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「景気を直ちに回復できる手段があれば良いが、そんなものはない。“幸せの青い鳥”と同じで、それを追って山を越え、海を越えても、見つかりっこない。そういう議論を止めようというのが小泉改革だ。正しい財政政策と、正しい金融政策の発動を効果あるものにする金融システムの改善、この2つを同時並行でやるしかない」−−。
昨年7月の参議院選挙で初当選した自民党の近藤剛議員。元伊藤忠商事常務取締役で、ワシントン勤務も長く、米国政府要人に知己も多い。小泉政権の経済政策の評価を聞いた。
小泉政権は新規国債発行額を30兆円に抑える緊縮型の来年度予算を決定した。一方、日本経済は、景気後退と物価下落の悪循環であるデフレスパイラルの瀬戸際に追い込まれている。
「一口で言うと、需要不足であり、これからの政策はいかに国内需要を高めるかに重点を置き、総合的な政策を打ち出さなければならない。実効性を伴い、市場に対して説得力のある政策が必要だ。そのためには、念頭に置かなければならないことが3つある」
「1つは、国民に代わって政府が支出するやり方は、増税をしない限り破たんが避けられず、これ以上続けることはできないこと。次に、世界のなかに置かれた日本の環境を考えれば、従来のように外需主導で需給のミスマッチを解消する道はあり得ないこと。最後に、家計は豊富な金融資産を抱えており、潜在的な需要をいかに消費に向かわせるかが問われていることだ」
日本経済がデフレスパイラルを回避するには、個人消費の動向がカギを握ってくる。しかし、将来不安もあって消費の底上げには期待できそうにない。
「今は、金はあるが、それを使わない。消費や投資を促すのは、半分は心理的要因だ。国民を消費に向かわせるには、まず将来への不安心理を取り除かなければならない。例えば、老後の基礎年金、老齢医療保険、雇用保険を一体運用し、仮に消費税が欧州並みの高水準になっても、100%税方式にして、将来不安を解消することも1つの考え方だ」
「次に財政政策。小さな政府を志向しつつ、いかに国民が自ら金を使うよう財政を利かせていくか。それには、投資と消費を喚起する政策減税が必要だ。法人税や所得税の一律減税も1つの方法だが、効率は良くない。財政状況を考えれば、投資や消費に税制上のメリットを与えるピンポイントの政策減税が必要だ。具体的には、証券税制と住宅税制、それに相続税制がある」
「米国では、証券投資による損失は総合課税で控除され、それでカバーできなければ過去に払った税金の還付、さらに将来の税金繰り延べと、3段階で救済される。ドイツは、証券市場の売買益に対する所得税が免除されており、89 年までは日本もそうだった。まずはドイツ型に戻る議論が必要だろう」
小泉構造改革の一環で、住宅金融公庫の廃止が決まったことで、個人の住宅取得の妨げになるという指摘もある。
「住宅金融公庫の存在自体が、思い切った住宅税制を妨げてきたので、廃止には大賛成だ。これまでは、政府が税金を吸い上げ、住宅金融公庫に金利補助を行う“補助金型”だった。これからは、政府を経ない住宅税制が必要だ。個人消費で最も潜在需要があり、戦略的に伸ばせるのが住宅だ。今は世帯数より住宅が多いくらいなので、新築はあまり必要ないが、全戸数の3分の1は買い替えや立て替えを待っているといわれており、そこを刺激すればよい」
「そのためには買い替えや立て替え、別荘や貸家も含め、住宅取得や建設にかかるコストをすべて控除する米国型の税制が必要だ。政府発表の産業連関表によれば、住宅投資の波及効果は非常に大きく、ほぼ同額の消費や投資を新たに喚起する。そうなると、消費税も入るので、差し引きではむしろ増収になるかもしれない」
