投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 26 日 21:23:39:
古来から「小さく産んで大きく育てる」とは子作り、子育ての要諦であった。IPO(新規株式上場)も、また同様である。小さく産めば母体(流通市場)への負担は軽く、大きく育てば、父親(発行会社)の育児努力(経営能力)の評価は高まり、身内(投資家)も成長(値上がり)を目の当たりにし、すべての関係者がハッピーとなる。11月30日に公開価格42万円で東証1部に上場される電通(4324)が、こうした誰もが勝ち組になる「ウイン・ウイン」型のケースになるかといえば微妙なものがある。むしろ大型上場のなかで、これほど好悪の評価が分かれるのも珍しい。ということは、当面の対処方針としては市場の評価が定まるまでは、昨今人気のIPOと同様に子育てに参加するより、短期勝負に徹する方が無難ということになりそうなのである。
●絶大な信頼度の“野村ブランド”
電通は、国内広告市場のトップシェアをもつ広告代理店のガリバーで、広告主は大手企業を中心に6000社以上に及び、事業領域も新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマス媒体広告はもとより、販売促進活動、ニューメディア広告、各種イベント、スポーツ・マーケティングなど多岐に展開している。今期予想の売り上げは1兆8134億円(前期比横バイ)、経常利益607億円(同16%減)、1株利益2万2204円を予想しており、売り上げ、経常利益の絶対水準は既上場の同業他社のアサツー ディ・ケイ<9747>のザッと4倍、9倍である。
だから電通株へのプラス評価はまずこの観点に立つ。公開価格42万円は、予想PER18.9倍で、これはアサツーの来期(今期予想は赤字)ベースの37倍、隣接業種のテレビ各社の21〜24倍にくらべて割安で、上値余地は大となる。公開価格は、仮条件価格帯の上限で決定したが、これについて訂正報告書で「海外市場の需要株数が予想された株数を上回っていた」と注記されており、上場後に外国人投資家、機関投資家が買い参戦する好需給もうかがわせる。また「野村ブランド」への信頼性も、少なからず株高要因となりそうなのである。同社の主幹事の一角を占める野村証券は、上場延期のあと12月17日に上場を決定した野村総研の単独幹事ともなっている。相次ぐ大型上場を総力を上げて成功させるはずで、狂牛病ショックなどで業績減額修正、公開価格割れとなっている日本マクドナルド<2702>の二の舞いにはならないとするのである。
●セル・サイドの思惑が見え見え〜マイナス評価に直結
一方、マイナス評価も当然、存在する。その最たるものはセル(発行会社)サイドの思惑が見え見えとするものだ。電通は、今回の上場に際し2.5万株の公募増資と11万株の売り出しを実施するが、売り出し株数が公募株数をこれだけ上回るのも稀れである。大株主の共同通信社、時事通信社の売り出しは、資金調達優先のウラ事情も伝えられている。まして時価総額6000億円に達する大型上場は、バブル後最安値に沈む病気療養中のマーケット、投資家無視の食い逃げ上場と反発される可能性が潜んでいる。
また、同社株は業態として景気敏感株に属するが、広告業は経産省の特定サービス産業動態統計でも8月以降売り上げが急減速、将来見通しも落ち込み、業績展開に暗雲が立ちこめている。株式需給リスクでも、昨年4月に発行の株式交換条項付きの仕組み債が上場時にハネ返り、上値圧迫要因となる懸念もある。下世話な点では、同社は来年10月に2350億円かけた新社屋が汐留に完成するが、ビルを建てた会社が経営不調となる過去の事例を気にする市場筋もやはりいる。
以上、プラス評価とマイナス評価のいずれが勝るかによって、上場後の同社の上値が決まることになる。結論として「足して二で割る」曖昧さがつきまとうが、チャンスは大いに狙いつつ、深追いは禁物―が現時点での結論になりそうだ。
○URL
・“超大型新人”に期待・不安・思惑・利害〜電通、30日上場へ
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200111/22/20011122141019_94.shtml
・電通は「冬場の麦わら帽子」?〜小泉退陣なら株価躍進も
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200111/15/20011115110007_30.shtml
・ニュースから材料〜電通株上場へ、気になる初値は?
http://www.paxnet.co.jp/cgi-bin/bulletin/bulView.cgi?ads=yes&
frame=investment&boardid=31002&billid=310021006742529&
parentId=0&page=1
[相馬太郎 2001/11/26 14:42]