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日本銀行が19日の金融政策決定会合で、当座預金残高目標を「10−15兆円程度」に引き上げるともに、長期国債の買い入れ額を月6000億円から8000億円に増加することを決定した。銀行株を中心とする株価の下落、信用不安の高まり、政治圧力などを受けた窮余の策で、政策効果は期待薄。日銀はこれでまた一歩、非正統的手段に近づいた。
速水優総裁は17日の衆院で、「これまでのところ潤沢な資金供給を行ってきており、長期国債の買い入れ増額も今、必要な状況になっているとは考えていない」と言い切った。その舌の根も乾かぬうちに買い入れ増額に踏み切ったことで、速水総裁自身と日銀の信認が大きく低下するのは避けられない。
そもそも、3月の量的緩和策の枠組みは、長期国債買い入れ増額を「当座預金残高を円滑に供給するうえで必要と判断される場合」と限定しており、短期オペで資金供給に支障のない現状で、その必要性は皆無に近かった。にもかかわらず、当預残高を大幅に引き上げ、それまで慎重だった長期国債買い入れ増額に踏み切ったのはなぜか。
長期国債買い入れ増額は政治的ポーズ
今回の決定は、2重の意味で“アリバイ作り”の色彩が濃い。まず、政府、米政府などへの政治的なポーズ。複数の米国政府幹部は、何を買うかは日銀が判断すべきで、金融緩和の結果として円安になるのであれば容認する、という姿勢を水面下で伝えていたといわれる。しかし、日銀の一部から出ていた外債購入論議は、為替介入権を有する財務省国際局が強硬に反対。塩川正十郎財務相と速水総裁がそろって否定したことで、立ち消えになった。
日銀が現状維持を選択した場合、円安が進んでいた為替相場が反転したり、信用不安の高まりから大手邦銀や大手企業が破たんすれば、その引き金を引いたとして、日銀がスケープゴートにされる可能性が強まっていた。政治圧力が強まるなかで無策を貫くことで、年明け以降の通常国会で、日銀法改正の勢いを強めたくないといった心理が働いたことも想像に難くない。
次が、長期国債買い入れを増額するためのアリバイ。当預残高は足下で9兆円前後、年末が近づけばさらに増えるのは確実だ。既に「6兆円以上」という目標のもとで青天井の資金供給が可能だっただけに、下限を1、2兆円引き上げるだけでは実質的な金融緩和にはならない。市場へのサプライズを狙ったのと、国債買い入れ増額という金融緩和の“実弾”を正当化するためにも、当預残高の大幅な引き上げが必要だったと言える。
昨年初めと同様、雪崩を打って追加緩和も
日銀が「調節上の必要」もないのに国債買い入れ増額に踏み切ったことで、3月の量的緩和の枠組みから逸脱し、当預残高に代わる事実上の操作目標として、長期国債買い入れが採用され始めたと取ることも可能だろう。一段の金融緩和の手段として国債買い入れが採用されたということは、「日銀券発行残高」という上限も早晩、撤廃されるという思惑が強まることは避けられない。
このタイミングで日銀に金融緩和を追い込んだ最大の要因は、銀行株をはじめとする株価の下落と、それに伴う低格付け社債の利回り上昇など、リスクプレミアムの上昇だ。しかし、当預残高目標と国債買い入れの増額で、こうした信用不安の流れを止めることができるとは考えにくい。そうだとすると、日銀の今回の決定は、今年1月の決定会合で表明された「議長から執行部への指示」と同じような意味、つまり“時間稼ぎ”とみるべきかもしれない。
速水総裁は1月19日の決定会合後、執行部に対し「流動性供給方法の改善」を指示したと発表。その後2月9日にロンバート型貸出の創設と公定歩合引き下げ、同月28日に無担保コール翌日物金利誘導目標と公定歩合引き下げ、そして3月19日、ついに量的緩和に踏み切った。日銀は今回も、雪崩を打つように量的緩和に走った昨年初めと同じ軌跡をたどる公算が大きくなったと言えそうだ。
日銀は死んだのか?
その先にあるのは、長期国債買い入れ額の上限撤廃か、社債やコマーシャル・ペーパー(CP)の直接購入、あるいは、受け入れ担保の適格基準の引き下げか。公表された決定会合の議事要旨や審議委員の講演などで、政府の政策との「合わせ技」の必要性が何度となく指摘されたが、今回も結局、日銀単独の政策変更という形にとどまった。
中原伸之審議委員は11日の講演で、日銀の量的緩和に対する姿勢について、1)意味がないとしながら結局導入した、2)導入したのに効果を疑問視している、3)デフレから脱却するために行っているのに、一方で先行きのハイパーインフレの懸念を強調している――と指摘。「世間に自己否定的な印象を与え、誤解を招きかねないし、政策効果を著しく損なう可能性がある」と批判した。
これはある意味で、腰の定まらない日銀の姿勢を非常に的確に言い表している。8月の一段の量的緩和の後、ある日銀OBは古巣について、コインを入れればすぐ商品が出てくる「自動販売機」にたとえて痛烈に批判した。機能が麻痺しつつある短期市場からは「日銀は死んだのか?」(東短リサーチの加藤出チーフエコノミストの最近の著書名)といった悲鳴も上がっている。日銀は同じような愚を、いつまで繰り返すのだろうか。