投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 21 日 22:36:31:
外資が「日本」という餌をついばむ――。不良債権を買い漁るハゲタカファンドは、塩漬けの土地を安く買っては転売して、利益を稼いできた。だがここへきて、ハゲタカファンドが企業再生に乗り出している。不良債権ビジネスの現場で何が起きているのか――。さらに、その外資(リップルウッド)に買収され、今まさに再生過程にある新生銀行が、目指す金融とは何かを追った。
和田芳隆(編集部)
終戦直後、東京の焼け野原で、持ち主が生死不明なのをいいことに、縄を張りめぐらせて自分の土地にした男がいた。男は、その土地を資本に不動産屋として名を成し、区議会議員まで務めた。
それから半世紀――。バブル崩壊という”経済敗戦”の後、今度は外資が、日本の土地に縄を張りめぐらせている。もちろん外資は、正規の手続きを踏んで買っている。対象は、不良債権である。
例えば、この11月1日に看板をおろした熱海温泉の老舗、つるやホテル。経営者が融資を焦げ付かせ、担保となっていたホテルの土地と建物が競売にかけられた。
落札したのは外資系投資会社のニューアライアンスリミテッド。代理人の大木丈史弁護士は「つるやの物件の入手と維持管理、あるいは売却の目的のために設立された企業連合体」とだけ説明する。業界関係者の話では、世界的に有名な投資銀行が、背後に控えているという。
「お宮の松」の正面に建ち、温泉街のメーンストリートの中心に位置するつるやホテルが、今後どうなるのか、まだ明らかではない。
●外資「御三家」 ローンスター、サーベラス、ムーア
バブルの”負の遺産”としての不良債権を外資が買う動きは、1997年から始まった。この年の3月、東京三菱銀行がバルクセール(一括売り)で売却したことが、その嚆矢とされる。買い手は米国の穀物商社カーギルの子会社。簿価は50億円。
むろん、この価格で売買されたと信じる者はいない。バルクセールでは、簿価の5〜10%が売買価格の相場という。入札か、または相対取引。主だった買い手は、東京相和銀行を買い取ったローンスター、破綻した長崎屋のスポンサーのサーベラス、ヘッジファンドの顔も持つムーアキャピタル。この投資会社3社が”御三家”といわれる。ほかはゴールドマン・サックス、メリルリンチ、モルガン・スタンレーなど。さらに98年の法改正で、債権回収会社(サービサー会社)を設立できるようになったことから、日本企業も市場参入を果たしている。
バルクセールに出される不良債権とは、まず法的整理債権である。銀行が償却を済ませた案件だ。次が破綻懸念先以下の債権である。不動産担保付きもあれば、無担保もある。
不動産担保付きであれば、債務者から任意売却を受けるか、競売にかけて落札(自己競落)する。そのうえで抵当権をクリアにする、不法占有者を立ち退かせるなど、商品価値を高めたうえで転売するのである。当然、簿価よりは遥かに安い。しかしこれでも、買い手には利益が出るのだ。あるサービサー会社の関係者はこう言う。
「簿価30億円の不良債権を、バルクセールで3億円で買う。担保不動産を2億円で売却し、それ以外に3億円を返済してもらう。残債を放棄しても2億円の利益が出る。借金が棒引きされるわけだから、債務者にも事業継続のインセンティブになる」
レアケースだが「証券化」という手法も用いられている。モルガン・スタンレー証券が、これまでに3回手がけた。社債を発行して、不良債権を買い取るSPC(特定目的会社)にノンリコース・ローン(非遡及型融資)で資金を供給、債権を回収して償還していく仕組みだ。
不良債権は、今こうして”最終処理”されているのである。最近は買い手が増えたことから、バルクセールも入札が多くなってきた。価格も簿価の20〜40%まで吊り上がっている。外資系不動産投資会社のケネディ・ウィルソン・ジャパンの本間良輔社長は「大型のバルクセールになると、10社ぐらいの入札で値段も高くなり、ケガをする投資家も出てきた。撤退する企業の話も出ている」と話す。
