★阿修羅♪ 国家破産5 ★阿修羅♪ |
年明け早々からマスコミ各社の報道はダイエー<8263>一色となっている。ダイエーの再生で、日本経済が立ち直るかのごとく大騒ぎだ。しかし、大きく躍る見出しの中身、つまり報道されている内容が日を追ってどんどんしぼんでいることに気付く人は少ないであろう。長い間、不良債権問題の象徴とされてきたダイエー。今回の新再建策の策定には、政府が大きく関与している事は言うまでも無い。その再建策をとりまとめるまでの動きは、国民が多大な期待を寄せる小泉内閣の「改革」のイメージからは実は大きくかけ離れたものだった。
●総理の言葉の重さ〜迫られる「破綻と再生が両輪で機能」
「総理は、今回のダイエーの問題にえらく関心を持っている。大き過ぎるから潰すなとはっきりと言ったんだから、驚きだね。あの青木建設が潰れた時に構造改革は痛みを伴うものだなんて事を言ってひんしゅくを買った人がねぇ・・・変われば変わるものだ」。官邸のある幹部は、こう言って苦笑いをみせた。
その証拠に、官邸からの要請でダイエーの債権放棄に関する記事が出たその日に直ちに、今回の一件が小泉首相へ詳細に報告されている。ダイエーの破綻は、この時回避される事が確定した。では、なぜ小泉首相がここまで気にかけるのか。それは、竹中平蔵経済財政担当大臣が先頃、訪米した際にアメリカからあらためて確約させられた不良債権問題の解決のためには、企業の処理つまり破綻と再生が車の両輪のごとく機能しなければならない事は、いくら経済オンチの小泉首相でも理解できるはず。
もしダイエーの破綻が現実のものとなれば、大手銀行の破綻に直結する可能性があって潰せないとしたら、ダイエーを企業再生のモデルにしたいと考えるのは自然の流れかもしれない。構造改革であまり点数を稼げない小泉首相にとっては、もう一つの旗頭である不良債権問題が少しでも進展している印象を内外に与えたいと考えたのだろう。
しかし、小泉首相は、自らの言葉の重さを知っているのであれば、ここまでダイエーの再建に口先介入しなかったかもしれない。小泉首相がダイエーの再建に積極的だと伝わると、金融庁、経済産業省それに財務省などの関係省庁は、ダイエーの再建を支援する事が自らの使命であるかのように積極的な関与に出た。去年の暮れまでは、ダイエーの危機説ばかりが跋扈(ばっこ)していた霞ヶ関では、今やダイエーが潰れるなどと口にする役人はほとんど居なくなった。これこそ永田町―霞ヶ関直結の縮図でもある。
●裏事情〜ダイエーコケれば皆コケる???
昨年末、大手金融グループのトップが金融庁に密かに呼ばれた。別々に金融庁の担当者からヒアリングを受けたが、その内容は極秘とされた。実はその時、金融庁はダイエーの再建に対する各グループの考えを聞き出している。金融庁の特別検査で各グループには、ダイエーの再建をどう進めるのか、1月中旬までに考えをまとめておくようにと宿題が出ていたのだから、年明け後から始まる再建計画策定に向けた下調べ的な意味があったのであろう。その際、関係するグループのトップは口を揃えて「ダイエーを潰せば、ウチが持ちません。金融危機が起きます」と答えたという。
その頃、メインバンクの三和・東海両行では、並行メイン4行(当時)がそれぞれ1000億円ずつ合計で4000億円の債権を放棄する案が浮上していた。しかし、これには、他の2行が反対。これに対して、三井住友銀行<8318>は、ダイエーに債権放棄を実行したら株主代表訴訟で痛い目に遭いかねないと拒否してきた。
一方の富士銀行は、1000億円という額にかみついた。富士銀行は、当初から自らがダイエー向けの債権に対して今中間期で引き当てる600億円程度なら放棄に応じられると考えていたのだ。富士銀行は、今中間期で、ダイエーの債権者区分を実質的に下げ、要管理先債権並みの引き当てを積んだ。つまり、それ以上の支援となる債権放棄には応じられないというのである。
ところが連休最終日の1月14日、この案がまたしても一変する。債権放棄する場合、先に全銀協が中心になってとりまとめた私的整理に関するガイドラインに縛られる・・・それを嫌う意見が出た。さらに債権放棄する前提として、関係する金融機関がダイエーの財務内容を精査するまでに2、3カ月はかかるものとみられ、ダイエーの2月決算までに実質的な作業が間に合わず、ダイエー本体が市場の圧力に耐えられないという判断があった。これでは債権放棄など論外である。急きょ、債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)を中心に検討が始まり、これに主力行が出資した1200億円の優先株の減資を組み合わせる案で折り合った。これは富士銀行の案だったと言われている。金融支援の総額こそ4000億円超となって、最初の案とあまり変わらないように見えるが、実は内容が大幅に後退している。机上での激論の末、旧三和・東海銀行のUFJグループ<8307>と富士銀行、それに三井住友銀行の主張を取り入れた折衷案に落ち着いてしまったのである。
●火中の栗を拾う人間がいない〜「さまざまな意味で高評価」の高木社長
もう一つ、大手金融グループ側には負い目があった。私的整理のガイドラインに沿って、債権放棄を行った場合、高木社長の責任問題が浮上するからだ。各グループのトップの高木氏への評価は、みな“さまざまな意味で”非常に高いものがある。そつなく、それに何のためらいも無くリストラを実行している姿が評価につながっている。もし高木社長が、責任を問われ辞任へ追い込まれた場合、これに代わる適当な人間が他に見当たらないのだ。
高木社長は中内功オーナーが実権を握っていた当時、関連会社に在籍し、中内体制下では「逃げ足の早い人間」とか「世渡り上手」とか言われた人間である。その人間が今、ダイエーの再建を担っているのだから、世の中、不思議なことばかりである。だが中内功オーナーが自らの保身で内部の優秀な人間を切り捨ててきた結果が、次代を担う人材がまったく見当たらない現状を招いたことを考え合わせれば、なるべくしてなったともいえる。乱暴な言い方だが、金融グループにすれば、自分たちに忠実であればダイエーの社長は誰でもいいわけだ。高木社長はその役目を健気にこなしているのだ。
●「ダイエー」は単なる始まりにすぎない
ダイエーは、明日1月18日にも、金融支援も含めた新再建計画の骨子を発表する。しかし、その計画が、机上の空論に終らず確実に実行されていくかは高木社長の手腕に委ねられている。ある大手金融グループの首脳はこう語る―「ダイエーは始まりにすぎない」。ダイエーの陰で、大きな金融不安の芽が膨らみ始めている。金融危機の再燃と公的資金の再投入が、いま現実のものになり始めようとしている。
(東山 恵)