投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 12 日 19:10:28:
大手銀行は9月中間決算で相次いで赤字を計上、中間配当も見送られる。銀行が「問題企業30社」に象徴される要注意先企業への貸し倒れ引当金を積み増せば、期末には配当どころか、資本不足から公的資金の再注入も避けられなくなる。銀行“国有化”の足音が聞こえてきた。
銀行の不良債権処理の最後の切り札となるのか。金融庁が大手銀行に対して、異例の「特別検査」を始める。その後には、大手行への公的資金再注入=”国有化”の方向がちらついている。だが、政府内の意思統一ができずに、先行きは読めそうにない。
平野 純一(編集部)
●精鋭部隊を編成
金融庁が大手銀行15行の審査担当者を集め、「大口債務企業のリストアップをしてほしい」という要請を行った。10月11日のことである。
政府の「改革先行プログラム」が発表(9月21日)され、金融庁は大手銀行に対する「特別検査」を行うことになったが、要請は、検査の事前準備のために必要なものだった。
要請と同じ11日の朝、森昭治金融庁長官は、東京の新高輪プリンスホテルで講演し、当初は来年1〜3月に行う予定だった特別検査の前倒しを明らかにした。本当は柳沢伯夫金融担当相が行う予定だった講演だが、米国の同時多発テロ事件の影響で急遽、森長官にバトンタッチ。森長官は「(特別検査は)1回で勝負がつく話ではない。すぐに始める」と、検査への意気込みを見せた。
各行への要請内容は、2001年9月末で貸出金が100億円以上の企業を対象に、債務者区分が「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」など、どこに区分されているのかを再点検する。さらに「正常先」に分類されていても、行内格付けの50番目以下の企業はリストアップするというものであった。
11月に始まる今回の特別検査は、一般的に行っている「包括的」なものとは異なる。「多額の債務を抱えているA社の案件で、債務者区分が適正かどうかを調べさせてもらいます」と、具体的な企業名を明らかにした上で検査に入るのだ。通常は、ベテラン、中堅、若手がチームを組んで行うが、今回は300人いる検査官の中でもベテラン中心の精鋭部隊を編成するという。
これによって、銀行が抱える不良債権の実態を明確にし、早期に問題解決に結びつけるとするのが金融庁のスタンスである。
だが、金融庁の前身・金融監督庁が98年6月に発足して3年半。不良債権問題の解決に絶対的に必要なこのデータを、金融庁はなぜいまごろになってまた調べようというのか――。
●小泉・竹中vs 柳沢
そもそも、今回の特別検査を金融庁はやりたくなかった。「人手も十分でないし、これまでに何度もやっている」(金融庁関係者)というのがその理由である。銀行側も思いは同じ。「検査、検査で対応に追われたら、仕事にならない」と嘆く。
特別検査実施を、改革先行プログラムに強引に押し込んだのは官邸だった。その背景には9月14日に破綻したマイカルがある。マイカルに対する債権が、引き当てを3〜5%しか積まない「要注意先」に分類されていたことから、官邸サイドは危機感を強めた。そこで、9月21日までのわずか1週間、実質的には2〜3日で、特別検査実施をねじ込ませた。
不良債権問題を本当に解決するには、実際の不良債権処理額を”公式”につかまないことには前に進まない。マイカルの破綻は、支援銀行が「うちがちゃんと支えてます」と繰り返しアナウンスすることに、何の意味もないことを明らかにした。来年4月にペイオフ解禁が迫り、「金融クライシスを危惧する人たちにとっては、もはや不良債権問題は夜も眠れないほど差し迫った問題になった」(政府関係者)という事態に陥っているのである。
だが、それを最も心配しなければならない官庁である金融庁の”ノーテンキさ”に業を煮やしたのが、今回の特別検査指令である。
これまでの金融庁の検査とは「銀行の決算をどう”作るか”が先にあり、そのお尻が決まってから、不良債権の分類先が決まる」(金融アナリスト)というのが実態だ。
つまり、メーンバンクの立場からすると、例えば巷間に出回っている要注意先「30社リスト」にあるような問題企業向けの債権をどう評価するかは非常に大きな問題だ。引き当てを十分に積めば、決算はできなくなる。まずは決算ができるように数字を整えてから、引当額が決まるというものだ。
金融行政に、いわば大きな志を持って発足したはずの金融庁だが、内情は旧大蔵省時代からの、銀行との馴れ合い体質は何も変わっていない。