投資家の常として、大儲けは声高に吹聴しても、損は黙して語らない。だが、そごうの不良債権の買い手は、かなりの損を出したといわれる。
実際、銀行がバルクセールに出してくる不良債権は、簿価より遥かに安いとはいえ、利益が出るようなものは自ずと限られてくる。特に劣悪な不良債権のことを、業界用語で”ポンカス”という。破綻しているが破産していない企業、不動産担保を処分してもなお残った債権などのことだ。だが一括売りなので、たとえポンカスが混じっていたとしても、束で買うしかない。
こうしたところにプレーヤー(買い手)が増えたから、競争が激化、価格上昇を引き起こした。いきおい撤退説が飛び交うことになる。
これに対し、某外資系証券会社の不良債権ビジネス関係者は「買わなくなった会社もあるが、昔ながらの少数のプロは、これからも買っていく」と、撤退説を否定する。それでも、バルクセールで売り物になるような不良債権が少なくなってきているのも確かなようだ。
●バブル型から不況型へ30兆円減って30兆円増えた
国際的会計事務所の子会社であるプライスウォーターハウスクーパース・フィナンシャル・アドバイザリー・サービス(PwCFAS)は、不良債権の売り手と買い手双方のコンサルティング業務を行っている。田作朋雄取締役パートナー(共同経営者)は「バルクセールに適した不良債権は、もう一巡したのではないか」と、こう言う。
「今日まで額面にして30兆円分が処理されたといわれるが、それは”バブル型”の不良債権ということができる。その後、日本経済の悪化に伴い、今度は”不況型”の不良債権が増えてきた」
今まで処分されてきた不良債権とは、このバブル型だったのである。不動産担保さえあれば、湯水のごとくカネを融通した”なれの果て”だ。さきの外資系証券関係者も「破綻懸念先以下はもう売り終わったのではないか。これからは要注意先が出てくるだろう」とみる。ちなみにバルクセールに適さないバブル型不良債権とは、山林、日本旅館、リゾートマンションなどだという。要するに、現時点で不動産としての価値のないものは、バルクセールであろうと売り物にはならないのだ。
もう一方の不況型不良債権とは、不況のあおりで債務者区分が引き下げられた企業向け債権のことである。現在までの総額は、およそ30兆円。バブル型を処分したのと同じ額だけ、不況型が増えたことになる。売り手の銀行が十分な引当金を積んでおらず、二次ロスの発生可能性が高い(典型がそごうやマイカルだ)。
そこで、債権の価値をある程度高めるために、債務者の企業を再生させていく――不良債権の”変質”に伴い、最近はこの方向にシフトせざるを得ない状況になっている。
田作氏は、債務者企業再生の手法として、次の2点を挙げる。
(1)M&A活用型。スポンサーを見つけたり、優良部門を切り離して再生をはかる。
(2)デット・リストラクチャリング(債務の再構築)。いくらまでなら債務を負えるかを計算、過剰な分はデット・エクイティ・スワップ(債務の株式化)などによって負担を軽減する。
これらの方法によって再生を遂げた後は、その企業(の株式)を売却するか、上場によるキャピタルゲインで利益を得る。
リップルウッドによる日本コロムビアの買収は、再生を目指す不良債権処理といえる。シーガイアはバブル型不良債権に該当するが、再生を目指すという意味で、同じカテゴリーにあてはめることができる。前出のサービサー会社のように、債務者に事業継続のインセンティブを持たせるのも、再生の1パターンといえるかもしれない。整理回収機構(RCC)の機能強化も、ポンカスをつかまされるだけに終わらせないことと並んで、企業再生のノウハウをいかにして確保するかが焦点になる。
