投稿者 sanetomi 日時 2001 年 11 月 30 日 16:18:49:
「別に大したことはない。どうということはない」――。自民党の麻生太郎政調会長は28日のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の格下げについて、こう言い切った。
また、市場関係者の中にも、投資対象として「いま、国債以上に安全だと思われるのは、一部の高格付け企業に限られ、(それらに)運用資金のニーズを満たせるほどの規模はない」(巣鴨信用金庫・国債資金証券部・西村匡弘氏)との声が聞かれる。
本当に大丈夫なの???
日本の国債はその残高の95%を国内の投資家が保有している。だから、欧米の格付け機関が、日本下げを行ったとしても、それがそく、“外圧”となって国債市場をかく乱することにはならない。
国内にほかの有力な運用先が見つからない中、今後、しばらくの間、国内の投資家は、国債に投資しつづけるに違いない。確かに、この意味で言えば、何らの変化は起きないだろう。
だが、中・長期的に見た場合、本当に「大したことはない」のか。
「国際的な評価が格下げの要因」
今週に入り相次いだ日本国債格下げ。これで、外国格付け会社3社が日本国債をすべて最上級の「AAA(トリプルA)」から2段階下のランクに格付けしたことになる。
格下げの原因について、東京三菱証券の三島拓哉氏は「日本のファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)悪化や金融システムの不安定さに対する国際的な評価が近年、格下げという形で顕在化している」(投資戦略部・チーフクレジットアナリスト)と分析する。
「A格への格下げは影響が大きい」
S&Pが格下げを発表した28日の債券相場は、先物市場で買い戻しが優勢となったため、3営業日ぶりに上昇(利回りは低下)した。東京外国為替市場も格下げ発表直後、一時ドルが買い戻しされたものの、その後は海外投資家の円の買い戻しが断続的に持ち込まれた。
市場では、当初2段階以上の引き下げを想定しており、むしろ1段階の格下げにとどまったためだ。一部では「AA+」から「A+」への3段階の引き下げ予想もあった。
だが、「2段階までは想定されていたので、1段階だったから今回は買われたけれど、A格への格下げということになれば、影響は大きい」(西村氏)。
「垂れ流しを止めた」
塩川正十郎財務相は28日の定例会見で、「これから(格付けが)上を行くかもしれない」と発言した。その理由は「日本の国債には自信を持っている。(30 兆円枠を設定することで国債の)垂れ流しを止めた」からだ。
確かに、国債の垂れ流しは止めたかもしれない。でも、2次補正予算の財源となるNTT株売却益は、国債整理基金特別会計に繰り入れられた国債を償還するための資金だ。無利子とはいえ、いずれ返済しなければならない借金を新たにしただけにすぎない。
国債償還のための原資を減らすことで、償還リスクはますます高まる。方法は異なっても、債務の返済を将来に先送りしているだけのやり方は今までの路線に変化はないといえる。
「さらなる格下げは3分の2の確率」
フィッチとS&Pは、引き続き格付け見通しは「ネガティブ」を継続するとした。また、ムーディーズは現在、引き下げ方向で見直し中だ。
投資家は「経済協力開発機構(OECD)諸国と比較した日本の財政状態、不良債権処理、先の見えない景気を考えると、A格でもおかしくない」(西村氏)と、今後の格下げを懸念する。
S&Pのアジア太平洋地域ソブリン格付け担当者である小川隆平氏は「さらなる“日本格下げ”の確率は3分の2」だ明言した。政府赤字額の増加、構造改革の遅れなどが発生した場合、さらなる格下げの可能性は十分にある。
格付け会社、投資家はそれほど甘くはない
フィッチは、日本政府が、自身を取り巻く経済問題の深刻さを否定し続け、従来路線に固執し続けるならば、時の経過とともに、日本の信用力と格付けはさらに侵食されることになる、と注意を促す。
「(国内投資家は)かなり国債を持っているし株式市場が低迷している現在、不良債権処理の原資は債券しかない。もし、格下げ、金利上昇(価格低下)となれば、影響はかなり出るし、別の運用方法も考える必要がある」。
中・長期的に見た場合「大したことはない」とは言い切れないのではないか。