いや、金融庁もいわゆるウラの数字は持っているのかもしれない。しかし、それはオモテには出てこないから、従って政策には反映されない。というより、ウラの数字をオモテに出したら金融システムが破綻するかもしれないから、ウラのままにしておいた。
そしてこの10年間、何も前進がなかったばかりか、事態は悪化した。破綻したマイカルが「要注意先」に分類されていたという事実は、それを如実に示したのである。
●キーパーソンがいない
だが、特別検査を始めるのはいいとして、いよいよ待ったなしになった不良債権処理問題について、政府・自民党内に、イニシアチブを発揮してこの問題にあたるキーパーソンが見当たらない。
マイカル破綻以降、この1カ月半の官邸、自民党、金融庁3者の動きは、まったく統制がとれていない。その中で特別検査だけがなし崩し的に決まった。
小泉純一郎首相は、不良債権問題の早期解決を望んでいるが、自民党の誰かを動かして改革にあたろうとするルートは持っていない。だから、木村剛・KPMGフィナンシャル代表らを巻き込み、「30社リスト」を利用して、問題解決を急ごうとした。竹中平蔵経済財政担当相も、もちろんこのラインに乗っているが、竹中氏にも自民党にパイプはない。
木村氏らの持論は、特別検査の結果にもとづき、銀行に対して、現在「要注意先」や「正常」に分類されている問題企業向けの債権に十分な引き当てを積ませ、資本不足になったところには、公的資金を注入すればいい、そして大幅な資本不足の銀行は一時国有化も辞さない――。そうすることによって、不良債権問題を一気に解決するというシナリオである。もちろん、官邸サイドがそこまでドラスティックな処理の覚悟を決めているかどうかは疑問ではある。
だが、いずれにせよ、小泉・竹中ラインが、柳沢金融担当相を説き伏せて特別検査が実現した。しかし、金融庁の基本的なスタンスは「公的資金の注入は必要ない」である。
柳沢氏は、旧大蔵官僚時代、税務畑が長く、いまでも「税務署長時代、わずか数万円の税金を集めるのにも苦労した。そんなに安易に、銀行に税金を入れるわけにはいかない」というような話を、ことあるごとに披露して、公的資金再注入を真っ向から否定する。銀行のリストラについても、「相談役がいつまでも残っているのはおかしい」と厳しい注文をつけ、銀行の自助努力の重要性を強調する。
森長官は、リストラに関しては柳沢担当相より柔軟だが、公的資金は必要ないというスタンスは依然として変わっていない。
金融庁の基本方針はあくまで「まずは市場からの調達による資本補充を……」である。
こんな政府内の軋轢を見透かすように、9月21日の改革先行プログラムの発表後、銀行株は売りたたかれた。
UBSウォーバーグ証券のアナリスト、笹島勝人氏によれば、不良債権処理を完了させるためのステップは5つある。
▽第1段階・ディスクロージャー の強化
▽第2段階・金融検査の強化
▽第3段階・不良債権処理額の大 幅積み増し(大口貸出先への引当 金の増額や、債務企業の法的整理 を指す)
▽第4段階・RCC(整理回収機 構)の強化(不良債権の買い取り 対象の拡大、買い取り価格の弾力 化、二次損失の負担、資金調達の 多様化など)
▽第5段階・産業構造改革(市場 からの退出ルールの強化)
第5段階の退出ルールの強化の意味は、例えば国土交通省は、ゼネコンの倒産に備え、取引銀行に求める履行保証金額を、現在の工事請負金額の10%から30%に引き上げる方針を固めているが、このように、経営不振のゼネコンは公共工事から締め出すことで、市場から撤退してもらうルールを厳しくすることを指している。第5段階まで行って、本当の意味での不良債権の”最終処理”が完成する。
このような順序立てで、処理がすんなりと進んでいれば問題はない。しかし、不良債権処理問題が叫ばれて久しいというのに、現状は、いまだに第2段階をウロウロしているのが実態なのだ。
市場では、改革先行プログラムで、第4段階の「RCC強化」程度まで方向性が示されるのではという観測があった。この期待に支えられて、8〜9月の銀行株のパフォーマンスはよかったのである。
しかし、同プログラム発表前の9月20日の終値から見た直近の株価(10月23日終値)は、TOPIXが3・9%上昇したのに対し、銀行株は13・1%も下落している。10月10日には、東証1部上場の銀行株時価総額はバブル崩壊後最低となった。売り浴びせたのは、主に外国人投資家とヘッジファンドと見られるが、「まさに失望売りの状態だった」とクレディスイス・ファーストボストン証券のストラテジスト、市川眞一氏は振り返る。
