投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 12 月 03 日 09:51:21:
●国民には改革に耐える覚悟と余裕
皇太子妃雅子さまに待望のお子さまが誕生したことは、皇居にお祝いのため参上した小泉純一郎首相が2日、「あんなに和やかで明るい宮中は初めて」と述べたように、テロ、狂牛病、不景気と暗い話題ばかりの世相に射す一条の光となった。ただ試算によると、国内総生産(GDP)を0.1〜0.2%くらいしか引き上げる効果しかなく、株価も既に「織り込み済み」との専門家の声が聞こえてくる。しかし、これは実際に関連業界の実績見通しを積み上げただけに過ぎず、ご生誕による心理的効果を過小評価しているのではないか。
もちろん現在の景気低迷がさまざまな要因によって成り立っていることは間違いない。さりとて昭和初期の真に深刻な不景気とは異なり、実際に餓死者が出たり、娘を売ったりということまで起こっているわけではない。海外旅行は米同時テロの影響で急減したが、これは理由がはっきりしている一時的な現象だ。その証拠に国内では北海道や九州、首都圏では閑古鳥が鳴いていた熱海などにも観光客が押し掛けるなど、国民生活は一時期より苦しいものの、まだまだ余裕がある。
つまり、連続する暗いニュースによって不安が必要以上に増幅、強調され過ぎた結果、消費行動や経済全体が委縮しているのが現状だ。従って今、政治に望まれるのは、何をどのくらい改革(我慢)すれば、何年後には景気も国民の生活も良くなっているかという青写真をはっきり指し示すことだ。国民は今ならその覚悟も余裕もある。新宮ご生誕はそのきっかけとなり得る可能性を秘めている。
●“一方三両損”に終わった医療制度改革
医療制度改革は、道路公団など特殊法人改革に続くというより、さらに国民生活に密接に関わる大問題だけに小泉首相の手腕が期待されたが、残念ながら合格点とはいかなかった。首相は「結果よければすべてよし。最後は皆さんが三方一両損でいこうという方針を理解してくれた」と自画自賛したが、そうではないだろう。サラリーマンにとって本人負担が2割から3割へと大幅にアップするだけでなく、給料から天引きされる保険料という「見えない負担」も引き上げられる。
この改革案はとても「三方一両損」には値しないいわば“一方三両損”だ。中でも問題なのは、診療報酬を強制的に引き下げることができる「伸び率管理制度」の導入が見送られるなど、患者と同じように「痛み」を分け合うはずだった医療機関の負担が不明確に終わったことだ。今回の案は要するに税制と同じく、取りやすいところから取るというだけで、とても「改革」案とは言えない。
それにしても解せないことが2点。選挙も政治資金も心配する必要がない小泉首相がなぜ厚生族議員、あるいはそのバックにいる日本医師会を恐れる必要があるか。特定郵便局長会と同じく、日医にも武見太郎会長が率いていた頃のような昔日の力はない。なおも「単独で当選させる力はないが、落選させることはできる」などとうそぶくのであれば、やらせてみればいい。その代わり医師の優遇税制は一切認めない。次に、厚生族の親玉、橋本龍太郎元首相は今回、一体何をしていたのだろうか。香港で批判のコメントをしたのは聞いたが、とりまとめで積極的に動いた節はない。調整役の不在が「改革」をいたずらに混乱させている。
●敢えて外務省裏金問題に異論
外務省の裏金(プール金)づくりに関して、328人に上る大量の処分が発表された。もちろん国民の税金を私的に流用するなど言語道断であり、厳しく処分されて当然だ。その上で、批判を覚悟で敢えて異論も唱えたい。
まず第1に裏金づくりは、最近、週刊誌で検察庁のそれが暴露され話題を呼んでいることからも分かるように、どこの役所にもあることである。問題は、私的流用は論外として、普通に仕事する上で必要な経費が必ずあるということだ。つまり硬直的な予算の在り方を変えない限り、この手の金はなくならない。もちろん外務省以外でもだ。
第2に、以前にも指摘したように、この種の不祥事を防止するには外部による監査制度を導入する以外にない。仲間内で調べても不正はなかなか摘発できないだろう。
第3に、最もこの点が重要なのだが、裏金退治に躍起になるあまり、本当に必要な「機密費」までなくしてしまう愚を犯さないことだ。日露戦争時の明石元二郎中佐の対露工作の例を引くまでもなく、「平時における戦争」とまで言われる外交に使途を明らかにできない「機密費」は不可欠だ。そもそも「機密」費を「公開」するなんて自己矛盾に過ぎない。よく「透明性の確保」などということが言われるが、「機密費」は「透明」にできないから、「機密」なのである。つまり、外務省にたまたま不祥事が続いたからと言って、機密費までなくすようなところまで進めば、それこそ日本外交を「角を矯めて牛を殺す」という事態にもなりかねない。これは国益の本質に関わる論議であり、わずか2億円ばかりの裏金と引き換えにできる話ではない。
第4に、外務省がなぜここまで国民に嫌われるのかを省員一人ひとりは考える必要がある。その最大の理由は、同省が本当に国民の側に立っているのか疑わしい点があることだ。1つには、在外公館の在留邦人に対する態度の冷たさであり(少なくとも多くの国民はそう思っている)、2つめに、任地の相手国政府に理解を示すあまりに、一体どちらの国の立場に立っているのか分からない外交官がいるということだ。以上、これまでほとんど誰も言っておらず、敢えて指摘させていただいた。
●中国などの労働人口急増がデフレ圧力に
加藤紘一元自民党幹事長が11月28日に日本評論家協会で行った講演のうち、経済関係部分を採録する。
1、格付け会社S&Pが日本の国債格付けを下げた。あのイタリアよりも下になったことはかなり深刻に受け止めなけらばならない。S&Pにしてもムーディーズにしても、金融市場における影響力は重いインパクトを持つ。
1、テロ事件もあったし、税収も落ちており、2次補正を組んだりする時には、国債発行枠30兆円を守り続けるのは中々難しいことになってきたなと思った。国債整理基金から2兆5000億円をと言ったのは塩川正十郎財務相の小泉さん思いの気持ち。しかし私だったら、小泉さんに追加公債発行をわびながらお願いする。2次補正で解決できるほど日本経済の状況は甘くない。簡単な病気だったら公共事業をちょっと積み増せばいいが、今の日本の病状は深刻で重篤だ。ちゃんとここで手当てすべきだ。
1、病因の一つは冷戦構造の崩壊の影響だ。中国、ロシア、東欧から30億人が労働市場に参入してきた。今世界にプレッシャーをかけているのは、労働人口の急激な増加による構造的なもの。世界的な労働市場構造からくる深刻なデフレプレッシャーが感じ取られていない。
1、短期的には円と人民元のレートがいつまでも現在の形で進みうるかだ。世界的に各国で中国人民元の適正レートがどういうものであるか、中国のWTO加盟をきっかけに議論する場が設けられるべきだ。
1、李登輝台湾前総統と台北で1時間ほど話し合いする機会を持った。「中国も1人当たりのGNPが5000ドルになったら違う国になるんじゃないか」と言ったら、李氏は「3000ドルになったら1つに政党で政治まで仕切ることはできなくなる。その時、(中国の)政治と社会は変わるのでは」と言っていた。
1、金さん銀さんは希望を与えてくれたが、心の中に「年金が来なくなったら」という心配を残した。日本経済の500兆円のうち、300兆円が個人消費。これが湿っている。老後についての心配からくる消費抑制を解き放たないと経済は上手く回っていかない。総理大臣がテレビに出て、安心感を与えるのが重要な時だ。
(政治アナリスト 北 光一)