投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 12 月 04 日 18:39:45:
米格付け会社ムーディーズはきょう、日本国債の格付け引き下げを発表し、先進国としてはかつてのイタリア以来“シングルA”格に転落する可能性が高まった。市場関係者からは、もう一段の格下げが現実のものとなれば、海外の年金基金や中銀など主要な投資家が日本国債離れを起こす引き金にもなるとの見方が出ているほか、中長期的には国債の安定消化にも影響が出てくる可能性があるとの声が聞かれている。また、国際主要通貨国である日本の国債が、“シングルA”格に格下げされれば国際金融市場の混乱にもつながるリスクが出てくるため、格下げの整合性にも疑問が投げかけられている。
米格付け会社ムーディーズは、日本の円建て国債の格付けを「Aa2」から「Aa3」に引き下げ、今後の格付け見通しを示すアウトルックは「ネガティブ」に据え置いた。これにより、日本国債は将来的に「シングルA」格に引き下げられる可能性が高まった。
格下げ発表を受けた4日の円債市場では、長国先物12月限が前日比10銭高、10年最長期国債の利回りも一時1.380%まで低下する展開となり、格下げの影響は軽微なものにとどまった。
市場では、「寄り付き直後に1〜2分債券先物に売りが出たが、その後は動意に乏しくなった。9月にムーディーズがアウトルックをネガティブに変更したときから、年内に格下げに動くことは予想されていたし、アウトルックについてもネガティブになったことは想像していた通りだった」(上位都銀)との声が聞かれ、10年最長期国債の利回り1.400%での投資家の押し目買い意欲が引くことはなかったという。
しかし、市場からは、“シングルA格”が視野に入った意味は大きく、無視できないとの声が多い。
第一勧銀総合研究所の主席研究員の真壁昭夫氏は、「シングルAは、新しいBIS(国際決済銀行)基準では、リスクアセットにカウントされるため、クレジットリスクに神経質になっている金融市場では、海外勢などを中心に日本国債を嫌気する動きが出てくる可能性がある。中長期的には、日本国債にとって大きな影響が出るリスクがある」と話す。
実際に、ある外資系証券の幹部は、先週に米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズや欧州系格付会社フィッチが日本国債の格付けを引き下げた時点で、「織り込み済み」と淡々と語ったが、“もし格付けがシングルA各に転落していたらどうだったのか”との仮定については、「その時点で、日本国債を保有できない海外投資家が多く出てくることになるし、保有量を縮小しようとする向きも出てくるだろう」と話し、事態は様変わりするとの見通しを示していた。
また、リーマン・ブラザーズ証券・債券本部チーフ・ストラテジストの加藤進氏は、「リーマン・ブラザーズの債券インデックスでは、“シングルA”格付けも投資適格対象に入っているものの、投資家サイドからは、日本国債が保有対象として適当かどうか、見直す動きが出る可能性も当然考えられるだろう」と述べている。
さらに、複数の関係者からは日本が経常赤字に転落する可能性が指摘されているが、「資本の流入がなければやっていけない状況になったときは、高い金利で引き付けないといけなくなる。国内で資本調達できているうちは格下げの影響も限られるだろうが、資本逃避によって国内資金が枯渇するようなことになったら、外国資本を呼び込むコストも必然的に高くなる」(ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン証券のチーフストラテジストの水野正明氏)と慎重な声も複数聞かれている。
ムーディーズによると、先進7カ国でかつてイタリアが「シングルA」格に国債が格付下げされた経緯があるという。ただ、円はドル・ユーロとともに世界の主要通貨であるため、日本国債が“シングルA”に格下げされるインパクトは世界の金融市場に対して大きく、一民間格付け会社の判断を超えて、“政治マターになる”とのも見方も示されている。
別の外資系証券の関係者は、「日本の国債が“シングルA”に格下げされれば、グローバルな市場に対する影響が避けられない。海外投資家のなかで“持てない”向きが出てくること以上に、円という通貨は国際主要通貨であり、外貨準備で保有している海外の中央銀行が、保有量を落とせないが落とすことを考えなければならないという事態にもなり得る。日本国債がシングルA格に格下げされたときの影響の大きさとリスクを一民間格付け機関が負えるのかどうか疑問だ」との見方を示す。
ムーディーズのソブリン格付けで、「Aa3」の一段下の「A1」となっている国には、ハンガリーやチリがある(いずれも自国通貨建て/11月14日時点)。
今回の発表文のなかで、ムーディーズは、「日本は相当の基本的な強さを持っていることから、他の先進諸国よりもやや高い水準の公的債務を抱えていても、その債務を維持していくことが可能と考えられる」と加えているほか、今後の格下げの可能性について、「決定を下すまでアウトルックが1年ほど継続するのが通常のケース」(ムーディーズのシニア・アナリスト、トーマス・バーン氏)との見通しを示している。
市場では、「日本は外債を発行していないし、海外の投資家にしても円建て国債を買ってもらおうとしているだけで、次回の格下げの実際の影響は小さいかもしれない。ただ、当局としては国債安定消化のために、国債市場に海外投資家をできるだけ呼び込もうとしているだけに、海外投資家をめぐって格下げとの綱引きになりそうだ」(前出の水野氏)との声も聞かれている。