●マイカル以下の企業もたくさんある
では今回の特別検査で、果たしてきちんとした検査結果が出てくるのだろうか。
評価できる点の一つは、今回の検査は、「株価」と「格付け」に焦点をあてて行うと宣言、マーケットの評価という客観性を持つファクターを入れたことだ。株価が額面を割れていたり、格付けが投機的になっている企業は当然、厳しい検査の対象になる。
株価について言えば、10月23日現在、東証1部上場企業で、「倒産株価」と言われる額面50円割れの企業は、ゼネコンを中心に17社ある。
格付けについてはどうだろう。スタンダード&プアーズの格付けでは、破綻したマイカルは、破綻前日の9月13日は「B」だった。それが突然の破綻に追い込まれたのである。
同じ流通業界では、ダイエーは、すでにマイカルより2ノッチ低い「CCC+」。同じく問題企業が多いゼネコンでは、例えば債務免除を受けたハザマ、熊谷組は、ともに最低ランクの「CC」である。
ダイエーをウオッチしている、スタンダード&プアーズ・ディレクターの福富大介氏は「格付けを見る上で重要なのは、きちんとしたキャッシュフローが確保できているかどうか。本業の儲けで借入金が返せているかだ。その観点から言えば、ダイエーの格付けはかなり低くならざるをえない」と語る。
このように、市場や格付け会社からは、すでに「ノー」を突きつけられているものの、かろうじてメーンバンクの支援で生き長らえているような企業に対しては、きちんと引き当てを積んでおくのは、銀行として当たり前のことだ。その辺に厳しいチェックが入るのも、これまた当たり前の話である。
特別検査の実施で、今後金融庁が大手銀行に対して行う検査は、年5回になる。だが米国では、検査官が常駐している。検査体制としては、ようやく米国に追いついてきた形になった。
しかし市場関係者は、「どのような検査結果を出しても、金融庁は批判を免れないだろう」と見る。
厳しい結果を出せば、膨大な引当金の計上が必要になり、金融システム不安も生まれかねない。一方で、従来と同じような結果しか出さなければ、不良債権問題の解決は何も進まない。進むも地獄、退くも地獄である。
大赤字は避けられず だが仮に厳しい結果を出して、銀行は一層シビアな債務者区分の割り当てを求められたとしよう。それは銀行にとって、2002年3月期決算の”破綻”を意味する。
11月22日と26日に発表される大手銀行の9月中間決算は、連結の最終赤字が5700億円程度にのぼり、全行が配当見送りという、惨憺たる内容になる見通しだ。
みずほフィナンシャルグループは、マイカルの破綻処理の影響で、最終損益は2600億円の赤字。期初予想の900億円の黒字から一転する。三菱東京フィナンシャル・グループは、4170億円の株式評価損を計上し、やはり期初予想の1500億円の黒字から700億円の赤字に転落する。
それよりも、重要なのは02年3月期の決算見通しをどのように発表するかだ。
現在、最終調整のさなかだが、「これが理にかなったものになっているかどうかが、最大の注目点」と、ドイツ証券ディレクターの秋場節子氏は指摘する。もし、論理的におかしな見通しが出てくれば、その瞬間に銀行株は、9月21日以降のように再び売りたたかれるだろう。
そして、本番の02年3月期決算は、常識的に考えれば、やはり大赤字は避けられない。9月中間期に各行が大幅赤字を余儀なくされているのは、マイカルの破綻で1500億円もの損失処理が発生したみずほを除いては、不良債権処理というより、株価の下落による評価損計上の影響が大きい。本当の意味で不良債権処理が決算に反映してくるのは下期である。
銀行の貸出先の70%は中小企業である。長引く不況で、倒産は昨年とほぼ同じペースで進んでいる。中小企業は昨年以上だ。黙っていても償却額はどんどん増えている。
もちろん、さらなる大手企業の破綻が下期にあるかないかは非常に大きい。昨年3月期も、大手銀行の当初の不良債権処理見込み額は1兆数千億円だった。それが実際には4兆3000億円に膨れ上がったのは、銀行の想定になかった破綻が相次いだからだ。
●検査結果は漏れる……
金融庁が本気になって不良債権を査定すれば、十分な引き当てを積む必要が生じ、3月期決算は公的資金注入なしには乗り越えられない。それどころか、3月末を待たずに、金融クライシスを誘発しかねない恐ろしいシナリオもある。特別検査の結果の一部が外部に漏れてしまうことだ。もし仮に「A社に対する債権は、要注意先から破綻懸念先に移った」などということが市場に伝われば、それだけで、そのA社の株は次の日から売り浴びせられるだろう。
