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A4紙1枚が不良債権処理額すべてを物語る――。決算発表を控えた先月初め、まさに金融庁の特別検査が始まろうとしていたとき。そのときすでに1枚のメモは存在していた。小さく折り畳まれたA4サイズのその紙には、大手金融グループの名前と簡単な数字が書かれているのみ。しかし、この数字こそが株価の下落に悩む大手銀行にとっては、命綱でもあった。そこにはマーケットからみた各行の不良債権処理額の最低ラインが記され、これをベースに金融機関は「不良債権額を積み上げていった」といわれる。にわかには信じ難い話であろう。だがこれは現実である。
●銀行界を1人歩きする有力アナリストの数字
ある有力アナリストが示したというその数字は
(1)みずほホールディングス<8305>のみずほフィナンシャルグループが1.5から1.8
(2)三井住友銀行<8318>が1
(3)UFJホールディングス<8307>のUFJも1
(4)三菱東京フィナンシャルグループ<8306>が0.5―となっている。
カンの良い方ならすぐにピンとくるであろう。実はこの数字、マーケットから見た不良債権処理額の最低額を示したものだ。あくまでもこのアナリストが印象だけで語ったものに過ぎないが、「この額を下回ればマーケットでは不良債権の処理が十分でないと失望売りにつながる」ことに直結してしまった。
さらにこの数字は銀行界を一人歩きし、当の銀行界では対応を1つ間違えば大手銀行といえどもマーケットから退場、もしくは今後、取り返しのつかない失点を負う事になるかもしれないと受け止められた。
●偶然と言うにはあまりに一致する数字の列挙
「やれる事は全部やる」、「ここで血を流しV字型の回復を目指す」と、大手銀行の財務担当者が口を揃えたのは今中間期の決算発表だ。大手銀行14行の今期の不良債権処理額は合計6兆4450億円。当初に計画していた額の3倍にも達した。個別に見ると
(1)みずほ2兆円
(2)三井住友銀行が1兆円
(3)UFJが2兆円
(4)三菱東京4800億円―である。
並んでいる数字がどこかで見たようものであることを、もうお分かりいただけただろうか。すべてはあの有力アナリストが示した数字が元になっているのだ。決算発表の席上で大手銀行の首脳や幹部は、皆、これで特別検査の結果を見込んで十分な引当と最終処理を行う事になると胸を張ったが、その数字の根拠は大手銀行の本当に一握りの人間しか知らない事なのである。どこにどう引当金を積み増して、どこそこは法的整理に移すという具体的な事実は、青木建設<1886>のように事態が顕在化してこない限り、誰も確かめる事はできない。つまり信じろといくら言われてもそれを直接、確かめようにも確認のしようがない事なのである。
●演出家たちは苦悩する?つじつま合わせの積み上げ額
1つ例を挙げよう。ある行では中間期の決算に向けて各行の積み上げた不良債権の処理額が、はじめ年間1兆円にも満たないものであった。その後、先のアナリストが示した数字が一人歩きを始めている事を知るや、1兆5000億円前後まで増やす方針を決め、傘下の3行に処理額の上積みを指示した。しかし、他行が何か大胆なリストラと不良債権処理をやってくるのではないかいう噂や、1兆円を超える規模になるという行もあるといった疑心に駆られ、結局は1兆8000億円にまで処理額を膨張。すぐに金融庁へ報告したのである。
しかし、その直後、霞ヶ関界隈から漏れた情報を元に大手紙がその内容を1面トップで報じた。これに対して同行首脳は、一様に不快感を隠せなかったという。マーケットにサプライズを起こし株価の下落を止めたいといった、同行首脳の思いはさらに強まり、その報道を否定し、嘲けるかのように2兆円の大台に乗せてきたのである。また、別の金融機関についても同じ事が言える。当初は、1兆円程度で抑えるつもりが、トップが思いつめる余りに、2兆円まで処理額が膨れ上がったのだ。トップの頭には“ライバルに負けていられない”という子どものケンカにも似た感情が湧き上がっていた・・・そう言われても全く否定は出来まい。
こうした例を見れば、この数字がいかにいいかげんなものなのか良く分かる。過去の倒産確率などから個々の企業を厳密に査定し、それを積み上げた結果だなどと、よくも言えたものである。中小企業への引当や処理などもつじつま合わせの道具程度にしか考えていないのだ。中小企業だけで見ても、大手金融グループ1つで2000から3000億円程度は、簡単に増やしたり減らしたりできるのだ。
●ターゲットはすでに決まっている?2002年2月からが本当のヤマ場
金融庁の特別検査は、確実に進んでいる。本当のところは今回の検査はプレ検査的な位置付けで、各行には来年1月、再度検査に入るのだと言う。しかし、年が明けてからの検査の方が「本検査」であるとすれば、決算を控えた来年2月から3月に破たん処理のヤマ場を迎える。
さらには金融庁の検査官はプレ検査が済んだ後、各行に特定の企業数社の名前を挙げ、これを対象に年明けの検査を実施すると言い残している。つまり金融庁はすでに法的整理に移すものや私的整理するものなど、自らターゲットを絞り込み大手行の決断を迫っているのだ。大手銀行がどの位不良債権処理を実施するかは、金融庁にとって一応格好がつけば良い事であり、その中身は“自分たちが決める”と考えているのだろう。
●賢明なマーケットは欺けない
それでもマーケットは賢明である。銀行株は売られ続け、各行の首脳が期待した“驚きの効果”もあっという間に消え失せてしまっている。今ではもう話題にも上らない。大手銀行によるマーケットの信任を回復するための方策に、奇策は存在しない。金融庁も、マーケットも、不良債権処理の後に起こる厳しい現実だけを見ているのだから。
(東山 恵)