)を高めるためには、レバレッジを効かして、ある程度の借り入れをおこない資産規模を大きくするという方法があるが、社債のクレジットをみるという立場からは、できればそういうことはやらないでもらいたい」

財投機関債‐国費投入の可能性に注目

――財投機関債が昨年の秋から発行が本格化されているが、財投機関、特殊法人の信用力をどのように判断するか?

「財投機関の信用力は(公的サポートなどの)発行体と政府との距離以外のなにものでもないと考える。発行時の単体のバランスシートも重要だという意見もあるが、財投機関のバランスシートは確かに機関によって自己資本比率などに差異が認められるが、それは、その機関が自ら築いたものでは決してなく、政府がそうしている結果の数字だから最終的な投資判断にはならない」
「財投機関で唯一、信用リスクを考慮しなければならないとしたら、発行体の将来のある時点で国がまとまった国費を投入するような事態が発生した時に、速やかに国費の投入が行われないかも知れないというリスクである。したがって将来、国費の投入が必要になるようなリスクのある発行体かどうかの見極めが必要となる」
「国費の投入をもたらすような事態が発生する可能性についてはキャッシュフローを分析すると、ある程度の推測が可能である。キャッシュフローがわかりやすい例としては水資源開発公団がある。同公団の場合はインフローもアウトフローも将来にわたってほぼ確定しているため、国費の投入といった事態が発生しにくいことがわかる」
「ところが、インフローが読みにくい、たとえば、交通量とか飛行機の発着量とかに依存する場合、若干の不透明要素が残る。このような機関はインフローがある程度不確定で、国費の投入が内閣の支持率などで政治的にやりにくい事態が起きるかもしれない。そういう可能性が相対的に低いところが信用リスクが少ないと言えるだろう」

地方債‐発行体による信用格差はない

――地方債にも発行条件に格差を付けることを総務省が明言しているが、地方債の信用力をどうみるか?

「大幅な徴税権の移動や地方交付税交付の廃止などといった制度的な大転換でも起きない限り、発行体による信用力格差はないと考えている。現在の地方財政制度は東京都以外は地方政府単独では、どのみち成立しえない状態で、中央政府に強く依存している。これは歳入構造と歳出構造の違いによるものだ」
「したがって現行の制度下では地方債の信用力に発行体格差はないと考えられるが、流通市場でスプレッドに格差が生じていることも事実である。その背景には、地方債は政府保証が付されないために市場が『「念のために相対的に財政の悪化している発行体を避ける』という行動に出ているためであり、そういった銘柄に対するスプレッドは現行の地方債の信用力を支えている制度が将来機能しなくなるかも知れないというリスクに対するスプレッドだ」
「その意味では市場のそういった不安を払しょくしたいのであれば、地方債の制度的な安全性を法制度を含めて確立するといった方策を総務省がとると良いのではないだろうか。発行スプレッド格差については、債券のスプレッドはクレジットスプレッドばかりではないため、流動性を加味して格差を設けるという議論については反論はない」

●土屋剛俊氏のプロフィール

・1961年東京都生まれ。

・一橋大学経済学部卒業後、石川島播磨重工株式会社入社。航空宇宙事業本部 航空エンジン事業部勤務。

・1987年野村証券株式会社入社、Nomura Bank International plc(英国現地法人)、業務審査部(現リスクマネジメント部)を経て、Nomura International(Hong  Kong)Limitedにてアジア・パシフィックの非日系リスク管理部門を統括。

・1997年よりチェース・マンハッタン銀行東京支店ヴァイス・プレジデント審 査部長。同行のアジア・パシフィック部門におけるデリバティブ取引信用リ スク数量化・管理業務の責任者を兼任。2000年よりチェース証券会社調査部 長。また、1999年より2001年まで明治大学非常勤講師を兼任。

・2001年7月より現職。

著書:「デリバティブ信用リスクの管理(シグマベイスキャピタル社)」米国公認フィナンシャルアナリスト(CFA) 日本証券アナリスト協会検定会員




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