金融庁は情報が外部に漏れないよう”暗号を使って”でも厳しく管理する方針だという。金融庁検査局がある第4合同庁舎12階は、どの部屋にも「関係者以外立入禁止」の張り紙がしてあり、部外者が勝手に入れないようになっている。
しかし、まったく情報が漏れないということがあり得るだろうか。いな金融庁は絶対に漏らさないとしても、流言蜚語は飛び交うかもしれない。もしそこで名前が挙がった企業は、すぐさま否定会見を行うのだろうか。まさに「魔女狩り」のような状況に陥りかねない。
3月決算に向けて、公的資金の”直接注入”に頼らない抜け道として考えられているのはRCC(整理回収機構)の活用。自民党は金融再生法の改正を目指し、今国会に改正案を提出する。買い取った企業の再生を目指す役割の強化、現行法では厳し過ぎると言われている債権購入価格を弾力化することなどが目的だ。銀行にとっては、運用の弾力化で、RCCが、実質的により高い価格で債権を買い取る可能性が出てくることになり、この点に、不良債権処理を進める期待をかけることになる。
だが、RCCに移行すると予想される破綻懸念先に分類された債権は、RCCの中で当然「二次ロス」が発生する。この補填は、形を変えた公的資金の注入である。
この二次ロスを補うために、金融再生勘定の枠としてある残高は約5兆円。だが本格的に不良債権を処理しようとすれば、5兆円ではとても足りないだろう。
RCCへの債権移管は外資系ファンドのいい餌食になることは目に見えている。だが、もはやそんなことも言っていられなくなった。つまり、決定的な処理スキームは何もないまま、不良債権処理問題は、来年3月末を一つのゴールに突き進んでいるのである。
●今は特別検査を見守るしかない
大量の資本不足が発生し、仮に公的資金の再注入を受ければ、配当はあり得ない。無配になれば、株価はさらに下落するだろう。銀行の経営者責任を問われるのは必至だ。
今回公的資金の注入がなくても、主要銀行の自己資本のうち、すでに30%以上は「国家資本」となっている。UFJは金融庁の資本自己調達の方針に従い、2000億円規模の優先出資証券を発行することを決めた。金融庁は評価したが、現在の大手行の資本のうちBIS基準の「Tier1」に占める優先株は実に30%に達している。
「金融機関の資本がこれほど質の低いもので構成されている先進国はほかにない」(金融アナリスト)ほど、日本の銀行の資本は劣化しているのである。
今回再び公的資金が入れば、日本の大手銀行は、もはや「国有化」である。
足利銀行の飯塚真頭取は、政府保有の優先株が来年3月期に無配となることが決定的になった責任をとって、辞任することを表明した。公的資金注入行で初めてとなるこの出来事が、大手行には無関係と言えるだろうか。これは”荒れ狂う”3月期決算に向けたプロローグに過ぎない。
特別検査を発端に一気に火がついた形の、来年3月末に向けた大手銀行の不良債権処理問題。だが、これまでのところ、官邸にも、自民党にも、金融庁にも、どこにも決定的な当事者能力があるとは見えない。「金融クライシスが来るのか、穏便に事が進むのか、3月末にいったいどんな結末を迎えるのか、誰も予想できない」(金融アナリスト)というのが実態である。いまはただ、金融庁の特別検査を固唾を飲んで見守るしか術はない。
●戦々恐々 「身に覚えのある企業」
「漠とした30社だとか、過剰債務だとかいう議論がなされ、きちんと(4行による支援体制や再建計画の進展などダイエーの置かれた状況の)メッセージが伝わっていない」
10月19日午後、2002年8月中間期の決算発表の席上、ダイエーの高木邦夫社長は、いわゆる「要注意先30社リスト」や今後金融庁で行われる予定の「特別検査」について聞かれこう答えた。
ダイエーだけでなく、過剰債務を抱え巷間「リストに名前が挙がっている」と囁かれる企業はリスト問題に過敏だ。「憶測だけで記事を書かれた場合はこちらも毅然とした態度で臨まざるを得ない」と過剰債務を指摘されるある大手企業の広報担当者は声を荒げる。
銀行幹部のなかには「特別検査に入ったからといって、銀行がこれまで必死に支えてきた会社を破綻懸念先にまで落とせるかは、疑問」と首を傾げる。だが、その一方で「あえてこれまでの検査とは別にやるのだから、『すべて問題なし』と銀行の主張する通りに自己査定を据え置くわけにはいかないだろう」(別の大手幹部)と、“犠牲”となる企業が出ると見る。
