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1. 青木建設倒産はアメリカのご機嫌とり
第87代内閣総理大臣・小泉純一郎氏は、 いつも、“オレのやっていることは真の構造 改革だ”――そう自分に話してきかせているだろう が、たぶん、そのことを一番信じていないの は自分自身であることに気がついていない に違いない。
それを象徴するのが、青木建設の“倒産”を 受けてこう口走ったことだ。
「構造改革が順調に進んでいる表われでは ないか」(産経新聞12月7日付)
案の上、自分が大きな勘違いをしていること がまるでわかっていない。
青木建設は“建設族のドン”と呼ばれた故・ 竹下登元首相の元秘書官が社長を務めた ゼネコンで、99年に経営危機に陥った際、 銀行団から2000億円の債権放棄を受けて 生き延びたのも政治力によるものといわれ た。それでも、ゼネコン不況の中で再建は 思うように進まず、11月から始まった金融 庁の大手銀行に対する特別検査で処理を 迫られる大口融資先に陥っていた。
もし、青木建設の“倒産”をきっかけに次々 と大手ゼネコンの淘汰が進み、≪ゼネコン 救済のための公共事業バラ撒き≫という自民党政治の破綻、大転換につながるので あれば、小泉首相がいう「構造改革の表わ れ」といえなくもない。
実態は逆である。
青木建設は金融庁の特別検査のさなかの1 2月6日、東京地裁に民事再生法の適用を 申請し、事実上倒産した。が、経営陣は責任を問われるどころか、そのまま居座って再建にあたるうえ、公共事業の入札にもこれまで通り参加できる。建設業界再編はおろ か、業界を食わせるための公共事業削減に もならない。今までと何も変わらず、どこが構造改革なのか。
民事再生法申請とは、要するに金を貸した 銀行と借りた企業が、“払えない”“仕方がな い”と、借金を棒引きにする法律の手続きに 他ならない。銀行側も、裁判所を通した法的整理ならば堂々と責任を免れる。
青木建設破綻は政治的にも絶妙なタイミン グだった。
民事再生法を申請した実にその日、アメリカからケネス・ダム財務副長官が来日した。 金融庁の特別検査の時期を選んだように来日したのは、小泉首相がした不良債権処理 の対米公約のチェックが目的だったと見ら れた。
日本側は、“ハイ、この通りきちんと不良債 権処理を進めています”――とばかりに、青木建設倒産を“演出”して、柳沢伯夫金融 相はダム副長官に得意満面のポーズをとっ た。
青木建設の倒産は、小泉首相にとってはア メリカ向けの御機嫌取りであり、金融庁は不 良債権処理をアピールでき、銀行と青木建 設の経営陣は責任回避に成功したという意 味で、小泉流にいえば≪四方一両得≫の 出来レースだったとみるとわかりやすい。
小泉首相はゼネコン1つつぶした程度でい かにも不良債権処理が進んで、金融再生へと着実に向かっているかのように装ってい る。
2. 資金流出阻止の特別チームを編成
しかし、現実には、小泉首相の想像をはる かに超える、とんでもない重大な事態が起きているのである。
全国の地方銀行では、預金流出の大洪水 に見舞われ、堤防は決壊寸前の危機に襲 われているにもかかわらず、金融庁はそうし た肝心な情報を隠して平然としている。
本誌は金融庁と日銀、銀行協会だけが持つ門外不出の資料を入手した――。
別表は、地銀64行、第2地銀56行すべて の2001年3月末から10月末までの預金残高の推移をまとめたものだ。
一見して≪洪水前夜≫の緊迫感に包まれている様子がうかがえる。
この8か月の間に地銀全体の預金量はざっ と1兆8000億円、第2地銀は4600億円あ まり減っている。
いくつかの銀行は今年度に入って預金流 出が止まらずに日に日に身を細らせてお り、とくに甚だしいケースでは、10月の1か 月間だけで2000億円も預金が落ちたとこ ろもある。
もはや、全国的に地方銀行は取り付け一歩手前の厳しい現実に直面しているといって も過言ではない。
