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一部通信社の配信を受けた、ごく小さな記事、いわゆるベタ記事が1月10日付の新聞紙上に掲載された。わずか15行程度の記事だが、金融界には衝撃が走った。記事の中身は、金融庁が三菱東京フィナンシャル・グループ<8306>傘下の東京三菱銀行に対し「通常検査」に入るというものだ。金融・資本市場で台風の目となっている「特別検査」ではなく、あくまでも通常検査。なぜこの事実がインパクトになったのか―。
●予想より3カ月の「前倒し」
金融庁は今月8日、検査局幹部自らが22日から通常検査を開始すると同行幹部に通告した。時事通信報道でこのニュースが金融界に広がると、他行の企画担当者は一斉に情報収集に追われた。同行に対する通常検査は「サイクル的には早くても年度明けになると見られており、3カ月も前倒しになった」(大手行筋)ためだ。
大手行と所轄官庁との橋渡しとなる銀行の「MOF担」(旧大蔵省担当)は、大蔵省スキャンダルの発覚以降、表向き存在しないことになっている。ただ金融庁担当者、つまり「FSA担」は未だに個別行ごとに存在し、通常検査のサイクルや検査のポイントを探っている。しかし今回、FSA担の大半が東京三菱銀への通常検査をつかめなかった。同庁幹部から直々に連絡を受けた同行も、この中に含まれる。
通常検査が注目を集めているのは、「金融危機を回避するため、政府当局がまたもや公的資金の一斉注入を画策しているのではないか」(銀行系証券)という連想につながるからだ。
折りしも経営再建中のスーパー、ダイエー<8263>に対する再建支援策の調整がヤマ場を迎えている最中である。「ダイエーに万が一の事態が起これば、取引行の資本不足が顕在化し、金融危機が現実のものとなる」(同)と構えた向きが多かった。それだけに、大手行の中で最も財務内容が健全な同行に検査が入るとなれば、「嫌でも公的資金が一斉注入された3年前を思い出さずにはいられない」(大手行幹部)と映った訳だ。
●柳沢大臣の“後退発言”
公的資金の一斉“再”注入観測を更に煽ってしまったのが、11日の柳沢金融担当相の発言だ。同相はペイオフ解禁後も、実質的に預金を全額保護する方針を示唆。またこのところ経営不振で破たんが相次いでいる信金、信組についても「(預金保護の)可能性は否定できない」と指摘した。
小泉首相は4日の年頭会見の中で「金融危機を起こさないため、あらゆる手段を講じる」と強調したが、「不良金融機関を潰してから対策を講じるのか、丸ごと問題を先送りして危機を回避するという意味なのか判然としない」(外資系投信幹部)といぶかる投資家が多かった。同相発言は「公的資金の注入で、やはり問題は先送りされてしまう」(別の投信幹部)と受け止められてしまった。まして異例のサイクルで東京三菱銀に検査が入るのである。
渦中のダイエーについても、主力取引行が産業再生法の適用を検討、経済産業省側もこれを受け入れる方向で調整中だ。実現すれば、国ぐるみでダイエーを救済する枠組みができ上がる。金融界についても「東京三菱という一番健全なところに公的資金を注入し、またもや問題の先送りを図るというシナリオが動きだしている」(同)との観測が急浮上しているのは、市場からみれば当然のリアクションといえるだろう。東京三菱銀への「通常検査」は、大きな波紋を広げている。
(相場 英雄)