改革先行プログラムには不良債権最終処理を促進する項目も加わった。正常先や要注意先から破綻懸念先に引き下げられ、不良債権が増大する事態への対策だ。RCC(整理回収機構)の買い取り価格の弾力化といった機能強化や再建ファンドの設立がそれである。しかし、これらが本当に機能するか、疑問が残る点が多いのも事実だ。
例えば、特別検査の結果、メーンや準メーンらがRCCへの売却を決断しても、地銀や生保など下位の金融機関が同じように売却に応じるとは限らない。特に担保をとっていて、その担保権を行使して回収したほうがRCCに売るよりも有利(回収できる金額が大きい)なら、当然そうするだろう。その時点で収拾がつかなくなり、RCCへの一括売却、再建ファンドを利用した再建スキームは破綻する。加えていえば、RCCに官民合同の再建支援部隊が新設されるというがそれが必ずうまく機能するという保証もない。
新規発生は3年以内(既存は2年以内)という掛け声だけで、抜本的な対応策のないまま特別検査のスケジュールだけが進む。銀行関係者や「身に覚えのある企業」はまさに戦々恐々だ。
(濱條元保 はまじょうもとやす=編集部)
●売られた銀行株
外国人投資家の銀行株に対する懸念は依然根強い。これは大手邦銀の抱える不良債権処理問題の先行き不透明さの現れだと市場関係者は口を揃える。
9月21日、政府・与党が公表した「改革先行プログラム」の中身を見たマーケット関係者らは愕然とした。期待されていた整理回収機構(RCC)強化のための具体案などが示されなかったからだ。一部の市場関係者らは、大手銀行への公的資金再注入とセットで、銀行の不良債権のオフバランス化が進むと期待していたからだ。
これを受けて、21日の銀行株はそれまでの上昇基調から一転、下落に転じた。改革先行プログラムが発表される前日9月20日の三井住友銀行の終値は1070円。それが10月22日の終値は710円と34%も下落した。同行株は連日売買高上位に顔を出し、外国証券から執拗に売られた。また、同期間に、みずほホールディングスは32%、UFJホールディングスは28%、三菱東京フィナンシャルグループは18%、それぞれ下落した。
それまで、外国人投資家は大手銀行株に対しては、ある種の期待感をもって買いを入れていたが、一気に売りに転じたのは、公的資金の再注入の道筋をつくれない政府に対する督促といえるだろう。9月中間決算で数少ない黒字見込み行である三井住友銀行が最も売られたことは、それを示していると言えないか。
こうした動きについて、野村証券投資調査部の宮島秀直氏は「銀行株の下値は限られてきている。システムリスクが大きいため、もはやショート(売り)ポジションを取るほうが危ない」と指摘するように、大手銀行株はその後徐々に値を戻しつつある。しかし、今後特別検査の結果や政府の姿勢次第で、いつ再び「市場の攻勢」を受けるとも限らない。
(野本寿子 のもとひさこ=編集部)
●銀行の実態を見れば来年4月のペイオフ解禁はありえない
政府は本気で、来年4月からのペイオフ解禁を行うつもりだろうか。預金者は1000万円以上の預金を本当に安心して預けられる銀行を選び終えただろうか。取引している銀行の不良債権処理状況や経営実態を、国民は本当に知り得たであろうか。銀行不信は完全に払拭されたのであろうか。
ここに一つの統計がある。日本銀行の調べによると、国内銀行の1口(1口座であり、1預金者ではない)当たり1000万円以上の預金の口数は、2001年3月末現在、前年比3・7%増加し、総額は2・1%減少した。国内預金全体は0・6%増、口数も0・8%増になった。これは、ペイオフ延期の1年間で、1000万円以上の定期預金が細分化し、銀行離れを起こした懸念を示している。
都銀、地銀等の業態別では、第二地銀が口数で4・3%減少し、総額でも8・7%減少した。第二地銀からの預金流失が顕著になっている。この10年で全国で17行が破綻したが、そのうち14行は第二地銀である。
預金保険法の改正により、銀行に対する特別公的管理の恒常化で、いざとなれば首相の決断によって公的資金15兆円を投入して、ペイオフを凍結することも可能となっている。
確かに、1927年の昭和金融恐慌時に比べれば、銀行破綻に対するセーフティーネットは充実した。しかし、政府は銀行の不良債権、経営実態を何も公表しないまま、預金者だけには自己責任を強要するのか。
ペイオフ解禁が目前に迫った時、732万口、245兆円もの1000万円超の預金が、一斉に動き出せば、金融システムに何が起きるか、誰も予測できるはずはない。
(及能正男 きゅうのまさお=西南学院大学教授)