それだけに、危機に直面している銀行側も 預金流出阻止のために考えられるすべての手を打ち、防戦に必死だ。
関東のある中堅地銀では、経営不安説が 流れないように特別の調査チームを編成した。幹部が語る。
「中堅以下の金融機関にとって、預金の流出は死活問題になる。最も怖いのは風説の流布だ。狭い地域を営業エリアにしている だけに、いったん経営に問題があるという噂 が流れると、それが事実であろうと嘘であろ うと、あっという間に預金が引き出される。経 営体力に関係なくても、行員のスキャンダル なども命取りになりかねない。今はジリジリと 預金が出ている状態だが、これを加速させ ないためにネガティブな情報が一切流れな いよう、特別な調査チームを編成して警戒 にあたっている」
西日本の第2地銀では、大口預金者の解約対策専用の窓口をつくった。
今回、預金流出が目立つ銀行に取材したと ころ、異口同音に指摘したのが≪ペイオフ ショック≫だった。
2002年4月に解禁されるペイオフにより、 定期など一部の預金や金融商品は、銀行が破綻した場合に預金保険機構によって 保護される上限が、現在の無制限から100 0万円になる。とはいえ、普通預金や当座 預金などは従来通り無制限に保護され、1000万円を超えた定期預金については、銀 行の資産を売却した資金で払い戻すことに なっている。たとえペイオフが解禁されて も、現実には預金者への影響は小さいとみ られているのだが、そうした情報公開がほとんどなされていないために、不安心理を煽 る結果になっている。
3.決算月だけ預金急増の仕組み
金融庁と銀行業界の情報隠蔽の最たるものがこの表に他ならない。
かつて銀行の預金量は≪経営健全度≫を 示す指標とされて、各行とも競って毎月の残高を公表していた。
大蔵省は金融護送船団行政の下で、大銀行を預金量でランク付けし、その順位が変わらないように行政指導してきたのである。
ところが、いったん金融危機が始まると、政府も銀行側も掌を返すように3月末と9月末の決算期以外の預金量を一切公表しなく なった。毎月の預金残高がわかると、どの 銀行からいくらの預金が引き出されているか が一目瞭然となり、預金者の銀行選別が進 むことを恐れたからだ。
今や情報漏洩を防ぐために、銀行協会で は秘密警察まがいの相互監視体制まで敷かれている。
そうした情報隠しが銀行自体の首を締める 結果になっていることに、なぜ、早く気がつこうとしないのだろう。
それというのも、各銀行の9月中間決算をみると、軒並み大幅な赤字を計上した都市銀行をはじめ、地銀、第2地銀を含めて、本業の収益を表わす業務純益で赤字に転落しているところはほとんどないのである。
当然だろう。預金金利はゼロに近く、その一方で銀行は口座維持手数料などを次々に導入しているうえに、中小企業からは貸し剥 がしを進めているため、本業では儲かって いるのだ。バブル期の放漫経営のツケであ る不良債権処理のために、本業の利益で穴埋めしているから、最終的には赤字にな らざるを得ない。
そうした実態を預金者が正確に知れば、パニックは防げるのに、銀行側がやっているこ とは預金者をどう誤魔化すかの情報操作ば かりだ。
改めて表をみると、ほとんどの銀行で3月と 9月の預金量が他の月に比べてズバ抜けて大きい。一目瞭然、決算期の公表される数字だけが水増しされていることがわかる。
大手地銀幹部が告白した。
「預金を増やすのは3月31日と9月30日だ けです。その日だけ大口預金者の企業や自治体に頼み込んで預金してもらう。しか し、翌日の4月1日、10月1日には引き出し ているから、当然のこと、4月、10月には預 金が大幅に落ち込んでいる」
預金者を欺くこうした仕掛けが、金融庁、日 銀、財務省の目の前で、まさに白昼堂々と やられている。
4.“大蔵天下り銀行”救済の談合
金融庁は地銀や第2地銀のそうした情報操作には見て見ぬふりをしている。それだけ危機が深く進行しているからである。
