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●政府系金融機関見直しはまさに「壮絶な権力闘争」
何週間か前に「特殊法人改革をめぐって壮絶な権力闘争が始まった」と書いたが、政府系金融機関見直しをめぐる争いはまさにそれにあたる。今や“抵抗勢力のドン”といった趣きのある橋本龍太郎元首相は「景気がこんな状況の時に、政府系金融機関に指1本触れるようなことがあってはならない」と檄(げき)を飛ばし、これに呼応するかのように鈴木宗男、松岡利勝両氏ら橋本、江藤・亀井両派の強硬派議員が自民党行政改革推進本部の総会などで激烈な反対論をぶちまくるという図式がすっかり定着した。これに気押された石原伸晃行革担当相が「抵抗勢力の猛然たる抵抗にあった」と、小泉純一郎首相に“泣き”を入れると、首相からは「抵抗勢力ではなく協力勢力と思え」と、逆にハッパをかけられるという始末。
小泉首相にとってはここで後退すれば、日本道路公団など先行7公団の廃止・民営化方針が“画龍天晴”を欠いたものとなる。橋本氏らにしても、ここで小泉首相に一方的に押しまくられれば、「構造改革が先か景気対策優先か」という政策論以上に、田中派以来、四半世紀以上にわたる党内の主導権を失うことにもなりかねない。まさに「壮絶な権力闘争」が今行われているのである。
●橋本元首相が小泉首相と全面衝突
小泉首相は橋本内閣で厚相を務めただけでなく、同じ社労族で2世議員、しかも同じ慶応大学出身と共通項が多い。子分を作らない政界では珍しい一匹狼的存在の両氏だが、どちらかと言えばウマが合う間柄。しかし、小泉首相の構造改革に関する発言が日を追って過激さを増し、ついには衆院予算委で「小泉改革は橋本改革とは全く違う。橋本改革では道路公団の民営化など全く考えなかった」と、こき下ろすに至って、それまで先輩の立場から“大人の対応”をしていた橋本氏もついにぶち切れた。同氏は派閥の総会で「政策のリンケージを考えずに一点豪華主義の仕事をすると、どこかに必ず傷を負う」と反撃に転じた。
橋本氏は地方の講演でも「抵抗勢力のレッテルを張られるのを恐れ、言うべきことを言わなくなったら、この国はおしまいだ」と、自ら抵抗勢力を宣言するなど、同氏と小泉首相との全面衝突の図式がすっかり出来上がっている。
●「正面突破か妥協か」、首相の正念場
小泉首相が、これほどまでの激しい抵抗にもかかわらず政府系金融機関見直しにこだわる理由は、政策金融の縮小や廃止が首相の長年悲願としてきた郵政民営化問題と表裏一体を成すためだ。政策金融を切り込めば、必然的に郵貯や簡保などで吸い上げた膨大な資金が政府系金融機関に流れ込むという財投システムの崩壊につながる。逆に言えば、こうした目的が明確になればなるほど、抵抗勢力の反対が強くなることにつながる。その意味では、小泉首相にとっては、先の道路4公団の改革よりもさらに困難な道という言い方もできる。
しかも政府系金融機関問題については、他の改革には賛成する自民党議員の間からも「総理はこの問題についてあまり詳しい知識を持っていない。持っていたら中小企業金融公庫と商工中金をくっつけるとか、そんなばかな考えが出てくるはずがない。日銀と東京三菱をくっつけるような話だ」「銀行は貸し渋りから、貸し剥がしになっている。地元からも、今政府系金融機関がなくなったら、うちはもう終わり。大倒産時代がくるとの声が上がっている」などの批判も根強い。正面突破か妥協か、まさに「小泉改革」は正念場を迎えている。
●「聖域」自民税調切り崩しに絶好のチャンスか
内閣が提出する法案や予算案を事前に自民党の部会、調査会、総務会などで審議決定する「事前審査」見直しも各種改革案件と密接不可分の関係にある。首相は民間の「21世紀臨調」の提言を受け、自民党国家戦略本部に具体策を指示したが、党内からは「政党政治や議院内閣制を無視するものだ」などの批判も強い。特に事前審査の最たるもので、今や首相の手も届かない組織となった自民党税制調査会の“関東軍”ぶりは、政府税調が全く形骸化する存在になるほど際立っている。
このため首相は最近、自民税調のドン、山中貞則最高顧問をわざわざ事務所に訪ね、(1)例年の日程を大幅に前倒しし、来年2月から税制の抜本改正の議論に入って欲しい(2)自動車重量税を一般財源に使わして欲しい―と、頭を下げたほど。もっとも「インナー」と呼ばれる山中氏ら自民税調専門家グループはほとんどが老齢化し、「議論する体力がないから、議論しないようにしているだけ」との指摘も党内から出ている。そのせいか、2002年度税制改正作業の最大の焦点となった発泡酒とたばこ税の増税問題も二転三転した挙げ句、増税反対の世論に押され、ついに見送りとなった。税調の力に陰りが見える今、首相にとっては「聖域」を切り崩すには絶好のチャンスかも知れない。
●無責任極まる塩川財政相の「満額回答」発言
特殊法人改革の一環である関西空港の2期工事をめぐって大阪13区選出の塩川正十郎財務相が扇千景国土交通相と会談した際、「国土交通省が要求すれば、満額回答する」と、族議員顔負けの発言したことが物議を醸している。思わず本音が漏れたのだろうが、巨額の負債を抱えながら2期工事を続けている関空会社の安直な救済策にほかならず、赤字だらけの国の財政を預かる立場の財政相の発言としては軽率極まりない。小泉首相が抵抗勢力の激烈な反対にあって四苦八苦している時に、言わば「城代家老」的存在の財務相がこれでは職務失格と言わざるを得ない。
[政治アナリスト 北光一 2001/12/17 11:16]