「次に相続税と贈与税、特に事業承継にかかる税制の改革だ。相続税と贈与税は、消費や投資にとって大変な障害になっている。お年寄りはいくら資産を持っていても使わない。次の世代に資産を移転したくても、相続税や贈与税がそれを阻んでいる。次の世代に移転して初めて、消費や投資という形で解放される。相続税を緩め、生前贈与を思い切った形で認めていく必要がある」
「米国では、10年かけて相続税をゼロにする法律が既に可決された。英国では自家営業を含め、中小企業の事業承継の相続税が100%免除されている。日本はその折衷型で、相続税をゼロにしないまでも思い切って軽減し、雇用維持の観点からも、事業承継は生前贈与を含め100%免除するのが良いと思う。眠っている資産を解放すれば、解放した瞬間から税収が起こってくる。一時的に贈与税や相続税が減っても、補って余りある税収が将来的に期待できる」
税制の議論はこれまで、財務省主税局が主導する税の論理が幅を利かせ、経済政策としての認識が少なかった。
「確かに、党税制調査会は財務省主税局主導の議論しかしてこなかった。しかし、小泉首相は税制を抜本的に見直す方針で、来年2月から経済財政諮問会議で議論すると言っている。問題提起をする機運は出ている。来年度通常国会で骨格を固め、遅くても臨時国会で制度化し、平成15年度から実施に持っていかなければならない。メッセージを出せば、心理的な効果はすぐに出てくる」
近藤氏が属する派閥の長である山崎拓自民党幹事長は、日銀に外債購入を検討するよう求めている。
「金融政策や為替政策で構造改革を避けて通ることはできないし、やり過ぎるとむしろ、構造改革を遅らせる要因になる。為替相場の水準は結果であって、意識的に誘導し、それによって経済ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を変えていくことはできない。実体を離れた為替相場は、金利水準や国際金融に混乱をもたらす」
近藤氏は伊藤忠時代から、米政府と太いパイプを築いてきた。9月11日の米同時多発テロ事件も、ホワイトハウスで発生の一報を聞いた。
「米国は日本について、2つのことを懸念しているのではないか。1つは、日本国債が暴落すれば、世界恐慌につながるという財政のシステミックリスクだ。米政府は従来、財政支出を通じた内需喚起策を容認してきたが、財政規律をこれ以上緩めるとシステミックリスクにつながるとの認識から、小泉政権の財政構造改革を断固支持する姿勢に転換している」
「もう1つは、金融のシステミックリスクだ。米国の無責任な一部の識者は、日銀がもっとやるべきだと主張するが、米政府当局者は必ずしもそう単純に考えてはいない。通貨供給量をいくら増やしても、実体経済につながらないことに気が付いている。金融機関の機能不全が問題であり、不良債権問題の解決なくして健全な金融政策はあり得ない、という認識を持っている。米政府は不良債権問題を相当懸念しており、日本政府にもそう申し入れている」
それでも日本国内では、危機を脱する一発逆転を求めて、日銀にさらなる金融緩和を求める声が強い。
「景気を直ちに回復できる手段があれば良いが、そんなものはない。ないものねだりの経済政策ではダメだ。“幸せの青い鳥”と同じで、それを追って山を越え、海を越えても、見つかりっこない。そういう議論を止めようというのが小泉改革だ。正しい財政政策と、正しい金融政策の発動を効果あるものにする金融システムの改善、この2つを同時並行でやるしかない」
来年4月に解禁が予定されるペイオフの再延期論が取りざたされている。それに関連し、大手行への大規模な公的資金注入の必要性も指摘されている。
「ペイオフの凍結解除は、小泉首相が何度も繰り返しており、再延期はあり得ない。自民党もその方針であり、議論の余地はない。(公的資金も)結果として入ることになるだろうし、国有化という選択肢も当然あり得るだろう。今も『必要があれば公的資金を入れるし、そのために15兆円用意している』というメッセージを発しており、これ以上はっきりしたメッセージはあり得ない」