バブル型不良債権の売買は外資の独壇場だったが、この不況型不良債権では、日本勢にも「地の利」がある。企業再生という分野では、日本人どうしの方が何かと都合がいい。大和証券SMBCやオリックスなどが、子会社のサービサー会社を通して、不良債権を買い取っている。
もちろん「再生にはヒト・モノ・カネが必要で、特にモノ=事業基盤がしっかりしていない会社は立て直せない」(田作氏)のであって、本業が傷んでいないことが前提だ。その一例が、10月に破産した配管部品メーカーのベンカンである。
ベンカンは580億円の負債を抱えて倒産したが、主力部門の継ぎ手製造では、世界のトップメーカーと呼べるほどだった。その部門を再生させるべく買収計画を進めているのは、英国系投資会社グループのシュローダー・ベンチャーズである。
厳密には同社はベンチャーキャピタルだから、企業再生という目的は同じでも、不良債権ビジネスとは言い難い。けれども、川島隆明マネージングパートナーの語る内容は、今後の企業再生の方法を探るうえで、きわめて示唆に富む。
「かつては銀行が企業を支えてきた。ベンカンもずっと興銀が支えてきた。戦後日本の経済成長は、それで成功した。だが、21世紀の企業再生のカギを握っているのは、プライベート・エクイティ・ファイナンスであろう」
●「失われた10年」で銀行が失ったもの
思えば”傾いた企業”を立て直すのも、銀行の役割だった。今も再建可能性の高い企業なら、たとえ不良債権化していても手放さないともいわれる。しかしそれだけの体力が、邦銀に残っているのだろうか。
不良債権として抱え込んだ企業を再生するためには、引当金を積み増さなければならないが、それは自己資本比率を圧迫する。売って損を出さなければ無税償却できないから、いつまでも抱えておけないという税制上の問題もある。バルクセールでも売り物にならないような不良債権を、未だに抱え込んでもいる。
民事再生手続き中の企業に融資するDIPファイナンスが注目を集めているが、たいがいの銀行経営者は「潰れた会社に何で”追い貸し”しなければならないのか」と難色を示す。富士銀行がフットワークエクスプレス向けに行った例もあるが、積極的に対応しているのは、ここに政府系金融機関としての生き残りの方途を見いだした、日本政策投資銀行と商工中金である。倒産した企業の資産劣化を防ぎ、早急な再生をはかるためにも重要な資金供給なのだが、そういう発想にも乏しい。このようなリスクマネーの供給を過度に恐れる姿勢が、不良債権ビジネスにおける外資の跋扈につながった。
実はシュローダー・ベンチャーズの川島氏は元興銀マンである。PwCFASの田作氏も、旧日本債券信用銀行の出身だ。戦後の日本経済に大きく寄与した銀行の出身者が、銀行が役割を果たし得なくなった分野で活躍している。銀行のおかれた状況を雄弁に物語っていよう。
その間隙を縫うかのごとく、不良債権ビジネスが、企業再生ビジネスになりつつある。ハゲタカファンドだと思っていたら、”リストラファンド”だった――。後で振り返ったとき、外資を中心とする不良債権ビジネスは、このような表現で総括されることになるのだろうか。
●あさひ銀行とゴールドマン・サックス不良債権処理で提携
あさひ銀行は11月12日、米大手投資銀行のゴールドマン・サックスと不良債権処理に関する業務提携で基本合意に達したと発表した。ゴールドマン・サックスが設立する債権購入会社に出資し、同行および関連会社が保有する不良債権をここに売却、不良債権処理のスピードアップを図る考えだ。この提携が市場に評価され、11月9日に終値で100円を割った株価が12日、100円を回復した。
あさひ銀行には2001年3月期末時点で破綻懸念先以下の不良債権が約8000億円ある。このうち2000億〜3000億円を新たに設立する債権購入会社を活用して処理し、残りを整理回収機構(RCC)などに売却する計画。また、あさひ銀行はゴールドマン・サックスと合弁で企業再生と債権回収を受託するサービサーを設立し、不良債権処理とあわせて企業の再生も目指すという。(編集部)