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●金融危機は「政変」には直結しない
2002年の政局は、結論を先に言えば、解散・総選挙や首相交代といった「政変」が起きる可能性は低いと見る。参院選や統一地方選がない今年は、小泉純一郎首相が提唱する構造改革に本腰で取り組む「何十年に1度のチャンス」(青木幹雄参院幹事長)となるだろう。唯一最大の懸念材料は経済動向だが、万一、2月か3月に金融危機が招来しても、そのことが政変につながるとは考えにくい。金融危機対策として首相は既に「金融危機を引き起こさないため、あらゆる手段を講じる」ことを宣言。金融機関への公的資金の再投入など「大胆かつ柔軟な対策を取る準備」を言明している。首相はそうした事態に立ち至る前に金融危機対応会議を招集、「非常事態宣言」を出すなどして日本発の金融危機回避に全力を挙げる構えだ。
●政治空白は国民から強い批判
経済面の困難が政治的危機に必ずしもつながらないと見る理由は第1に、衆院解散や内閣総辞職に踏み切れば、少なくとも2カ月程度の政治的空白が生じ、経済的混乱にさらに拍車をかけること。このような事態は国民から厳しい批判を受けることは不可避で、この点が攻める側が最も躊躇(ちゅうちょ)する点だ。第2に、衆院解散すれば、現在、「小泉改革」に反対している議員は全員「抵抗勢力」のレッテルを張られ、選挙戦で致命的な打撃を受ける可能性がある。さらに自民党が分かれて戦う分裂選挙ともなれば、小泉首相が民主党と手を結ぶ可能性があり、与党を割る気はない抵抗勢力側も首相をそこまで追い込むのは不利と判断しているようだ。第3に、ひょっとしてこの点が最も重要かも知れないが、小泉首相の有力な後継者が見当たらないことが挙げられる。
●抵抗勢力の派閥は既に崩壊過程
第4に、衆院への小選挙区制導入以来、派閥が事実上の崩壊過程に入るなど、自民党の権力構造が大きく変化してきたことが挙げられる。かつて三木内閣時代に15人もの閣僚が首相に辞任を迫るという「三木おろし」があったが、その時ですら、三木首相は半年間粘りに粘った。まして依然70%以上という驚異的支持率を維持している小泉首相を引きずり下ろすことは口で言うほど容易ではない。構造改革という「錦の御旗」を掲げる首相に辞任を迫る勢力が一枚岩を維持し、対抗することは極めて困難と言えよう。
●支持率50%、株価9000円割れは政権に赤ランプ
では小泉首相に全く死角がないかと言えば、そうではない。今のところ首相を支えている国民が、小泉改革の「痛み」にどこまで耐えられるかが最大のポイントとなる。昨年、青木建設が事実上倒産した際、首相は「構造改革が順調に進んでいる表れ」と言い放ったが、こうした一種突き放した首相の態度に国民がどこまで付いていけるか。
2月か3月にも予想される金融危機は取りあえず乗り切ったとしても、4月のペイオフ解禁や3月期決算を控え、金融機関や流通、ゼネコン、商社などの大型倒産は免れない可能性が高い。これに伴い中小零細企業の連鎖倒産も十分考えられ、完全失業率の6%超えが懸念される。加藤紘一元幹事長は年末の講演で、完全失業率が6.5%を超せば「大変な事態になる」と、政治面への波及を指摘した。
首相サイドは「ハローワーク(旧職安)を訪れた人の73%が小泉改革を支持している」と、国民がなおも構造改革の推進を望んでいるとの強気の姿勢を崩していない。しかし、国民の間に雇用面などに不安感が急速に広がり、もし内閣支持率が50%、日経平均株価で9000円を割り込むような事態となれば、政権にも赤ランプが点灯する。
●小泉政権は「長期政権」となるか
では小泉政権があとどのくらい続くのか。最も厳しい見方を取る民主党首脳や橋本派幹部も「あと1年は持つ」との観測。首相の盟友である山崎拓幹事長や加藤紘一氏のYKKや鋭い政局見通しで定評のある大物無所属議員は「あと2、3年は持つ」と、小泉政権は長期政権になるとの見方。これに伴い、衆院選も2004年夏の「任期満了選挙」との見通しだ。
●「ポスト小泉」に山崎、加藤、麻生、石原氏ら
小泉首相が強いのは後継者がいないところと先に述べたが、それでも敢えて「ポスト小泉」候補を探ってみる。小泉政権がどういう終わり方をするかによるが、小泉首相が故小渕恵三元首相のように病気退陣を余儀なくされた場合、政策の大きな転換が必要ないため、禅譲期待の山崎氏や加藤氏など。小泉改革が破たんし、積極経済路線へと大きく政策転換する場合は、景気回復優先を唱える麻生太郎政調会長や平沼赳夫経済産業相ら。さらに政変が起き、政界再編に発展する事態となれば、新党ブームを当て込む石原慎太郎都知事の登場もあり得る。
ダークホースには古賀誠元幹事長や高村正彦元外相ら。前回の総裁選に出馬した橋本龍太郎元首相や野中広務元幹事長、亀井静香前政調会長らは既に「過去の人」で、出番はない。田中真紀子外相も小泉政権発足当初までは「日本最初の女性首相」と嘱望されたが、これだけ失点を重ねるともうその芽はない。
●改革後の青写真「小泉ビジョン」策定へ
政策面では、特殊法人改革や構造改革のもう一つの柱である税制改革が焦点となる。特殊法人改革では道路関係4公団の民営化に向けた業態などを協議する第三者機関の人選が当面の関心事。同機関は4、5人の少人数となる見込みだが、設置法案に首相の任命権が書き込まれるなど首相の意向が反映できるかどうかがポイント。
また首相が進めようとしている構造改革の青写真について「国民に2、3年我慢しろというのなら、その後にどういうことが待っているのか首相自ら説明する義務がある。これまでのところ、その説明はまだない」(後藤田正晴元官房長官)との批判も根強い。このため首相は改革後の日本の姿を示した「小泉ビジョン」(仮称)を早急に策定する必要に迫られている。
●消費税率アップは「政治的に不可能」
税制改革は昨年の歳出改革に次ぐ歳入面の改革で、小泉改革の「仕上げ」(首相周辺)となる。首相が年頭記者会見で「消費税も議論してもらう」と述べたたため、同税の税率アップばかりに関心が集まっているが、消費税アップは「政治的には不可能」(山崎幹事長)というのが政界の常識。むしろ課税最低限引き上げなどの所得税や相続税、土地税制などの見直しが議論の対象となろう。
安全保障面では有事法制が最大の焦点。従来の「準戦時立法」的な側面から、昨年末の不審船事件を受け、テロ対策や領域警備なども含んだ包括的な「安全保障基本法」(仮称)制定の是非が議論されよう。
(政治アナリスト 北 光一)