「現在、経営状態に不安があると分析して 監視体制をとっている要注意銀行が、地銀 では16行、第2地銀は23行ある。問題は、 そのうち地銀9行と第2地銀の14行までが 旧大蔵省OBが役員に天下ってきた≪大蔵 銀行≫という点にある。それらを強引に再編すれば、金融庁と財務省の関係が悪化 し、金融行政に大きな支障をきたす」(金融 庁幹部)
ありていにいえば、天下り先をつぶしたくないということなのである。
旧大蔵省では、事務次官や局長経験者の 最高幹部は政府系金融機関などの特殊法 人に天下るのが慣例だったが、それ以外の 官僚の天下り先は中小金融機関だった。
中には、代々の頭取が銀行局長や次官経験者で占められている横浜銀行のようなケースもあるが、多くの銀行では局次長や部長クラスのキャリア官僚を頭取に迎えて大蔵 省との緊密な関係を築いてきた。それが護 送船団行政の基礎となってきた。
ところが、吉田正輝元銀行局長が頭取として乗り込んだ兵庫銀行が95年に破綻した 例を見てもわかる通り、役人の知恵で金融業ができるはずもなく、それら≪大蔵銀行 ≫の多くは、金融危機の中で苦しい経営を 強いられ、それを救済するために、金融庁 も情報隠しに走っている。
米ハーバード大学客員教授で、日本経済 研究の第一人者、トム・リフソン氏は、そうした金融行政の不透明性こそが最大の問題 だと指摘する。
「小泉首相が最初にやるべき構造改革は、 これまでの政権に欠けていた政治、行政、 経済、金融などあらゆる分野の透明性を確 保することです。一部の利権や権益を持つグループだけがいい思いをするような例外 をすべて排除し、全体に同じルールの網を かけることが改革の大前提です。
これほどの高い支持率があればそれは可能なはずで、日本の再生にはそれしかな い。しかし、私が見る限り、今も官僚や特殊 法人、利権を握る政治家グループたちの影 響力は強く、彼らは国民には見えない裏に回って改革をつぶしてしまうだろう。小泉首 相の本当の真価はそこで問われるが、彼は それらのグループの要求に少しずつ譲歩 し、例外を次々と認めてしまう。あとは意味 のない予算の分捕り合いに際限なく巻き込 まれ、改革は失敗に終わるだろう」
改革はまだ何一つ具体的に進んでいない のに、やたらと“成果”を強調する小泉首相 の危なっかしさが目立つ。
5.元首相の後援銀行を巡る確執
さらに、もう一つの 危機が同時進行 している――。
11月以降、ほぼ 毎週のように信用 組合や信用金庫 の破綻が続いて いる。2001年に つぶれた中小金 融機関は30に達 した。
金融庁は信金、 信組については つぶれるにまかせ ているが、その理由がまた屈折している。旧大蔵省で金融行 政に携わってきた有力OBが核心をついた 言い方をする。
「金融庁は、2002年4月のペイオフ解禁以 降に金融破綻を起こせば、預金者のパニッ クを招くと警戒しているが、たとえ信用組合 や信用金庫といえども、今、次々と倒産させ ることはかえって預金者の不安を広げること にしかならない。まして、業務純益をあげて いる金融機関を淘汰していくことは、それだけ経済規模を縮小することにつながる愚策 だ。金融庁の本音は、4月以降になると処理が面倒だから、今のうちにつぶしておこう というものだ。本当に厳正で公正な行政を 目指すというなら、まず債務超過が疑われ ている地銀などからつぶせばいいが、そうしようとはしない」
前出の大蔵OBが指摘した≪債務超過銀 行≫の問題は、金融庁のいびつな談合行政を象徴している。
その地銀A行は、かねてから経営陣の情実 融資や迂回融資が問題視され、金融庁も 検査の目を光らせてきた。ところが、破綻に 追い込まれるどころか、実態を把握しているはずの金融庁は、それを完全に見逃してい る。
その背景には、ある大物政治家の暗躍が あったという。その議員は小泉首相にも強 い影響力を持っており、小泉首相自身、問 題の地銀の関連会社幹部と親交がある。
今や金融庁内部でA銀行の問題に触れることはタブーとされているが、政治力によっ て金融行政がねじ曲げられ、金融機関の生殺与奪の権が握られているとは、まだこのレベルなのかと暗然とする。